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《エターナル・ワン》

「……シフォンとはもう随分長いこと会っていないわ。今日、久しぶりに再会したのよ」


「そうなのか? あんなに仲が良かったのに、一体どうした?」


「どうしたと言われても……」


 アルスの当然の疑問にリタは言いにくそうに口ごもり、言葉を濁す。


 僕は驚きのあまり何も考えられず、何もできずにいた。


 リタが何故そんなことを言ったのか、意味が分からなかった。


 な、何でリタは本当のことを言うんだよ!


 辻褄だって適当に合わせて、早く僕を逃がしてくれよ!


 君だってその方が良いだろ! 次に会うことはもうないんだから!


 なのに、何で!


 嫌な感情が溢れてきて、平静を保てなくなりそうだ。


 睨むように幼馴染みを見ると、申し訳なさそうにリタは僕から視線を逸らす。


 さすがのアルスも何かおかしいとかんずくだろう。


 何も言えない気まずい空気が、僕たち三人の間に流れる。


 とてもじゃないが、こんなのは耐えられない!


「あ、あのさアルス! 僕急いでいるから続きはまた今度にしよう! じゃあね!」


「あ!? おいシフォン、待て!」


 やっとまともに動くようになった体に鞭打って、脱兎のごとく逃げ出す。


 背後で遠退くアルスの声に紛れて、僕の名を呼ぶリタの声が聞こえてきた。


 久しぶりにシフォンと呼んでもらえたことが嬉しいと思っているのかよ。


 無駄に視界は歪み、滴が零れる。


 あぁ、ちくしょう……。







 僕は冒険者として致命的な欠陥を抱えていた。


 それはトヴァレで《エターナル・ワン》と呼ばれている。


 本来であれば必要な経験値をその身に蓄積して、神殿で《昇華の儀》を受ければ誰でもレベルアップできる。


 だけど僕にはそれができなかった。


 いくら経験値を得てもレベルアップができない。


 《昇華の儀》が機能しないのだ。


 そういう人間は本当に稀で《エターナル・ワン》という残酷な呼称をされる。


 創造神に見放された欠陥品だと。


 当時の僕は神殿で絶望にうちひしがれながら、こんな例えを聞かされた。


 経験値は水で、人は杯なのだと。


 人という杯に経験値という水を注いでいき、一杯になればレベルアップできる。


 レベルアップすると一回り大きな杯になり、再び一から経験値を注いでいくのを繰り返すそうだ。


 それが《昇華の儀》の仕組みだと教えられた。


 だけど僕のような《エターナル・ワン》は最初の杯からひびが入っていて、穴が開いているらしい。


 なるほど、それじゃいくら経験値を注いでも杯が一杯にならないわけだ。


 注いでも注いでも、すぐに穴から出て行ってしまうだけ。


 ずっとレベル1のまま。


 どんどんレベルが上がっていく憧れの人に、リタに一生追いつけないと宣告されてしまったのだ。


 こんな仕打ちってないよ……。


 こんな残酷なことってないよ……。


 他のことならいくらでも我慢できる。


 役立たずなスキルでもレベルが上がれば、どうにか使い物になるかもしれないって。


 周りから笑われても、その時を待ってろよって燃えることだってできたんだ。


 なのに、よりにもよって一番最悪なスキルを引き当ててしまった。


 最悪な《エターナル・ワン》に最悪なスキルが何の奇跡か、揃ってしまったのだ。


 怒りが沸いてくる。


 ふざけんなよ!


 これじゃ何もかも意味がないじゃないか!


 あの日の約束も! あの時の思いも!


 全部、全部、初めから叶わなくて、意味なんてなかったものになるなんて……。


 だから逃げ出した、リタの前から。


 一緒にいても僕には先がない。


 二人一緒に堕ちていく必要なんてないんだ。


 だから、せめてリタだけでも夢を叶えて欲しいと打ち明けた。


 リタは優しいから僕が居なくなって半分になった夢じゃあ意味がないって言ってくれたけど、最後にはどうにか納得してもらった。


 本音は自分が眩しすぎる輝きに目が眩みそうだから、憧れに嫉妬を抱きそうだからという酷く身勝手で、どうしようもなく最低なものだったのに……。


 そうして一年が過ぎ、今に至った。


 僕は底辺の冒険者として、ただ生きるためだけに未踏領域で魔物を倒している。


 リタはアルスの元で、今も半分になった夢を追いかけているのだろう。


 ずっと平行線で、二度と交わることのない道を、僕らは歩んでいる。


 でも、もし──。


 もし神様がいるなら、もう一度だけリタと同じ道を歩ませてくださいと。


 願わずにはいられない。


 無駄なことだって分かっていても……。

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