0話 序幕
夜空に星が、点々と煌めいている。
雲一つなく、夜が明ける頃には快晴が予想されるだろう。
そんな平和な空模様とは裏腹に一人の少年が、自らが流した血溜まりの中、地に伏していた。辺りを覆い背景となっているのは、激しさを増していく焔の壁。星空に向かって猛々しく燃え盛る様はまるで、天への憧れでも抱いてるかのようだ。
そして少年の傍らには、仰向けで倒れる兄。安らかにも見えるその顔は血の気がなく、既に絶命しているのが窺える。
その一方で、血によって刃が赤に染まった剣を握り、佇んでいる一人の男。剣にこびりついた血はまだ新しく、切っ先を滴らせていた。
この男こそが、少年の兄を殺した人物である。
肉親を殺された少年のまだ幼い精神に、様々な負の感情が渦巻いていく。
『怒り』
『悲しみ』
『悔やみ』
その抑えきれない感情はやがて、少年に一つの人格をもたらした。
それまでの人生で築き上げてきた少年の理性や道徳心。それら全てを嘲笑うかのように、その人格は少年の心へと圧倒的な殺意だけを携えて顕現したのだ。
――どうしてこうなったんだ。
後悔と自責に駆られながら、少年は意識を手放す。
平凡だったはずの毎日は、ある時突然に終わりを告げる。
引き金となるきっかけは、昨日の放課後のことだった。