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PEACE KEEPER  作者: 狐目 ねつき
Liebe guard
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14話 帰路

「――本日はっ! 僕達の為に貴重なお時間を割いていただき、誠に有り難う御座いましたっ!」


「ありがとうございましたーっ!」


 始業と同様、堅苦しい終業の礼をレスレイが代表となって執り行われた。


「ん――」


 整列した学士達からの礼を一瞥だけしたサクリウスは、気怠そうに小指で耳穴を掻いていた。ワインロックはその隣でにこにこと笑顔を覗かせている。


「では、解散っ!」


 点呼を取り終えた後、解散した学士達はそれぞれが帰宅の準備を終え、散っていった。



「師匠っ!」


 帰り際にアウルは、サクリウスの元に駆け付ける。不本意な呼ばれ方をされたサクリウスは、煩わしそうな表情だ。


「だーから師匠はやめろっての。それに取って付けたような敬語も今更いらねーから好きに喋れ。もう授業は終わったんだからさっさと帰れよー」


 シッシッと、野良猫でも追い払うようなジェスチャーを見せるサクリウスだが、ぞんざいに扱われたアウルは気にも留めず。


「じゃあ……やっぱりサクリウスさん、て呼ぶ……ます……!」


「あーー、もうそれでいい」


 サクリウスが面倒そうに応対をする。授業が始まる前だと、まさかここまで懐かれるとは思ってもいなかっただろう。


「んで、なんの用だよ?」


「その……今度武術授業があるとき、また戦いを教えてもらって……いい、かな……?」


 少しだけ神妙そうな面持ちをするアウルだが、サクリウスは微塵も態度を改めるつもりはなかった。


「さっきも言ったが、オレはマジに弟子はとらねー主義だ。他のヤツに頼むこったな」


 少しだけ冷たく言い放ったが、弟子をとる気が無いというのは本音だった。彼はこのままだと本気で師として扱われてしまうことを危惧していたのだ。

 

「ええ~? じゃあ、ワインロックさんに頼んでみてもいいかなぁ」


「……ん? 呼んだかい?」


 チラッと見やったアウルの視線にワインロックも気付き、ニコニコとしながら近付いてくる。先程まではアウルに対し怒り狂っていたはずなのだが、いつの間にか正気に戻っていたのは謎だ。


「ばっ、バカ! そいつにだけは頼むな!」


 歩み寄ってくるワインロックをサクリウスが慌てて制す。そして深く溜め息を吐くと、やれやれとした表情で改めて口を開いた。


「……オレも暇じゃねーんだけどなぁ。しゃーねえ、ここに来る時だけでいーんなら……まー、今日みてーに少しくらいは相手してやんよ」


 不本意そうではあるが、承諾してくれた。

 少年の表情が途端に明るくなる。


「本当? いいの……?」


「って言ってもよ、お前ら卒業まで一〇〇日切ってんだろ。だからあと二、三回しか来れねーかんな」


 それだけを言い残したサクリウスは、ワインロックと共に学園を後にする。暇ではないと言っていたので、これからまたしばらくの間は団士としての通常任務に戻って行くのだろう。




 帰り支度を終えたライカとピリムが、団士二人を見送っていたアウルの分のバッグを持ってきてくれた。


「良かったな、アウル。お前すげえぞ、団士サマ相手にあそこまで認められるってのは」


「うん、自信はだいぶついたよ」


 バッグを受け取ったアウルは、すでに学園を去ったサクリウスの背中を目で追うように、遠くを見据えた。その表情は充足感に満ち溢れている。


「認められたのも驚きだけどアタシが一番驚いたのは、アンタがあんなに強かったことよ。どうしてアタシ達にも隠してたのよ?」


「え……? どうして、だろ? 披露する機会が……無かった、から?」


「……本当にそんな理由なの? また適当に答えてるでしょ?」


 誤魔化すようにしらばっくれるアウルに対し『呆れた』といった様子でピリムはそう言った。三人はそのまま学園を後にすると、いつものように並んで帰路についた――。



◇◆◇◆



 雲の隙間から見え隠れする太陽。徐々に赤みを帯びていき、オレンジ色の光を放っている――。



「――そういえばピリム、バズさんが心配してたよ?」


 三人でアーカム市内を歩いている道中、アウルがふと思い出したように隣を歩くピリムへと伝える。


「え、パパに会ったの? てか心配ってなによ? じゃあ逆に伝えといて〝ママに心配ばかりかけないで〟って」


 離婚調停中であるピリムの両親だが、ピリム自身は離婚など望んではおらず、温かい家庭に戻りたいという一心しかなかった。


「自分で伝えてくれないかな……あと、俺を伝言係に使わないでよ」


「あー、アウル。昨日会ったって言ってたもんな。確かジェセル様も一緒に……二人で街を歩いてたんだっけ?」


 唐突にライカが口を挟んできた。アウルは『しまった』と言いそうになり、自らの手で口を塞ぐ。


「ジェセル様って、あの第10団士のジェセル様……よね?」


「そうだよ? な、アウル」


 肯定するライカは横目でアウルを見やった。アウルは明らかに戸惑っている。


「あーー、ん、うん。どうだった……かな?」


 否定も肯定もしないような、とても曖昧な反応を見せてしまったアウル。ピリムは更に問い詰める。


「なんで……パパがジェセル様と二人で歩いてるのよ? 仕事だったんじゃないの……?」


「いや! 勘違いするなよピリム、視察だよ! バズさん視察だって言ってたぞ!」


 流石に今度は即座に否定をしたアウル。ピリムは怪訝そうな表情を崩さず、疑念しか抱いていない。


「ふーん……まあ、視察だって言うわよね。()()()現場見られたら」


 その後も、バズムントの名誉のために必死で弁明をするアウルだったが、ピリムは全く信用してくれず。結局、疑いを晴らすことは敵わなかった。


(バズさん……ごめん)


 男同士の約束を守ることが出来なかったアウルは、胸中で密かに謝罪をした――。




「……じゃあ、アタシは家こっちだから。また明日ね」


 手をヒラヒラと振り、二人に見送られるピリム。父の話題があったおかげか、その目は全くと言っていいほどに笑っていなかった。


「女って怖いね……」

「……もしかして俺、やらかした?」

「いや、ライカはなにも悪くないよ……」


 お互いに反省した二人は再び帰路につき、やがて『ハーティス食堂』の前にまで辿り着く。既に時刻は夕飯時なので店の看板には灯飾が点き、店内は賑わいを見せていた。



「ライカ、どうする? 家に着いたけど……帰るか、それとも俺と一緒に行くか、決めて良いよ」


 昨日とはうって変わってアウルが誘う形に。だがライカは、その誘いに対し悩む素振りも見せずに即答をする。


「……行かねえよ。もう俺たちはそういう甘やかし合う関係じゃねえだろ。自分の問題は自分で解決しようぜ」


「……そうだったね。じゃ、俺は行くよ」

「おう、じゃあな」


 愚問だというのは気付いていたが、ライカからの返答が期待通りだったことにアウルは微笑み、その場を後にしようとする――。



「――アウルっ!」


 不意に呼び止められたアウルは、振り返る。振り向いた先にはまだ自宅に入っていなかったライカがドシッと佇み、満足げな表情を浮かべていた。



「また明日なっ」

「うん、また明日っ」

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