神の落としもの
「小休止は終わりです。これよりガレヴァン大森林を抜け、リグ平原を目指します。私とクロエが先頭を、後の人は隊列を組んで着いてきてください」
「「「了解です!」」」
応じる団員の声が重なり、その迫力に少々気圧されながらもリタは隊長らしく振る舞う。
自分がリーダーなど向いていないという自覚はあるが、組織に属している以上、嫌だ嫌だとは言っていられない。
アルスに次ぐ高レベルであるリタには、クランの新人冒険者を育てる大事な役目があるのだ。
とはいえ、
「はぁ……」
彼女としてはため息が漏れてしまう。
トヴァレ出発前の出来事。
シフォンとの口論が尾を引き、集中できずにいた。
リタとしてはもう一度話す機会があれば良いと思うが、彼の態度を思えばそれも期待は薄いだろう。
「はぁ……」
胸の内に渦巻く感情は後ろ向きなものばかり。
もしや本格的に嫌われていないだろうかと何度思い、そのたびに何度頭を振ったことだろうか。
感情的になりすぎたことを反省するも未だ進む足は重く、いつもの彼女らしさは皆無だった。
どんよりとした空気を漂わせるリタに新人冒険者の誰もが声を掛けられない中、隣を歩くクロエだけはすました顔で疑問を口にする。
「リタ様、さっきからため息ばかりで一体どうしたのですか? 体調が優れないのでしたら今回はもう引き返した方が良いかと思います。この場で団員達を守れるのは私とリタ様しか居ませんし……」
「えっ? 大丈夫よ。それよりも私ってそんな風に見えていたの?」
「はい。現在進行形でそう見えますね」
はっきりと言い切るクロエに、リタはぎこちない笑みを返すことしかできずにいた。
自分で思うよりも感情が表に出やすいことを彼女が知った瞬間だった。
「原因はあれですか、トヴァレ出発前に大通りで言い合っていた金髪小僧ですか?」
「金髪小僧って……。あの子は幼馴染みよ。シフォンって言うの」
「幼馴染み、リタ様の……。なんて羨ましい。私にその肩書きを譲って欲しいものです」
「はぁ……。変なこと言ってないでリグ平原への方角が合っているか確かめて」
「む、変なことではないのですが今は良いでしょう。分かりました、すぐに確認します」
呆れたようにため息を吐き出して半眼になるリタ。
一方のクロエは表情一つ変えず、いつものすまし顔で応じていた。
クロエはリタからの指示を実行するように地図を広げる。
正確な方角を確認するために彼女がコンパスを取り出すと──怪音が轟く。
女性の叫び声にも似た甲高い音。
リタ達がそれに反応し、疑問と警戒を抱くよりも早く、何かが空から落ちてくる。
暴力的な速度で空から降ってきたものが大地へ衝突した瞬間。
鼓膜を突き破るような爆音と強烈な衝撃波を生み出し、リタ達へと襲いかかる。
「ぐっ!?」
「リタ様!?」
荒れ狂う暴風に耐えるリタ達。
両の足に力を入れていなければ簡単に身体は宙を浮き、瞬く間に吹き飛ばされてしまうような嵐が身体を殴り付けてくる。
やがて暴風は止み、舞い上がる砂塵が晴れると落下してきたものを視認した。
そして、またしてもリタ達は驚愕に襲われる。
陥没し、蜘蛛の巣状にひび割れた落下地点に存在したのは、一体の魔物だった。




