初めてのお買い物
ティファにお金の使い方を教えるために冒険者ギルドの本部を後にして、僕達はトヴァレの南西にある露店通りにきていた。
通りの左右には様々な露店が軒を連ね、大勢の人々が行き交っている。
露店で扱っているものは様々で、武器や防具、冒険者に必要な道具を安く売っているだけでなく食べ物なんかも売っていた。
こうしてティファと二人で露店通りを歩いているだけでも美味しそうな匂いがあちこちから漂ってきて、食欲を強く刺激してくる。
隣を歩くティファはきょろきょろと周囲を見回し、賑やかな光景を楽しんでいた。
露店通りは人通りも多い。
ちゃんと見ておかないと、はぐれてしまいそうなほど女神様は夢中のようだ。
そんなティファがはしゃいだ様子である露店を指差して、問い掛けてくる。
「シフォン、あれは何ですか?」
ティファが指を向けていたのは、牛肉の串焼きを売っている露店だった。
香辛料をたっぷりと塗り込んだ牛肉の串焼きを、露店のおじさんが焼いている。
その光景を見て、僕はティファの質問に答える。
「あれはね、牛肉の串焼きだよ」
「なるほど、そうなのですかぁ」
「買ってみる? 僕もお腹空いてきたから何か食べたくなってきたし」
「そ、そうですね! せっかく来たのですからお金の使い方を学ぶためにもその串焼きを買うのも良いかもしれません!」
ティファは胸の前に両の握り拳を持ってきて、張り切った様子でそんなことを言っていた。
その姿はやや緊張しているようにも見えなくはない。
まぁ、ティファにとっては初めての買い物にも等しいため、そういう風になるのも当然なのかもしれない。
と、そんなティファを伴って串焼きを売っている露店の前まで移動するとお店のおじさんが声を掛けてくる。
「そこの冒険者さんよ、串焼きでもどうだい! うちのはうまいよ!」
「そ、それでは一本くださいお兄さん」
「お、お兄さん!? 俺がかい!?」
「はい。とてもお若いですよお兄さん」
微笑みと共にそんなことを言ったティファに、露店のおじさんは大きく驚いていた。
正直、僕も驚いている。
おじさんは四十代にしか見えないからだ。
でもティファは神様だし、すごく長生きしているはずだから女神様的には目の前のおじさんも若く見えるのかなぁ。
機会があれば歳を訊いてみるのも良いのかもしれない。
などと一人思考していると、ティファは小袋から硬貨を数枚取り出した。
そして、チラリと僕を一瞥する。
何を言いたいのかすぐに汲み取った僕は、口を開く。
「串焼きは一本300ティルだから三枚で買えるよ」
「ありがとうございますシフォン。ではお兄さん、これを」
「一枚二枚三枚、確かに300ティル頂きやした。ほいよ嬢ちゃん、串焼きを受け取りな」
ティファから受け取ったお金を数えてそう言ったおじさんは、二本の串焼きをティファに手渡す。
両手に串焼きを持つティファは、不思議そうにこてんと小首を傾げていた。
ちなみに僕も同じように首を傾げている。
「一本分のお代しかお支払いしていませんよ?」
「おうよ、ちゃんと分かっているぜ。それは嬢ちゃんが嬉しいことを言ってくれたお礼だよ。俺のようなおっさんをお兄さんって言ってくれたサービスだ。連れの兄ちゃんと食べな、デートなんだろ?」
「デート?」
「デデデ、デート!?」
良い笑顔で親指を立てるおじさん。
またしても小首を傾げるティファ。
デートという言葉に激しく動揺する僕。
あぁ、おじさんあなたは何てものを放ってくれたんだぁ……。




