弱肉強食
互角──ではなかった。
天より迫る大剣は、その重量と化け物の怪力で押し込まれていく。
一方リタの剣は上から押さえつけるように迫る大剣の勢いに抗いきれず、剣と顔との距離が縮まり始める。
リタは、力負けしていたのだ。
少なくても魔物の筋力、そのステータスパラメーターの一点においては完全に劣っていた。
(押し込まれる……!)
リタは上位の冒険者だ。
自身の置かれた状況を正しく認識できる。
力と力の勝負に持ち込まれた時点で自分の優位を失い、今の状況からも簡単には抜け出せないことも良く理解していた。
すなわち、リタは相手の力量を予測できていなかった。
その一点に全ては集約される。
今の彼女のように、冒険者として最大のミスを犯した者の先に待っているのは死だ。
弱者が強者に殺される。
弱肉強食の世界を、残酷なまでに体現する冒険者と魔物の戦い。
そうして積み重ねてきたのは、終わりなき闘争の歴史だ。
冒険者と魔物が戦えば、必ずどちらかが死ぬ。
それは特段珍しくもなければ、未踏領域のどこかで常に起きている日常の一部と言っていい。
今その日常を迎える者がいるとしたら、それは間違いなくこの場で苦戦を強いられているリタだろう。
そう長くない内にいずれリタは化け物の大剣に押し潰され、見るも無惨な肉塊へと変貌するはずだ。
だが、それはこの場で赤色の魔物と戦える冒険者が彼女一人だった場合に限る話ではあるが──。
「守りなさい、【銀盾】」
凛とした少女の声が響く。
同時に、リタと魔物を隔てるように光沢を帯びた銀色の壁が生み出される。
両者の剣は下から掬い上げられる形で天へ弾かれ、銀色の大盾が鍔迫り合いの終了を告げた。
窮地を脱したリタは距離を取るように後ろへ飛び退くと、銀色の大盾を作り出した人物に感謝の言葉を口にする。
「クロエ、助かったわ」
「いえ、当然のことをしたまでです。しかしリタ様、状況は最悪です。あれをどうにかしないといけません……」
「……えぇ、そうね」
二人は、壁と見紛うほどの大盾を見据える。
正確には、その向こうにいるであろう赤色の魔物を壁越しに見ていた。
大盾からは、絶えず殴り付けるような音が響く。
怪物が力任せに何度も大剣を振るい、大盾を壊そうとしていた。
死は壁一枚を挟んで、未だ存在している。
だというのに、二人の表情には先程までの焦りは無い。
冷静に、最善の策を模索していた。
やがて、クロエが口を開く。
「リタ様。私があれの動きを封じるので、とどめの一撃をお願いします。きついのを一発ぶちかましてください」
「分かったわ。どうやらあれには小細工は効きそうに無いし、最強の一撃で挑むのが最善よね。少し時間を貰うけど良い?」
「勿論です。時間稼ぎはお任せ下さい!」
頼りにしているわ、と大盾の前に立つクロエの背にリタは信頼の言葉を送った。




