会いたい人
「デートです! デートを続けましょうシフォン!」
「う、うん!」
未だ顔の熱を冷ませずにいる僕の手をティファは取ると、露店通りの奥へ向かって駆け出す。
引っ張られるかたちで僕の足も進んでいく。
露店通りはまだ半分もある。
まだまだ見るものは沢山あるし、君がデートだって言ってくれる時間をもっと長く楽しみたいと思っているから。
だからティファ、もっと僕を連れ回してよ。
そんなことを思いながら、僕は君の後ろ姿を見詰めていた。
陽光を浴びる銀色の髪が揺れるたびに、光の粒を煌めかせる。
時々、振り向いてくれる君が話し掛けてくれる。
あれが凄いとか、これが凄いとか。
思ったこと、感じたことを純粋な気持ちで教えてくれる。
「シフォン、楽しいですね!」
「うん、楽し──」
楽しいよと言いたかった。
けど、言えなかった。
振り返ったティファの姿が、いつか見た幼い頃のリタの姿と重なって見えたから。
無邪気な笑顔が、もうどうしようもなく似ていたから。
だから僕は、呼吸すら忘れて、驚いていた。
同時に、いつか聞いた幼い頃のリタの声を思い出す。
『シフォン、デートよ!』
小さい頃、村で催されたちょっとしたお祭りの光景。
リタに手を引かれて見て回った露店の数々。
あの日食べた、焼きとうもろこしの味。
その全てを僕は思い出していた。
今の今まですっかり忘れていたのに。
何で……。
こうしている今も次々とリタとの思い出が溢れてくる。
幼い頃、冒険者になると約束した日。
幼馴染みの女の子に憧れを抱いた日。
そして──リタに誇れる、リタが誇れる冒険者になると誓った日。
それら原初の想いが、いつの間にか僕の足を止めさせていた。
「…………」
「シフォン?」
立ち止まった僕に気付き、ティファも歩みを止める。
「どうかしましたか?」
「…………」
振り返ったティファが声を掛けてくれるが、僕は何も言わず黙っていた。
胸に溢れる想いを、どう言葉にすれば良いのか分からなかった。
「……デート、楽しくなかったのですか?」
「…………」
違うよ、楽しいよティファ。
そう言いたいのに言えず、言葉の代わりにふるふると頭を横に振った。
「……では、リタさんのことですか?」
「あ……」
言い当てられた。
ずっとリタのことを考えていたのを見破られて、僅かな驚きと共に弱々しい声が口の隙間から漏れた。
微笑みを絶やさないティファの瞳に映る僕の瞳は、動揺に揺れている。
「……シフォンはどうしたいのですか?」
「僕は……」
どうしたいのだろうか……。
ティファと一緒にいて、楽しかったはずなのに、リタのことばかり考えてしまう。
リタ、リタ・ユーフェ。
優しい女の子。
大切な幼馴染み。
僕の、憧れの人。
もし──。
もし、素直に思ったままのことを言葉にして良いのなら僕は──。
「……僕は、リタに会いたい」




