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PEACE KEEPER  作者: 狐目 ねつき
Brotherhood
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24話 宿命

 ゼレスティア国、西門前――。


 頑丈なエボニー材で造られた、高さ六ヤールト余りの門。この門こそが、ゲート内と外界を隔てる役割を担っていた。ゲートの外周には、ゼレスティアから南に位置する河川から流れる水を湛えた堀が囲んでいる。門扉は堀の向こう岸に渡る際の跳ね橋としての役割も果たし、害敵の類いを一切寄せ付けない造りとなっていた。


 つまるところ、魔物が国内へと入り込むことが可能となるタイミングは門が開いた時しかない。ほとんどの魔物がそんなタイミングを的確に狙いに来るような知能など持ち合わせてはおらず、ゲートの内側に無理矢理入り込もうとするには、空からでしか到底成し得ることができなかったのだ。



「――なあ、今日の搬入部隊……帰ってくるのが遅すぎじゃないか?」


 外側の門のすぐ側で警備をする衛兵の一人が、そう呟く。


「確かに遅いな。いつもだったらもう見えてくるハズなんだが……」


 相方となるもう一人の兵が同じく怪訝に思う。搬入部隊の帰還が遅れている理由として考えられるのは、過去にあった事例に基づくと『採掘した鉱物や鉱石の量が多く、運搬に手間取っている』や『上位の魔物に出くわし、手を焼いている』などが挙げられる。


「ビスタ様が搬入任務を担当するようになってからだと、帰還がここまで遅れることなんてほとんど無かったのにな」


「うむ、加えてマックルとケルーンも就いてるし……ん、あれは?」


 会話の途中で、街道側から人影がゲートに向かってきているのを、兵士が目視する。腰に差してある単眼鏡を急いで構え、覗き込む。


「……ビスタ様だ!」


 覗き込んだ先には、剣を握ったまま覚束ない足取りで歩く、第16団士のビスタ・サムエレスの姿が見えた。


「だが、他の兵士や荷馬車がいないぞ。どういうことだ?」


 数々の不審な点が疑問となって、兵士二人の頭の中で波を打つ。だが団士の帰還には違いなく、到着を受け入れない訳にもいかない。


「取り敢えず、門を降ろそう」

「あ、あぁ」


 相槌を打った兵士は、ゲートの壁面に掛かった連絡用の梯子を昇り、内側で門の開閉を担当している待機兵へと合図を送って開門を促す。程なくして、門は重々しい音と共に橋として向こう岸へと掛かり、国内外を隔てていた境界線が一時的に無くなる。



「ビスタ様ぁー! ご無事ですか!」


 兵士が駆け足で橋を渡り、ビスタの元へと向かう。


「……無理だ」

「え?」


「あんな魔神、見たことがない。みんな……みんなやられてしまった……」


 その場に膝をつき、両手で頭を抱えるビスタ。彼ほどの戦士がここまで怯え、憔悴しきっているのだ。これは由々しき事態であると確信をした兵士は、相方の兵を急いで呼ぶ。そして二人でビスタに肩を貸しつつゲート内にまで足を運ぶと、門を直ちに閉めさせた。



 弱りきったビスタを、ひとまずは西門前の広場に運び終えると、すぐに他の兵へと指示を送る。


「街道近辺に魔神が現れた! 急いで作戦室に向かい、バズムント様に伝えてくれ!」


「わかった!」


 その指示を受けた兵士は王宮へ続く道を走っていく。

 


「ビスタ様。門は閉めましたのでもう大丈夫で――」


 だが兵士がビスタへと安心を送ろうとした、その時。


「な……何を――っっ!?」


 鮮血が飛沫を上げ、舞い散る――。



◇◆◇◆



「俺が……兄貴の代わりに?」

「そうだ」


 耳を疑ってしまうような要求にアウルは聞き直すも、簡素な返答しかなかった。


(……どうしよう、なんだか変な話になってきた。そんなつもりで勝負を挑んだワケじゃなかったんだけどなあ)


 勝敗を一方的に決せられ、唐突に告げられたその命令に近い要求に対し、アウルは困惑するばかりだ。


 そもそも本来は『兄と和解』を果たすのが、アウルの主目的となっていた。手合いを所望したのも、コミュニケーションの手段として提案したものだ。話の方向が斯様な形に拗れてしまうとは、まさかとも思っていなかったのである。


 だがそんなアウルの思惑など兄は知る由もなく、勝者に与えられる権限を存分に行使したまでであった。


「〝代わり〟ってことは……兄貴が抜けた第17団士に、俺が入る……ってこと?」


「そうなるな」

「どうして俺が……」


 自分があの集団への入団を将来の選択肢に含ませていた覚えなどあるはずもなく、アウルは動揺を隠せない。だがクルーイルは、語気を強めて更に言い放つ――。



「お前が、ピースキーパー家だからだ」

「――っ!」


 兄からのその言葉でアウルは、昼にサクリウスから習ったピースキーパー家が名家たる由縁を思い返す。


 これまでアウルは『名家の落ちこぼれ』というレッテルを背負い、生きてきた。それを本人も自覚はしていた上に、割り切ることで重圧や責任とは無縁の生活を送ることが出来ていた。


 しかしたった今クルーイルにそれを告げられた事により、彼の人生で初めて『宿命』という名の言葉の重みが、心の中へとのしかかるように襲ってきたのであった。


「兄貴はもう、親衛士団に戻らないの?」


 先程見せた実力であれば、あのサクリウス達とまだまだ肩を並べて戦えるのでは――。


 アウルはそう思い至り、話を逸らそうとした。



「……それは、もう無理だ」


 クルーイルが苦笑混じりに答える。それでもアウルは諦めず、縋るようにもう一度聞く。


「どうして? 俺なんかより兄貴の方が全然強いんだよ? だったら兄貴が戻った方が……」

「お前もサクリウスから聞いているなら既に解っているかもしれないが、俺は逃げたんだよ。戦いから……」


 勿論アウルはその事実を知っていた。クルーイルが魔神との戦闘で逃亡したのも、親衛士団に敵前逃亡が許されないのも、全てサクリウスから聞き及んでいた上で促していたのだ。


「知ってたよ。でも俺なんかが入るより……兄貴が戻った方が絶対良いって!」


「俺は、怖いんだよ……!」

「えっ……?」


 いつも強く頼もしく、勤勉で実直。どんな時でも毅然と振る舞い、学士達から憧れを抱かれる対象であった兄、クルーイル。そんな彼が、弟に初めて弱音を吐いたのだ。


魔神達(ヤツら)との戦いを思い返すだけで、怖くて怖くて堪らないんだよ……! 俺はもう、戦場には戻りたくない……!」


 悲痛な表情で泣き言を漏らすクルーイルの、剣を握る手が震えている。その様子が嘘でも演技でもないというのが、アウルはすぐに理解した。


「だから頼む、アウル……俺の代わりにピースキーパー家の使命を果たしてくれっ!」


「兄貴……」


 兄の初めて見る姿に、かける言葉が見付からない。だがそれでも、自分にその使命は荷が重すぎると感じ、少年は未だ決心に至れなかった――。

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