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PEACE KEEPER  作者: 狐目 ねつき
Brotherhood
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35話 不安定でとても歪な

 なぜアウルをここに寄越したんだ、エレニド。

 あいつ、まさか俺を助けるために……?


 ――何はともあれ助かった。

 戦力としては心許ないが、これで時間が稼げる。

 他の団士もそろそろ駆け付けてくる頃だろう。

 それまでなんとか持ちこたえてくれ、アウル……!



 疾走(はや)い――!

 だが攻撃が正直過ぎる、これでは――。


 ……やはり迎撃されたか。



 アウルの奴……やはりスピードは大したものだな。俺には無い持ち味だ。


 よし、そこだ!

 行けっ!

 ――なっ!?


 魔神があんな術までビスタに覚えさせていたとは……!

 アウル、もう少し距離をとって戦わないと時間稼ぎにならないぞ……!


 馬鹿っ、真正面からはヤメろ!

 ビスタが剣を――マズい!


「アウル、距離を――!」




 ――弟が斬り伏せられる姿を見て、俺はようやく自分の考えが間違っていたことに気が付いた。


 アウルを、この国を、命を懸けて守ると誓ってここに来たっていうのに……俺は一体何をやっていたんだ!


〝死にたくない〟という感情ばかりが先行し、弟の助けを素直に喜んでしまい、守ると誓った相手に護られるという体たらく――。


 ――俺は戦士として失格だ。


 なにが天才だ。

 なにが親衛士団だ。

 なにがピースキーパー家だ。

 

 たった一人の弟だぞ。

 お前が守れよ、クルーイル!



「ビスタぁ――っっ!」



◇◆◇◆



「大した実力もないのに出しゃばる真似なんてするから、こういう目に遭うんだよ」


 ビスタは無感情にそう言い放ちつつ、地に伏したままのアウルの方へと歩を進める。そして傍らに立つと、少年の目元へと剣を突き付けた。だがそこで先程から動かなかった――否、動けずにいたクルーイルから突如として名を呼ばれ、硬直をする。


(――兄貴!?)


 その声に反応したのはビスタだけではなく、肉体から精神が乖離しかけていたアウルもであった。怒号じみた声量のお陰で意識を取り戻したのだ。


「……なに?」


 すっかりと興味を失っていた相手からの介入に、ビスタはやや苛々とした調子で返事をする。

『思えば今日は止めを刺すのを邪魔されてばかりだな』と、少しだけ苦笑を混じらせながら。


「俺をっ……俺を先に殺れ!」


(えっ……?)


 その唐突な提案にアウルが驚き、ビスタも眉を動かす。ただその提案は、事態の解決足り得るものでは決してない。殺す順序を入れ替えるだけ、という至極単純な内容だ。当然、ビスタは怪訝に捉える。


「急にどうしたの、クルーイル? さっきはあんなに〝死にたくない〟って喚いてたのに……何か狙いでもあるのかな?」


 切っ先の狙いを瀕死のアウルから少しも逸らさずに、同じく瀕死であるはずの男にビスタが問いかけた。


「これは、元々俺の戦いだ……アウルは関係ない。だから、殺るならまず俺からにしろ……!」


(ダメだ――兄貴!)


 アウルは叫ぼうとするが、負傷による弱りきった身体では声を出すのも儘ならない。必死の訴えは兄には届かなかった。


「……主張は良く解らないけど、潔いんだね。わかった……友人であるキミに敬意を表して、お望み通り先に殺してあげるよ」


魔神(オマエ)とは友人になった覚えは無いがな」

「あははは」


 この後に及んで憎まれ口を叩くクルーイルに向けて、ビスタは剣の切っ先を先程と同じように左胸へと突き付けた。


(ダメだって、兄貴……! 頼むから……)


 アウルは悲痛な眼差しで訴えを続ける。それがようやく通じたのか、大人しく坐したままのクルーイルと視線がぶつかる。するとクルーイルは『心配するな』とでも言わんばかりに、落ち着き払った様子で微笑んでいた。しかしその笑みは、安心感を与えるようなものではない。


『既に覚悟は決まっている』といった類いのものであった。



「――最後に何か言い残すことはあるかい?」


 魔神なりの温情なのか、辞世の言葉を残す機会を与えられると、クルーイルは静かに口を開く。


「そうだな、ビスタ(・・・)に伝えといてくれ。先にあっちで待ってる、とな」


「まだまだそっちに行く予定は無いけど……いいよ、伝えておくよ」


 


「それと――アウル」

(――っ!)


 不意に呼ばれたアウルは応答こそできなかったが、目の動きだけで反応を示す。



「卒業までにお前を強くするって約束だったが……どうやら守れそうにない。すまないな」


 ――ダメだよ、兄貴。そんなこと言わないで。


「さっきも言ったが、お前はこんな出来損ないの俺なんかよりも優秀な戦士に必ずなれる。これは自信を与えるための嘘なんかじゃない、俺が保証する」


 ――兄貴、死なないで、お願いだから……!


 涙を流すアウルは気力を振り絞り、どうにかして起き上がろうと奮起する。だが血を失いすぎた為か、身体に全く力が入らない。


「……あと最後に、ひとつだけ」


 ――やだ。やだ、やだ、やだ、やだ……!



「今まで、ゴメンな」


 ――兄貴っ!!


 その言葉は、クルーイルがずっと言えずにいた心からの謝罪であった。不安定でとても(イビツ)だった二人の絆は、最後の最期にて真の和解を果たし、遂に結実したのだ。



「……もういいの?」

「ああ……殺れ」



 そしてその日の夜、一人の勇敢な戦士が命を散らした。

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