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Gとの決戦、そして……

 俺の名前は南雲 翼、26歳でシステムエンジニアとして働きながら生活している。

 独身で彼女がいるわけでもないが、そんなことは俺からしたらどうでもいいこと。どうしてかって?




 それは俺が――、ショタコンだから!

 念願だった本社への異動が叶い、上京して独り暮らし中のどこにでもいる普通の社会人だった。


 そう、今日までは……。





「こ……ここは?」


 おもむろに目を開くと、辺り一帯が真っ白に広がる俺の知らない空間が目に映った。


 いったい、ここは何処なんだ? 自分が置かれている状況がわからず、ただただ四方八方に目を向けてあたりを見まわすと、白く長い髭を蓄えた一人の老人と目が合った。


「おぉ、目を覚ましたようじゃな?」

「えっと……、あなたは?」


 ――いったい誰なんだ? その老人は俺の知る人ではなく、俺は老人に何者なのか尋ねる。


「ワシか? ワシは創造神シトラ。文字どおり、創造を司る神じゃよ。そして、ここは神界。簡単にいえば我々、神が住む世界じゃ」


 えっ……神? それに神界?


 何だか最近、巷で流行っている転生ものの小説なんかでよく目にする言葉だよな。

 ――って、あれ? それってつまり、俺は死んだってことなのか?




 ふぅ……。俺は大きく息を吐き出し、心を落ち着かせて今日の行動を振り返る。


 いつもどおり仕事が終わって会社から帰宅して……、それから不快なカサカサ音が聞こえて、ゴキスプレーを片手にテレビの裏側を覗き込んだところまでは思い出せる。

 しかし、どうしてかそれ以降の記憶がどうにも思い出せそうにない。


「ま、そうじゃろうな。それ以降の記憶がないのは当然じゃよ」


 えっ? 記憶がないのが当然?


 それが何を意味しているのか、俺には皆目見当もつかない。

 半信半疑だが、ほかに有力な情報があるわけでもないし、とりあえず目の前にいる神を名乗る老人に事情を訊いてみる。


「それってどういうことですか?」

「簡単な話じゃ……。お主がテレビの裏を覗き込んだと同時にゴキブリが飛び出し、それに驚いたお主はバランスを崩してそのまま転倒。残念な話じゃが、そのときに後頭部を強打してお主は死んだんじゃ」


 何だって? 俺が死んだ?


 自分から訊いておいてなんだが、ものすごく受け入れがたいことを言われた気がする。

 それに、この神を自称する老人の言うことをそのまま真に受けてしまって良いのだろうか?

 もし、これが夢であるならば、今すぐにでも目が覚めてほしいものだ。


 ――って、この老人はどうして俺の記憶が途中で切れていることを知っていたんだ?

 まさかだが、神というのは本当の話で俺の考えていることがお見通しとでもいうのか?


「そのまさかじゃよ」


 えっ!?


