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カイルとの共同生活

 夕食に使うブラックボアを持って家に帰ると、早速、俺たちは夕食の準備にとりかかる。


「あのさ。もしよかったらなんだけど、夕食の準備は俺にやらせてくれない? 何もしないでただ待つっていうのも暇だしさ……」

「そ……そうか? それじゃあ、夕食はツバサに任せるとして、俺は風呂の準備をしてくるぜ」


 暇をつぶせるようなものがあるわけでもなく、かと言って今の状況で村の中を散策しようという気にも正直なれない。

 そうでなくとも、今の俺は人の家に泊まらせてもらっている身分だ。何もしないで待つというのは俺自身が許せず、俺でも手伝える範囲ということで夕食の準備を買って出た。


 カイルは渋々ではあったが、夕食を俺に託して風呂の準備に向かった。




「さて、夕食は何が良いかな」


 ブラックボアの血抜きを進めながら、この肉で何を作ろうか色々と考えを巡らせる。

 森で暮らしていたときはたまに鹿や兎のような動物の肉をいただくこともあったが、猪の肉を食べるのは今回が初めて。

 であれば、やはり素材そのものの味をしっかり堪能できる調理としたいところ。


 ――となると、ここはシンプルにステーキかな。よしっ、そうしよう。


 そうと決まれば早速、俺はアイテムボックスから一枚のプレートを取り出す。

 このプレートは俺が森で暮らしていたときに肉を焼くためだけに土魔法でつくったもので、ざっくり説明するなら遠赤外線で効果的に肉を加熱するためのもの。

 俺は下処理を施したブラックボアの肉をそのプレートに乗せ、火魔法を使って加熱を始めた。




 そのまましばらく待っていると、お肉からあふれ出た脂がジュージューと弾ける音が立ち始めた。

 ふっくらと良い感じに焼けたところでお肉を皿に盛りつけ、仕上げとしてレアンの森で収穫した香草で味を調える。


「うん、良い感じに仕上がったな」


 完成したブラックボアのステーキをテーブルに並べてから間もなく、風呂の準備を終えたカイルが戻ってきた。


「風呂の準備は終わったぜ。――って、これ……ホントにあのブラックボアの肉なのか? すげぇ美味そうなにおいがするな」

「ちょうど良いところで戻ってきたね。今回はシンプルにステーキにしてみたんだ。ささ、温かいうちに召し上がってくださいな」

「あ……あぁ、そうだな。それじゃ早速だけどいただくとしようかな」


 カイルは唾をゴクリと飲み込みながら言うと、早速、一片の肉を口に運んでいく。

 そんなカイルの横で、俺は固唾を飲んでカイルの感想を待つ。




「――何だよ、これ……」


 カイルは肉を口に含むなり、手をピタリと止めて驚きの表情を見せた。

 俺としてはそれなりに上手くできたと思っていたが、口に合わなかったのだろうか。カイルの反応に俺は慌てて確認する。


「ご……ごめん、口に合わなかった?」

「――いや、逆だよ逆! むしろ、すげー美味いよ! これ、本当にさっき狩ったブラックボアの肉なんだよな? 全然臭くないじゃねーか」


 カイルは声を張り上げて答えると、次々とステーキを口に運び始めた。美味しそうに肉を頬張るカイルの姿には、思わず俺も嬉しさを覚えてしまう。

 つくった料理も気に入ってもらえたようで安堵した俺もステーキを食べ始めた。




 夕食を食べ終え、小休憩を取っているとカイルから声をかけられた。


「なぁ、一応聞くけどツバサも風呂は入るよな?」

「えっ? 俺も入っていいの? だったら、ぜひお願いしたいな」

「そんなの良いに決まってるだろ。あんな美味いもの食わせてくれたんだから、俺だって少しはお返ししなきゃ釣り合わねえよ」


 実際、レアンの森を発ってからというもの一度もお風呂には入れていない。身体の汚れだってそれなりに気にはなるし、せっかく用意してくれたのであればぜひともご厚意は受けたい。

 俺はカイルに連れられて、風呂が用意されている家の裏側に移動した。




「ここだぜ。こんな風呂しか用意はできないけど、ゆっくりしてくれよな」


 家の裏側には、いわゆるドラム缶風呂な感じの風呂が用意されていた。

 その風呂が質素であることを気にしているのか、カイルは心なしか申し訳なさげな顔をしている。


 ――だが、かつて日本で生きていた人の魂をなめてもらっちゃ困る!

 こんな大自然に囲まれた中で入るドラム缶風呂なんて最高じゃないか!


「風情を感じるし、俺はこういう風呂も好きだよ?」

「そうか? それならよかった。じゃあ、お湯の温度は俺に任せて、ツバサはゆっくり風呂に入ってくれ」

「わかった。それじゃ、遠慮なくお先に入らせてもらおうかな」


 俺は着ている服を脱いで裸になり、身体をお湯でさっと流してからゆっくりと湯船に浸かった。


「はあぁぁぁ……気持ちいい……」


 肩まで沈めた瞬間、あまりの気持ちよさに思わず声が漏れてしまった。言うまでもないが、こんな大自然に囲まれた中で入るお風呂が気持ちよくないはずがない。

 それが、こんな年頃の少年に面倒を見てもらえるオマケつきなのだから尚更だ。


「おいツバサ、お湯の温度はどうだ?」

「ばっちりだよ!」


 夕食を食べる前に準備していたからか最初は少しぬるめに感じたが、湯船の下でバチバチと音を立てて燃える薪によって十分な熱さを取り戻しつつある。

 ドラム缶風呂であるが故に足を伸ばすことはできないが、それでも何か癖になりそうな心地良さはある。


 その後も身体を洗ってから再び湯船に浸かり、身体から滲み出た汗とともにこれまでに溜まった疲労も綺麗に抜けていった気がした。




「お風呂ありがとね。すごく気持ちよかったよ。じゃあ、今度は俺が薪を見てるからさ、カイルもお風呂に入っちゃいなよ?」


 存分にお風呂を堪能させてもらったあと、俺はお風呂からあがってカイルと交代した。

 そして、俺たち二人が入浴を終えた頃には陽も完全に暮れており、残すところは寝るのみとなった。


「ツバサの布団、いま出すからちょっと待っててな」

「うん、ありがと」


 二人分の布団を敷き終わり、俺たちは布団に倒れ込んで夜のひとときに突入した。


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