戦闘
未踏領域、ガレヴァン大森林でレベル3のゴブリンを発見した僕たちはその魔物をスキルを試す相手に選んだ。
僕のスキル【経験値増加・付与】は総取得経験値をステータスパラメーターへ割り振れるという規格外の性能を秘めている。
そのスキルを使い、筋力に120、耐久に100、敏捷に150割り振り、それぞれのパラメーターはレベル1からレベル10相当のものに強化された。
そして現在。
身を隠すように木を背に魔物ゴブリンの様子を窺う僕は覚悟を決めると、隣に寄り添うティファに「行ってくるよ」と囁いて、鞘から剣を引き抜く。
降り注ぐ木漏れ日を受けて刀身は一筋の輝きを走らせ、強張った表情をした自分を映す。
そいつに向かって笑ってみせた。
笑ってやったのだ。
ここからだ、ここから。
立ち止まった僕が再び歩むための一歩を踏み出すのは。
冒険者として魔物を倒すんだ。
一度大きく息を吸い、吐き出すと木の影から勢いよく身体を飛び出させた。
最初に一歩踏み出した時に感じたのはあり得ないほどの身体の軽さ。
重さを知らない軽やかな動き、それでいて地を蹴りつける足は何とも力強い。
これが本来のスキルの力、ステータスの恩恵なのかと素直に驚いた。
いける!
これなら僕は──。
「《エターナル・ワン》でも強くなれる!」
やっとつかみとった確信を胸に一歩二歩と疾駆すれば、瞬く間に身体は速度に乗り、目標のゴブリン目掛けて一直線に突き進む。
一気に埋まる距離にようやくゴブリンも此方の存在を認識したのか、武器の棍棒を構えて戦闘体勢をとる。
でも、もう遅い!
矢のような勢いで迫る僕の一撃をかわすことも防御することもできないはずだ。
僕がミスをしない限りは。
「へ?」
何かに躓いたと思った瞬間、突然の浮遊感に襲われた。
地に足が着いていないし、身体は宙を滑走している。
さっきまでと同じ速度で。
あ、やばい……。
「うわああぁぁっ!?」
「ギィ!?」
絶叫を上げる僕は驚くゴブリンの横を通り過ぎ、奥の木へ吸い込まれるように衝突する。
かなり勢いよくぶつかったのに何故か身体は痛くない。
もしかしてレベル10相当のステータスのおかげ?
助かった、レベル1のままだったら大怪我していたよ……。
でも。
でも、そのステータスに翻弄されたのも事実だよね。
ちょっとした力加減を間違えただけでこれだ。
気をつけないとまた同じミスをしてしまうぞ。
しっかりしろ僕!
自身を叱咤してすぐさま起き上がり、目的のゴブリンを見据える。
互いの距離は七メートルほど。
ゴブリンは警戒心を強めているが、同時に動揺しているように思えた。
すぐに攻撃して来なかったのはそれが理由だろう。
ま、まぁ逆の立場なら動揺どころか恐怖すら感じる自信があるし……。
ゴブリンが矢の如く勢いで横を通り過ぎるとか、地獄だ。
想像しただけで死ねるよ……。
あぁ、良くない!
集中しろ、集中!
自分に言い聞かせ、緩んだ緊張の糸を今一度、張りつめさせる。
深く呼吸するのをスイッチに、意識を戦闘用のものに切り替え、武器の剣を構えた。
相対するはゴブリン。
訪れるのは静寂。
じりじりと身を焦がす緊張感の中、先に動いたのはゴブリンだった。
「ギギィ!」
「ん?」
何だろう、これは……。
棍棒を振り上げ考えなしに突っ込んでくるゴブリンに、いつもとは違う感覚に襲われる。
ゴブリンの動きが遅く感じるのだ。
緩慢な動作に困惑するが、油断はしない。
此方も地を蹴る。
一陣の風と化したその身で瞬く間に距離を詰めると、剣を閃かせた。
その剣速にゴブリンは一切反応できず、すれ違い様にその胴を一刀両断。
確かな手応えを胸に振り返ると、上下に分かれた魔物の死体が転がっていた。
やがてそれは光の粒となり風に流されると、その場に残されたのは勝利の証しである魔石だけだった。




