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魔物の王

 驚愕を隠せずにいるリタ達の眼前には、一体の魔物がいた。


 空から降ってきたそれは、異形と形容するのに相応しい風貌をしている。


 凝固した血液を思わせる赤黒い皮膚、三メートルを超える体躯。


 無造作に肩に担ぐ大剣は血がこびりついたように赤く、刀身は所々欠けていた。


 魔物の姿形は片手に持つ大剣を除けば、そのシルエットはゴブリンロードと呼ばれる魔物そのものだった。


 しかし、本来のゴブリンロードはゴブリン同様緑色の皮膚であり、赤黒くはない。


 体格も一回りほど大きい。


 もはや誰の目にも別の生物にしか見えないだろう。


「……リタ様、あれは……?」


「ゴブリンロード、には見えないわよね……」


 動揺を帯びた声音で問いかけるクロエに、リタ自身もはっきりとした答えを出せずにいた。


 見たことも無い魔物、当然戦闘経験は皆無。


 頼れるのは自分の勘だけという状況で彼女が選んだ選択は、


「全団員、戦闘準備! クロエ以外の団員は臨戦態勢のまま、後方へ下がりなさい!」


 高レベル冒険者のみでの戦闘だった。


 リタの一声に場の緊張は高まり、団員達の表情には隠しようのない緊張が浮かんでいた。


 隊列を崩さず後ろに待機する団員達をよそに、リタの隣に並び立つクロエは真剣な面持ちで口を開く。


「……ガレヴァン大森林に生息するゴブリンロードの平均レベルは18。私達以外の団員には危険ですし、下がらせたのは最良の判断です。さすがリタ様」


「そういうのは良いから油断しないで。あれをただのゴブリンロードというには異質過ぎるから。最悪それ以上のつもりでやりなさい」


「了解しましたリタ様! このクロエ・ロアが最も役に立つところを御見せします!」


 やけに張り切るクロエをよそに、リタは油断なく赤色の魔物を見据える。


 魔物の中には、他の個体よりも明らかな強さを持つ魔物がいる。


 例えば、縄張りの王者。


 例えば、ダンジョンのボスモンスター。


 それらは通常の魔物とは一線を画する力を持ち、訪れる冒険者を苦しめる。


 そして、眼前の魔物もまた、それに該当するもののようにリタには思えた。


 さらに一度も戦闘経験の無い未確認の魔物が相手では未知数な点も多く、迂闊には動けない。


 そのような状況で背後に団員達を庇った状態というのは、嫌でも緊張を跳ね上げさせる。


 団員のレベルは10以下、一撃でも受ければ致命傷は免れない。


 それほどの力量差が、あの魔物と団員にはあった。


 レベル36のクロエですら対処できるかどうか。


 最悪自分と同等、それ以上の可能性すらあることをリタは全身で感じていた。


 そんな一歩先は生か死かの状況の中でリタ達にとって幸いだったのは、赤色の魔物から積極的に動く様子が無かったことだ。


 妖しい光を灯す両の眼で品定めするようにリタ達を見据え、ただただ静観するのみ。


 その時点でリタは決めていた。


 すなわち、最初から全力で戦うと。

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