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神々と魔物

 落ちた魔石を拾い上げる僕の頬はもうどうしようもないほど緩み、終始ニヤニヤが止まらない。


 だってあれだけ苦労して倒していたゴブリンを、こうもあっさりと倒せたんだ。


 今くらい手放しに喜んだって良いはずだよ。


 ゴブリンを倒し安全が確保されたことで近づいてきたティファに、僕は早速この喜びの感情を伝える。


「ティファ、見てた! 簡単に倒せたんだ! 僕一人でも!」


「……はい、ちゃんと見てましたよ。とても勇敢でした」


 見せつけるように掲げた魔石と共に喜びを伝えると、ティファはやや複雑な感情を抱いた面持ちで言葉を返した。


 どうしたんだろう?


 気になった僕は深く考えず、彼女へ疑問を投じる。


「どうしたのティファ? 何か元気がないように見えるけど……」


「……いえ、そんなことは。……ただ、魔物というのは私達落ちた神々が作り出したものなので。その消滅と残された核を見てしまうと……。何というか、とても複雑な気持ちになってしまうのです……」


「あ……」


 そう弱々しく言って、困ったような笑みを浮かべるティファ。


 急激に冷静になった僕はその手の内にある魔石へと視線を落とし、悟った。


 これが何なのかを。


 何を相手にしていたのかを。


 ティファ達にとって魔物とは僕達、人からその身を守るために作り出したものなのではと。


 いや、きっとそうだ。


 それを僕は倒した。


 純粋無垢な子供が無抵抗の虫をおもちゃのように扱い、命を奪うように倒した。


 だけど、魔物を倒すのは冒険者として当然の行為なんだ。


 分かってる。


 分かってるけど、僕の口から飛び出てきたのはティファに対する謝罪の言葉だった。


「あ、あの! ティファ、ごめん! た、倒しちゃった! ほんとごめん!」


「……シフォン? どうしたのですか?」


「君の、君達が作った魔物のことだよ……。倒して、ごめん……!」


「シフォン……。良いのです。そう何度も謝ることではありません。あなたのスキルを試すのに着いていくと決めた時から、覚悟していたことなのですから」


「……それでもごめん。はしゃぐことじゃなかった……」


 胸の内に渦巻く罪悪感は僕だけが感じているものだろう。


 ティファに出会って、ティファを知った僕だけの感情。


 魔物だってティファ達から見れば、きっと大切なもののはずだから。


 だから謝った。


 頭を下げて、誠心誠意を込めて、謝ったのだ。


「……シフォン、良いのです」


「っ……! けど……!」


「良いのです!」


 それでもなお謝ろうとする僕の両頬をひんやりとした柔らかなものが包み、ゆっくりと上を向けさせられる。


 両の頬を包むものは、ティファの手だった。


 初めて出会った時にされたのと同じように、彼女の両手は僕の頬へと添えられていた。


 眼を見開き、驚く僕とは対照的にティファは落ち着いた様子でなおも繰り返す。


 子を諭す母のように。


「……良いのですよ、シフォン」


「でも……!」


「確かに魔物は私達がお父様や人から身を守るために作り出したものですが、すでに私達の手を離れてしまっているのです」


「え……?」


「お父様の力の影響を受けているのでしょう。もう何百年も前から制御できなくなっているのです。そもそも全てを自分の思い通りに動かすことなど不可能なのですよ。……私は、私達はお父様ほど万能な神ではないのですから」


「ティ、ファ……」


「ですから今まで通り想いをかけて、命をかけて戦えば良いのです。それがきっとシフォン達にとっても、あの子達にとっても良い結果を導くはずですから。正々堂々と、ただそれだけで良いのです」


 そう告げて、目の前の女神様はパープルカラーの瞳に僕を映し、儚げに微笑んだ。


 僕はもう何も言えず、ただ立ち尽くすだけだった。

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