「さっきも言ったが、ワシは神じゃからのう。それくらいは容易いことじゃよ?」


 俺が頭の中に一つの仮説を過らせると、この老人は俺が考えを口に出していないにも関わらず、それに対して的確に答えてきた。

 にわかに信じがたい話だが、俺の考えていることが読まれていることに間違いはないようだ。


 今、目の前に与えられた情報を考えるにつれ、次第にこれが現実だという思いが俺の中に芽生え始めた。




 目が覚めたら神界と呼ばれる場所にいて、目の前には神を自称する老人がいる。


 何度考えても、これは某小説でよく見かける導入そのもの。

 そんな夢のような話が現実にあるとは信じづらいが、少しくらい異世界で自由に生きる自分の姿を思い描いたって悪くないはず。


「これは一応の確認なんじゃが、お主はその若さで死んでしまったことに何か未練はないのか?」


 俺が一人で考えを巡らせていると、老人がきょとんとしながら俺に問いかけてきた。


「まだ実感がないですが、感じないといえばさすがに嘘になりますね」

「そうじゃよな? あまりにお主から落胆する様子が見えないから、ワシの読心術が落ちぶれたのかと思ってしまったぞい」


 まだ連載が終わっていない週刊誌の漫画に、かの有名な先生が描く同人誌……。そして、何よりも虫嫌いだったことが決め手となった無様な最期。

 たった26年という、自分で思っていたよりもずっと早くに人生の幕が閉じてしまったのだから、思うことも尽きない。


「まぁ、そうじゃろうな。ワシの目から見ても、あれは不甲斐ない最期じゃと思うたからのう」


 こればっかりは、いくら何でもおかしな最期の迎え方だったと思う。百歩譲って死ぬにしたってもう少し普通に死を迎えたかった。

 そのことに恥ずかしさを感じた俺は、話題を変えるべくこちらから老人に問いかける。


「ところで、どうして俺はここに連れてこられたんでしょうか?」

「おぉ、そうじゃそうじゃ。お主をここに呼んだ理由じゃが、お主に転移の機会を与えたいと思うてのう。早い話がさっきお主の思うとったとおりのことじゃよ」

「――えっ? て、転移……ですか?」


 聞き間違い……ではないよな?

 某小説の中でしか見たことのないような状況を目の前に、高まる期待感で頭の中が今にも溢れ返りそうでやばい。


「そうじゃ。ワシが用意した肉体にお主を転移させて、お主はワシらが管轄する世界で暮らすんじゃ。別にお主にとっても悪い話じゃないと思うぞ?」

「は、はぁ……」


 今の話を聞くかぎり、俺へのデメリットは何一つとしてない話だとは思う。

 ただ、この短時間に信じがたい話が連発し過ぎていて、俺の頭はすでにパニック寸前。深呼吸で気持ちを落ちつかせ、しっかりと話を聞く姿勢をつくる。


「すみません。話があまり見えなかったので、もう少し具体的にお聞きしたいです」

「そうじゃよな。――では、最初から順を追って説明するとしよう」

「はい、お願いします」


 ここに至るまでの話を整理する意味も含め、ふたたび老人による説明が始まった。




「まず、さっきも言ったことじゃが、お主はゴキブリに驚いて倒れた拍子に頭を強打して死んだ。ここまでは良いな?」

「は、はい……」


 そもそもの話として、死んだという話を簡単に受け入れたくないが、ここまでのことは俺も理解した。そして、本腰を入れて聞くべきは、恐らくここからのはず。


「ここからじゃが、死んでしまったお主の魂をワシが用意した身体に転移させようと思っとる。お主はその身体で、転移後の世界を好きなように生きればよい」

「好きに……ですか?」

「そうじゃ。――強いて言うならば、自分を信じて生きてくれれば最高じゃな。あとは、途中でドジを踏まずに最期までしっかりと生きてほしいのう」


 大体の話はわかった。――が、いざ、好きに生きていいと言われても、改めて考えると中々に悩ましいものがある。

 俺自身、情報に充実した便利な社会に身を置いていたこともあって、転移先の世界で好きに生きられるのかがわからない。

 それはゆくゆく考えることにして、まずは今の話で気になったことを訊いてみよう。


「ちなみにですが、用意していただける身体ってどんな身体なのでしょうか?」


 一番に気になったことは、やはり転移先となる身体についてだ。

 人間なのかモンスターなのか、それ次第で喜べる話か否かすら変わりかねない。もっと欲を言うならば、俺だってそれなりの身体に転移したい。


「そのことなら心配は無用じゃよ。今回、お主に用意する身体は種族は人間、9歳ほどの男の子の身体じゃ。お主の好みじゃろう?」

「そ……それは……」


 まさか、そんなことまで見透かされていたとは……。

 たしかに、俺がショタコンだということは間違いない。俺のストライクゾーンと比べると、少し若い気もするが……。


 そんなことよりも、いくらショタコンだって自分の身体にそこまで欲情はしないと思う。正直、ここで俺好みと言われたところで困惑せざるを得ない。


「お主の好みが何じゃろうがワシは気にせんよ。むしろ、下手な価値観に縛られてない純粋な心は評価に値すると思うぞ?」


 たしかに社会のルールや価値観のほぼすべては所詮、人間が勝手に考えたことでしかないのは事実。

 とは言え、そんな下心に溢れた部分を評価されても複雑な気持ちであることは否めない。


 ただ、話がわかる老人……いや、神様であってくれて俺はホッとした。


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