僕にとっての女神様
「ではシフォン、落ち着いて話せる場所へ移動しましたので先程の話を再開させても良いですか?」
「う、うん! 《エターナル・ワン》のことも気になるけどティファのことも教えてほしいなぁ」
「はい、喜んで。では私のことから話しましょう。あの、こんなことを言って信じてもらえるかどうか分からないのですが……」
はっきりとした口調で話すティファにしては、どうも歯切れが悪い。
まぁ、この場所を自分の部屋だと言うくらいだからそれなりに複雑な事情を抱えているのだろうけど。
あぁ、でも同じ地下迷宮で暮らしていたってことは僕たちはお隣さんってことになるのかな?
とか、今は関係無いことを思いながら彼女の次の言葉を待つ。
やがて覚悟が決まったのか、ティファは両の瞳に確かな意思を宿し、僕を見つめる。
そして自身の胸へ両の手を添えて、やや緊張を伴った声を吐き出した。
「……実は私、神なのです!」
「……は?」
「創造神ガイアスは私のお父様なのです! ですからその娘である私も神なのです!」
「……え? ええぇぇっ!?」
絶叫した。
理解しようとして理解できず、壊れたようにただ絶叫していた。
か、神様……!
ティ、ティファが……!
創造神様のことをお父様とか言ってるし、自分は娘だって……。
えっと、本当なの!
でも、もしそうならあの全てを理解しているような眼差しも、普通の人とは違う神々しさも説明がつくのではなかろうか。
やばい、考えすぎて目眩に襲われる。
あぁ、僕の理解を超えているよ……。
それでも真意を確かめるようにティファの表情をおずおずと窺う。
色鮮やかなパープルカラーの瞳は真っ直ぐに僕を見つめ捉えていたが、その表情はどこか強ばっているように感じた。
その姿を目にして悟った。
ティファがどれだけの勇気を振り絞って、僕に打ち明けてくれたのかを。
自分の重大な秘密を明かし、怖がられることも嘘だと笑われることも分かっていながらも、僕に伝えてくれた意味を。
信じてほしい、僕なら信じてくれると。
なら、その気持ちだけで充分だ。
僕は信じられる。
「……僕はね、この世界に神様はいないものだって思ってた」
自分の声が室内に良く通り、ティファの表情がやや暗いものになる。
その瞳に僅かな諦念が宿るが、違うんだよ。
ちゃんと続きを聞いて欲しい。
「だって創造神様は僕にだけにまともな加護を、まともなスキルを与えてくれなかったんだ。それに本当にいるのか姿だって見たことないし。だから僕の中には神様なんていない。いなくて良いって割り切ってた。でも、そんな時に君が現れたんだ」
「……え?」
続く言葉が意外だったのか、ティファは気の抜けた声を漏らす。
それが僕にとっても意外で、思わず苦笑した。
いけないいけない、続きを話さないと。
「用無し迷宮で出会った君は華やかで神秘的な女の子。貴族のお嬢様、異国のお姫様かと思っていたけど、まさか神様だったなんて。……うん、なんかしっくりきた。信じるよ」
「……嘘を吐いているかもしれませんよ? 騙されたあなたを心のなかで嘲笑っているかもしれません」
「いいや、君はそんなことはしない。何でか分からないけど、そういう確信があるんだ。だから君が僕の話を信じてくれたように、僕も君の話を信じる。それにこんなことを言うのは妙に恥ずかしいんだけど。僕の心を救ってくれたティファはやっぱり神様、女神様だよ。うん、少なくても僕にとっては」
「シフォン……! ありがとう、わたしを信じてくれて。ありがとう、シフォン」
不安が散った、晴れた空のような笑みをティファは見せてくれる。
潤んだ瞳と朱の差した頬が彼女の笑顔をさらに魅力的にさせていた。
ティファは僕に感謝していたけど、やっぱり僕の方がずっとずっと感謝していると思う。
君に出会えて良かった。
神様はいたのだと、今は皮肉無しに言える。




