獣の剣
速い。
リタにそう思わせるほどの加速で距離を食い潰そうとする魔物に対して、彼女は迎え撃つ形で魔法を発動させる。
青白い輝きを灯す魔法陣から生み出されるのは、氷の巨剣。
宙に浮かぶそれは一つや二つではない。
三十を超える氷の剣はその切っ先を魔物へ向けたまま、静かに迎撃の時を待つ。
「穿ちなさい、【氷剣軍勢】」
リタがそう囁くと、王に付き従う騎士の如く控えていた氷の巨剣は、下された王命を全うするために飛翔する。
連続して飛びたつ氷剣、それらを相手に避ける様子すら見せず直進する赤色の魔物。
我先にと怪物の生を終わらせにかかるのは、三本の氷剣だ。
魔物の頭部、胸部、腹部を串刺しにせんと迫り来る。
数瞬の後に三ヶ所を貫かれ、その中身をぶちまける魔物の姿を祈るような思いで幻視する冒険者達。
目と鼻の先に氷剣の切っ先を突き付けられた魔物は、そこでようやく肩に担ぐ大剣の柄を強く握り締め、迎撃のためにそれを振るう。
次の瞬間、冒険者達は衝撃の光景を目にする。
魔物が振り下ろした大剣は、とうてい間に合わないと思われた三本の氷剣を一振りの内に粉々に砕いて氷の粒に変えると、背後に置き去りにする。
しかし、驚愕はそれだけで終わらない。
前だけを見詰める魔物の眼に映るのは氷剣の群。
いくつもの銀線の軌跡を引くそれを、同じように叩き落としていく。
天を割るように大剣を振り上げて、薙ぎ払って、また振り下ろす。
怒濤の勢いで襲い掛かる氷剣を、踊るように迎撃して見せたのだ。
その動きは、野生の勘に任せた荒々しい剣舞。
そこに積み重ねた技術は無く、技も無い。
生まれ持った身体能力を十全に発揮した、獣の剣だった。
「グオオォッ……!」
獣の咆哮が空気を震わせ、音の暴力が冒険者の心と体を凍り付かせる。
だが、獣にそんなことは関係ない。
極上の獲物を前に魔物の突撃は止まらず、さらに前へと身体を送り出す。
魔物はすぐそこまで来ているのに、未だリタの心と体は氷解しない。
自らの技を容易く砕かれ、強固な自信にひびが入った彼女の思考は鈍いままだ。
そんな副団長の姿に、新人冒険者は絶望に捕らわれ、身体を震わせる。
そして今まさに赤色の魔物が距離を食い潰し、その大剣をリタ目掛けて振り下ろす。
後方に控える冒険者の誰もが副団長の死を幻視し、恐怖で眼をきつく閉じる中、リタはここまでの接近を許した自分に強い怒りを覚えると共に、下から掬い上げるような形で剣を振るう。
剛の剣と柔の剣が、激しくぶつかり合う。
刃と刃が、互いを削るように激しく擦れる。
その度に火花が飛び散り、人と魔物の間で絶えず咲き乱れていた。




