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PEACE KEEPER  作者: 狐目 ねつき
Liebe guard
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8話 剣術トーナメント一回戦一試合目

「さあさあ、今日も始まったぜ野郎共ぉ! 学園最強を決める時間だあっ!」


 試合場を囲んで騒ぐギャラリーの学士達が、ハイデンの煽りに呼応して狂ったように歓声を上げる。


「受付に引き続き今回も実況は、ハイデン・メストゥが引き受けるぜぃっ!」


 盛り上がる学士達に負けじと、気勢のボルテージが高まっているハイデン。


「じゃあ早速始めたいところだが、初めて参加する野郎もいるからまずは簡単にルールの説明をするぜ!」


 勿論このルール説明は、初出場のアウルとライカに向けられたものであった。


「勝負は三分間の一本勝負! 相手に〝参った〟と言わせるか、有効な攻撃を一発でも当てた方の勝利だ! わかりやすいだろ! それと、三分間で決着がつかなかった場合は両者敗退とする! まあ、大体決着はつくがな! ちなみに、顔面への意図的な攻撃は反則負けと見なすぜ! 流石に授業で大怪我になるとシャレにならんからな!」


 いくら木製とはいえ、丈夫な竹で造られたバンブレードを使用しての手合いだ。万が一にも大怪我を発生させないよう、充分な配慮が為されたルールと言えよう。


「以上でルール説明は終わりだ! んじゃ、早速一試合目に移るぜっ!」


「うおおおおおおおぉぉっっ!」


 怒号のような歓声が、大会開始の幕開けとなる――。



「第一試合! 赤コーナーはこの男っ!」


「名門の血が疼いたかっ! 永きに渡りベールに包まれていた実力が今日、遂に解き放たれるっ! 初参戦――」


「――アウリイイィィスト・ピイイィスキィーパアアァ!」


 大袈裟とも言える煽り文句にて名を呼ばれたアウルは、ゆっくりと手合い場の円に向かって歩を進める。その表情は、図り知れない並々ならぬ決意に満ち溢れていた。



「そしてえええ、青コーナーはこの男ぉっ!」


「家業の食堂はどーしたッ! 剣を握っとる場合かッ! 包丁を握れッ! こちらも初参戦――」


「ライカアァァートオオォ・ハァァァティイィスッッ!」


「ちょっと待てぇ! 俺の紹介おかしいだろ!」


 ハイデンに対し不満を垂らしながら、ズカズカと入場するライカ。柄にもなく緊張していたのだが、その指摘をしたおかげで幾分か気は和らいだようだ。


「さあさあ、両雄出揃いました! 一試合目からなんという好カード! 実況を務める身としては、いつも一緒に仲良く過ごしていた両選手がどんな試合をするのか興味が尽きませんっ!」


 ここぞとばかりにハイデンが私見を挟む。しかしこの試合の組み合わせは、トーナメント表が完成した時からギャラリーのほぼ全員が楽しみにしていたカードだったのだ。


 ――そして沸き立つ観衆の中、二人の少年が相対をする。



「ライカ……どうして」

「お前を一人で行かせるわけねえだろうが」


 友人を前にし、戸惑いを隠しきれてないアウル。

 一方でライカは、強い決意を携えて堂々と立つ。


「アウル……俺と一つ約束しろ。俺が勝ったら、俺も一緒にクルーイルさんのところに連れてけ!」


「……わかったよ」


 梃子(テコ)でも動きそうにないライカの固い意志。アウルも説得は無理だと諦め、約束をしてしまう。

 そして、お互いに定位置につき木剣を構える――。



「――それではああぁっ! 試合開始ィッ!!」


 ハイデンの声と共にギャラリーの一人が指笛を鳴らし、それがゴング代わりとなった。


「うおおおおおおおっ!」


 開始と同時、先に動いたのはライカだった。木剣の柄を両手で持ち、不格好に大きく振りかぶりながら、アウルに向かって猪の如き勢いで直進する。


「おおおーっと、ライカ選手! 素人丸出し感が半端じゃなあああいっ!」


 ハイデンのその実況に、手合い場の周囲から嘲笑が聞こえてくる。


(あぁそうだよ、素人だよっ! 剣術なんて今までまともに学ぼうともしなかったからな!)


 だがライカは決して意に介さず、ただただ愚直に相手へと突き進む。具体的な作戦もなにもあったものではなく、ただの素人剣術でアウルへと斬りかかろうとしていたのだ。


 ――ただライカは、何の考えも無しに向かっているわけでは無かった。


(……けどよ、素人なのはアウルも一緒なはず! 素人同士の対決はビビった方が負ける! だから先に仕掛けた方が勝ちだっ!)


