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シフォンとティファ

 全部、話した。


 自分のこと、そしてリタのこと。


 ティファは時折相づちを打ち、聞いてくれていただけなのに、するすると言葉は出てきてひたすらに思いだけが零れ続けた。


 終いには涙まで零れてきて、泣き出した僕をティファは自身の胸へ引き寄せ、抱きしめてくれた。


 ぎゅっと僕の頭を抱いて、ティファも泣いていた。


 いや、泣いてくれていたんだ。


 誰かのために泣ける優しい女の子の温かな涙が頬へ落ちてきて、それを理解した。


 曇り空が晴れていくような感覚。


 あれだけ荒れていた心が落ち着いていた。


 思わず、彼女に自分の居場所を見出だしていまいそうになる。


 それがとんでもない甘えで、リタへの裏切りだと気づき、すんでのところで思い留まれたけど。


 結構危なかった……。


 全ての人を受け入れてしまいそうなティファの圧倒的な包容力は、とんでもない兵器だ。


 母性の塊。


 女神と言っても差し支えない存在だ。


 体験した僕が言うんだ、間違いない。


 いや、それよりも……!


「ティ、ティファ……! もう大丈夫だから! 離してくれない!」


「はい? もう泣き止みましたか? それは良かった。シフォンが元気になってくれて、私はとても嬉しいです」


「うん……! ちょっとというか結構元気出たよ! ありがとうティファ!」


 感謝を告げると彼女の腕から一瞬、力が抜ける。


 チャンスとばかりに、逃げるように飛び退いた。


 うぅ、何だかすごく柔らかいものに顔を押しつけていたような……。


 や、柔らかかったなぁ。


 思い出しただけで熱を帯びる頬を冷ますように手で扇ぐと、ティファはやや緩んだ笑みを見せてくれる。


 さっきまでの大人びた聖母のような上品な笑みとは少し違う。


 気の許せる友人や家族に見せるような無邪気な笑顔。


 年相応の少女の笑みだった。


 その笑みに見とれて、可愛いと思ってしまった。


 顔が熱くなる。


 やばい、本当にやばい!


 どんどんティファに惹かれていく自分がいる。


 可愛いし、優しいし、何か神々しいし。


 一緒にいたいって思わせてくれる魅力がある。


 だけど、そんな魅力的なティファと僕が釣り合うわけがない。


 そもそも僕にはリタへの思いがあるし、簡単には心変わりなんてしないはずなんだけど──。


 あぁ、もう! 頭の中がグチャグチャだぁ!


「シフォン、あなたがとても辛い思いをしたことは理解しました。《エターナル・ワン》と相性の悪いスキル、そしてリタさんを思いながら同じ場所へ行けないという劣等感がずっとずっとシフォンを苦しめていたのですね。分かりますとは簡単には言えません。ですが、これだけは言えます。シフォン、良く頑張りましたね」


「あ……。そうだね、うん……。頑張ったかぁ……。自分で言うのはあれだけど、そうかもしれない」


 役立たずなスキルを与えられ《エターナル・ワン》という体質のまま、リタが居ない状況で一年も冒険者をやれたんだ。


 きっとそれは頑張ったということなのだろう。


 ティファに言われて、初めて気づけた。


「世界は結果が全て、シフォンのような冒険者なら尚更なのかもしれません。ですがどうか頑張ったあなたを、過程も大事にしてあげてください。それもシフォンの大切な一部なのですから」


「……うん、ありがとうティファ」


 ティファの優しさが僕を包む。


 傷ついた心が少しだけ治ったような気持ちだ。


 僕は久しぶりに、心から笑った。


 笑うことができた。


 君のおかげで。


 笑みを見せればティファも笑ってくれる。


 少しの間、そうして笑い合うとティファは何故か表情を改めた。


 自身の胸へ手を添えて、真摯な態度を取る。


 響かせるのは凛々しさを乗せた声だ。


「ですが、重ねた努力はちゃんと報われなければいけません。でないと世界はあまりにも残酷ですから。シフォン、あなたは報われるべきなのです」


「う~ん、そう言われても僕は実際に《エターナル・ワン》だし。スキルももうどうしようもないしなぁ」


「その《エターナル・ワン》というものが本当はどういうものか理解していますか? シフォンのスキルが本当に役立たずだと思いますか?」


「え? それってどういうことなの……?」


 急にティファが言い出したことに、あからさまに動揺してしまう。


 まるで全てを知っているかのような口振り。


 どこか人を超えたような存在感が彼女を包んでいるような気がした。


 ティファは一体、何者なんだ……。


 「創造神は、お父様は何故このようなことを……。人に、自身の眷属にする仕打ちではありません」


 呆然と立ち尽くす僕にティファの呟きは良く聞こえない。


 やがて彼女は何か思いついたように踵を返し、地下迷宮の奥へ足を向けた。


「場所を移します。着いて来てください。もしかしたらシフォンの力になれるかもしれません」

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