心機一転
これからの冒険にカイルも一緒に行くことを決め、俺はふつふつと沸き上がる高揚感とともに二日目を過ごした。
そんな二日目も気づけば終わりを迎え、カイルはすでに眠りについている。
俺も眠ろうと布団に身を委ねているが――、眠れない!
明日からの冒険に備えて俺も眠りにつきたいが、胸に残る高揚感が俺の眠りを妨げつづける。俺はこの高揚感を抑えながら、ひたすら目を瞑って朝になるまで耐えた。
◇
今日もまた朝日に照らされて目が覚めた。
中々寝つくことができなくて大変だったが、どうやら少しは眠ることができたっぽい。
外に出ると、昨日と同じようにカイルが家の前で身体を伸ばしていた。
俺たちは早々と朝食を済ませ、冒険に出るための準備にとりかかる。とは言っても、俺の準備は足りているし、カイルも荷物はそれほど多くないようで思いのほか早くに準備は整った。
「なぁ、出発する前にちょっとだけ寄り道してもいいか?」
準備が終わって出発しようと思った矢先、最後にカイルからひとつだけ頼みを受け取った。
「別に構わないよ? 急いでるってわけでもないし」
「そうか、ありがとな」
ポロッサに急いで向かう必要があるわけではないし、道中で気になるものがあったならば、どんどん寄り道したいとすら思っている。
それに、村を一度出発したら次ここに戻ってくるのがいつになるかはわからないし、やり残しがあるなら今のうちに解消しておくべきだろう。
それから程なく、俺たちはカイルの家を発った。
カイルを先導に深い草むらを歩くこと数分、色鮮やかな花や緑が飾られた場所でカイルの足がピタリと止まった。
「ここは?」
「俺の父さんと母さんの墓だ。今じゃ、こんなに荒れちまったけど、この場所は俺たち家族でよく来ていた場所だったんだ」
なるほどね。最後の用事は両親の墓参りのことだったというわけか。
――そういえば、もはや今さらすぎる話だが、俺の父さんや母さんは今頃どうしているんだろうか?
あまりにも急に死んじまったからきっと、仕事のチームメンバーにも迷惑かけちゃったよな。
正直、シトラ様からもらった新しい肉体で新しい人生を歩んでいる手前、死んだという実感をあまり感じていなかったりしている。
俺が物思いにふけっていると、カイルが両親のお墓の前に立って手を合わせた。俺もカイルの横で一緒になって手を合わせると、カイルが両親に向けたメッセージを語り始めた。
「父さん、母さん、俺にも友だちができたから紹介するよ。ツバサっていうんだ。――で、俺さ、こいつと一緒に冒険に出ることにしたんだ。だから、しばらくはここにも来れなくなっちゃうけど、心配しないで見守っててほしいんだ。――そういうことだから、じゃあな」
――なんていい子なんだ。俺なんか極めてしょうもない一件で両親より先に死んだ手前、両親に合わせる顔もないというのに……。
「ごめん、待たせたよな? 俺の用も終わったし、そろそろ出発しようか」
カイルは両親への報告を済ませたあと、ニカッと笑いながら言った。
そして、俺たちは新たな冒険の幕を開けるべく、村の入口を目指して歩き出した。
村の入口に着いた俺たちは、ここで一度立ち止まって村の方に振り返る。
ここまでの道中、すれ違った村人のすべてが俺たちに対して奇異の目を向けてきた。気にいらないが、これから始まる冒険のことを考えれば、そんなことはもうどうでもいい。
その一方で、静かに村を見ているカイルの顔には少し哀愁が漂っているようにも見える。きっと、今は亡き両親との思い出が少なからずこの村にあるからだろう。
「行こうぜ、ツバサ!」
それから間もなく、カイルはスーっと音を立てながら大きく息を吸い込み、何か吹っ切れたかのようなエネルギーに満ち溢れた声を発した。
「うん! それじゃ、行こうか。俺たちの冒険の始まりだ!」
俺もカイルに負けじと声を上げ、まずはポロッサを目指すための第一歩をカイルとともに踏み出した。
◇
「本当に村を出てまで、俺なんかについてきてよかったの?」
平原を歩き始めて間もなく、俺は思い切ってカイルに訊いてみた。こんなことを訊いた理由はただ一つ。
この冒険に一緒に行きたいと言い出したのはカイルだが、村を出たいと思っていたかについては今もわからないまま。答えたくないならば、これ以上追求するつもりはない。
――が、やはり、冒険に巻き込んでしまった以上は気にもなってしまう。
「あぁ、これでよかった。実をいうと、村を出たいと思うことは今までにも結構あったんだぜ」
ほとんどの村人から理不尽なまでに避けられ続けていたんだから、村を出たいという思いに至るのも不思議ではないだろう。
「そうだったの? でも……それじゃあ、どうして今まで……」
「恐かったんだ。村から出てどこかに行き着いたとして、また同じようなことをされるかもって思うとな……。村の居心地は最低だったけど、それでも一応、最低限の生活はできていたからな」
そういった環境や経験が人をネガティブな思考にさせるってことは俺もよく知っている。生前の親友が、まさにそうだったから……。
「でもな、今はちがうぜ?」
「へっ?」
俺がひとり納得しようとした瞬間、続けざまにカイルが口を開く。
「最初は俺がツバサを突き放したのに、それでもツバサは俺のことを避けなかっただろ? それで――、ツバサなら信じられるって思ったんだ」
あー……まぁ、俺もカイルと仲良くなりたいという思いで近づいたのは事実。
たしかに事実ではあるが、ショタコンであるが故の後ろめたい気持ちがなかったとも言えず、嬉しい話のはずなのに少しばかり複雑な心境だ。
その後も俺たちは色々とお喋りしながら、ポロッサを目指して平原を歩き続けた。