09 トラブル、エンカウント!
「近衛隊前へ! プレデターウルフの討伐及び対象の保護!! 急げ!!」
「「「はっ!」」」
「お待ちください! あの個体はこの界隈の保護者なのです! お止め下さい!!」
なんだこりゃ。
ーーー ◆ ーーー
はい、みんなが羨む魅惑の毛並みを全力で堪能してるなんちゃってお嬢様ことぼくですが、ただいま検問所前にて順番待ちの真っ最中です。
ガイさん曰く「この辺りの町とかにはだいぶ顔売ってるから大丈夫だろ」とのことでしたので、ガイさんに横乗りのまま町の受付へと歩みを進めたまではよかったのですが。
『あ、こりゃちとマズいかもしれん』
「なにか問題でも?」
『ああ、普段ぜってーいなさそうな武装集団がいる。たぶんありゃ領主の息子の私設兵団だ』
「ガイさんそれってまさかあの?」
『ああ、潔癖子息の抜き打ち査察でもあったんじゃねえかな』
「お嬢様、知識を拝借……把握、確かに面倒なことになりましたね。このままUターンしませんか」
「それ絶対追われるからの指名手配コースだよね、やめてね?」
『ここまで来ちまったんだ、進むぜ。ここで俺だけ逃げてってもお嬢らに面倒事が行くだけだろ。なぁに最悪俺が囮になって逃げ回りゃ注意がそれるだろう、そのどさくさに町に入り込むなり逃げるなりすりゃいいさ』
「ガイさん……」
なんというか人の身でないというだけでこの扱いですか、ガイさんの苦労が計り知れません。……せめて意思疎通さえできてれば違うんだろうけれども。ぼくはガイさんから降りて横に立ちます。
「ガイ氏、こちら浮遊型迎撃兵装のシー・アネモニーです、お持ち下さい」
『おいいいのかこんなもん、そっち優先しとけよ』
「大丈夫です、こちらにはいくらでも対応手段はありますので。それにもう時間切れのご様子です」
「そこの二人組! その害獣から離れるんだ!!」
ぼくが声の方へと視線を向けると、周囲の兵たちの装備とは明らかに格が違う身なりの男性が、すでに抜剣しながらこちらへと歩み寄ってくる。あれがおそらく『潔癖子息』と噂の男、この辺りの領主の三男でもあるリオン氏であろう。
以前話題にした事のある平野部の町に国から派遣されてこの地域を管理維持している一族、それがリオン氏の家だ。姓は……たしかアイアン家って言ったかな。
ここ何代かは変わらずに管理を任されていることから迂闊な一族でないことは確かだろう、まっとうかどうかはさておき。
その中でも特に有名人なのが彼、リオン氏である。彼は領主から権限を持たされており、各町村をあの通りの格好で巡り回ってはちょっとした不正等でもあると言及され断罪、場合によっては一刀両断もあるとのこと。
さらに害獣の被害を聞き付けると、その地域の兵団の管轄を飛び越えて現れては周囲もろとも過剰なまでに殲滅していくとのこと。そんな彼に、誰が言い出したのかついた呼び名が『潔癖子息』である。
そんな彼が目の前のガイさん……世間では危険指定されているプレデターウルフを目の前にするとどうなるか……それが話の冒頭である。
ちなみに冒頭でリオン氏を制止しようとした受付兵さんは、振り払われた際に打ち所がよくなかったのか転がって呻いてます。
「聞いているのかそこの二人! すぐこちらへ! 近衛隊! 囲め!!」
「「「はっ!」」」
兵団が展開していく中、ぼくはガイに寄り添い、おーちゃんは背中から盾を持ち出し、さらに腰の後ろに装着していた小型自動小銃を抜く。帯剣しているにも関わらず、潔いまでの近接拒否っぷりだ。
おーちゃんは私たちから見てガイさん側にあたる面に展開しようとしていた兵たちの足元へ威嚇とばかりに射撃を行う。たららららら、と軽快な音と共にたまにカァンと小気味のいい金属音が聞こえてくる。……わざと大盾に当ててるよおーちゃん。
「何事か! 我がお嬢様を囲むなどと無礼であろう!!」
いや無礼も何もあっちは歴とした国家権力、こっちは偽装平民ですよ?
兵団は放たれた威嚇射撃の速度と異様さに警戒の色を強める。展開した陣が盾兵を前面にし数人毎のグループに別れじりじりと包囲を進めていく。
おーちゃんが盾を捨てる、と同時に盾の裏に装着されていたもう一丁の小銃を手にして展開しようとしていた兵の足元や大盾に銃撃をお見舞いする。
途端に陣形がさらに防御的、かつ敵対的なものへと変わり、3グループ毎の集団となり足を止めてぼくたちに敵意の視線を向ける。ああぁ……
『うん、こりゃもう戦闘不可避だな』
「構いません、このような野蛮な連中には慈悲よりも銃弾がお似合いでしょう」
「あばばばばばば」