雨に濡れる街の中で
ホブゴブリンを死に物狂いで倒し、ギルド本部で魔石の買い取りを終えると、雨足は更に強まりトヴァレの街並みを濡らしていく。
豪快な冒険者は気にも留めず体で雨粒を受け止め、魔導士は濡れることを嫌い、ローブについているフードを目深に被って雨粒を遮断する。
彼らはこれから未踏領域へ行くのか、門の方へ向かっていた。
その光景を、すれ違い様に視線だけで確認した僕は大通りを歩く。
雨に濡れるのも気にせず、水分を含んだ服に不快感すら抱くこともなく、ただひたすらに足を引きずりながら歩を進める。
辛勝だった……。
致命傷は受けなかったが、ホブゴブリンの手斧が何度も体を掠り、無数の傷から血が流れ続けている。
満身創痍、そうとしか言えない見た目をしていた。
不意に武器屋のショーウィンドゥへ視線を向けると、豪奢な剣の他にみすぼらしい冒険者がうっすらと映っていた。
僕だ。
金色の髪は雨に濡れて本来の輝きは消え失せ、翠の瞳はどことなく濁っているように見えた。
あぁ、僕だ……。
ガラスに映った今の僕……。
夢に破れ、生きることに磨耗した、ただの僕だった。
そいつが哀れむような目でほくそ笑んだ。
嘲るような笑みに怒りの感情なんて沸いてこない。
今は、ただ休みたい。
その一心で前進を再開させた。
◇
あの広場が視界に入ってきた。
運悪く昨日、リタ達と再開してしまった広場だ。
今も冒険者が集まっていて、アルスのクラン《月夜の黒狼》のメンバーであると一目で分かる。
月に狼が描かれたクランの紋章。
それをつけたフード付きマントを、彼らが羽織っているからだ。
大きな荷物の中身を確認する人もいて、未踏領域へ行く準備をしているように見える。
人数はざっと二十人くらいは居るから、中距離の探索をするつもりなのだろう。
さすが大規模クランだと思いながらリタやアルスと出会さないように顔を伏せ、早足で移動する。
昨日の今日で合わせる顔がなかったし、こんな情けない自分を二人の瞳に映して欲しくなかった。
どんな言い訳を並べても結局は全部、自分のためだった。
情けなくなる。
あぁ、駄目な奴だな……。
僕は……。
「シフォン……!」
体が硬直する。
必死に僕の名を呼ぶ声に、意識が引っ張られた。