 相手の試合経験の無さ。

 ライカはそこを衝こうとしていた。


 当然それは、自らにも条件が当て嵌まってはいたのだが、そこでの先手必勝だ。躊躇をせずに斬りかかれば、アウルは何も出来ぬまま勝敗がつくだろう、とライカは高を括っていたのだ。


(さっさとカタつけてわからせてやるよ! お前一人じゃ何も出来ないってな!)


 勢いを殺さず、ライカはそのまま真っ直ぐに向かう。


「…………」


 対するアウルは試合開始地点から微動だにせず、向かってくるライカをただじっと見詰めているだけだった。


(もらったぁ――!)


 ライカは勢いそのままに、バンブレードを思い切り振り下ろす。狙いは右肩だ。アウルはまだ動く素振りすら見せていない。剣すら構えようともせず、完全なる無防備だ。早くも決着がつく、と観戦をしている誰もがそう思っていた。

 しかし――。



「え……?」


 と疑問の声を漏らしたのは実況のハイデンだったか。ライカだったか。その場に居合わせた全員がそれを確認する余裕などなく、眼前にて起きた現象へと目を疑ってしまう。


 振り下ろした筈のライカのバンブレードは芝生の上に落ち、アウルが逆手に持つ木剣の柄頭が、いつの間にかライカの喉元に突き付けられていたのだ――。


「今の、見えた奴いるか……?」


 ギャラリーの内の学士の一人が、居合わせた全員に問い掛ける。しかし、答えることの出来る者は誰一人として居なかった。実況のハイデンも、少し離れた位置にて余裕の観戦を決め込んでいたパシエンスですらも、アウルの動きを捉えることが出来なかった。


 誰かがゴクリと生唾を飲み込む――。


(ま、マジかよ……コイツ!)


 喉元に柄頭を突き付けられているため、下顎を上に向けた姿勢のまま硬直し、戦慄としているライカ。目の前で対峙していた彼には、今の攻防が全て見えていたのだ。


(アウルは――)

「へぇーやるじゃん。柄で剣撃を真横から弾いて、最小限の動きで懐に入り込むとはなー」


 ライカの思考を読み取ったかのような、絶妙すぎるタイミングで言葉を紡いだのは、いつの間にか観戦に訪れていたサクリウスであった。


「さ、サクリウス様いつの間に……というか、今のを見えていたんですね……」


「なーに、ちょっっっとだけ面白そーに見えたから来ただけだっての」


 やや殺伐としていた空気に、あっけらかんとした態度を続けるサクリウス。声をかけたハイデンが戸惑いを見せる。


(……にしてもアウリスト・ピースキーパーか。クルーイルと違って才能は全くねーと勝手に思ってたけど、やっぱり()()ヴェルスミスの息子なだけあって素質そのものは半端じゃねーな。ただ気に食わねーのが、これ程の実力をなーんで俺達にも今まで隠していたのかってことなんだよなー。ま、この調子だと今日だけは退屈せずに済みそーかな)


 思わぬ掘り出し物の発見にサクリウスの機嫌が上向き、口元を鎌のように歪ませる。



「……ライカ、()()()って言ってよ」


 ライカの喉元へ柄頭を突き付けながら、アウルは冷たさを帯びた声色で敗北の宣言を要求した。対するライカは、友人が隠し持っていた思わぬ実力に狼狽えるばかりで、参ったすら言えない精神状態にあった。


(コイツ、何で今までこんな実力を……! こんな奴……お、俺なんかが勝てるワケがねえ……!)


「ライカ!」


 アウルは逡巡するライカに向け語気を強め、改めて決断を煽る――が。


「ま、ま、ままま参った……っなんて、言うワケねぇだろぉっ!」


 直後、ヤケを起こしたライカが後ろに向かってバク転の要領で跳んでみせたのだ。


「おおおーっとぉ! ライカ選手跳んだあああー! そして着地失敗いぃっ!」


「うるせー!」


 不格好に着地してしまったライカはその言葉と共に起き上がり、少しだけズレた眼鏡を直すと、再びアウルの前に立ちはだかる。倒れた拍子に、バンブレードもしっかりと回収をしていた。


「どうしてだよ、ライカ……」


「俺の覚悟はなぁ、お前の覚悟にも負けてるつもりなんてねえんだ! 参ったと言わせてえんなら……この俺を倒してみろよ! アウルっ!」


 ライカの虚勢とも言える強がりに、ギャラリーは再び熱を取り戻す。


 試合は、まだまだ激しさを増していく――。

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