05 動力源は少女の〇〇エネルギー
はぅっ! いまここうちどこわたしだれ!? ……こほん、取り乱しました。
こんにち……もう外暗くなってきたからこんばんは、かな。民間人という名の根なし草ネミアです。
…
……
………
あぁぁぁもおぉぉぉぉなんなの動力源が生体エナジーだってのは刺さり込んだ知識ではわかってはいたけど、まさかあんなド変態プレイとか聞いてないぞちくしょう!!
『おそらく何者が意図的に《引き継ぎ》内容から削除した可能性があります。…… 』
「聞こえてるぞ実行犯んんんんん!!!」
通常充填モードでは普段ぼくから放出されている生体エナジーを機内の非接触型端末で受信、吸収して行うのですが、その……緊急充填モードと称したアレは……アレは、ぼくをぷよぷよした透明の膜で挟み込み、全身からエナジーを吸い出しやがったのである。
ちょっとすごすぎて逝くかと思った。……あうう腰抜けてるです膝カックカクしてるのですよ。
『へんたい美味しゅうございました、現在35%です。なお開始直後からのお姿を私のプライベートフォルダに保存しておりますので、ご覧になりたい際は私にお申しつけ下さい』
「忘れろ! 消してしまえそんなもの!」
…
馬鹿騒ぎはさて置き、とりあえず当面の活動用備蓄エネルギーは確保できた。
しかしいきなり自由だとか言われてもどうしたものやら。物心ついてからの大半が奴隷生活だったから自身で考える部分退化してそうです……むー
「おーちゃんおーちゃん、なんかいきなりすぎてなんも思いつかないんだけどどうしよ?」
『でしたらもう一度充て「絶対にお断りですよ!?」……残念です』
まったく、癖になったらどうするのです! ……ぅぅ
『……であれば健康回復と精神療養を当面の目標として具申します。その、正直体脂肪率が危険水準に達しそうです。あとその年齢で細マッチョはある意味見ていて痛々しいかと』
「そこまで言う!?」
そんなぁー、今まで気にもしなかったとはいえそんな酷いかこのぼでー。一応肉はあるんだよ、筋肉は。摘める場所となるとほっぺくらいしかないですが。
試しにバイタルチェックしてみたらあまりの欠食児童っぷりに唖然。というよりこのチェックが厳しすぎませんか?
『次に精神療養に関してですが、今でこそ解放されて負担が薄くなっておりますが、隷属状態時の恒常的な精神負荷によるダメージが相当蓄積しております。なのでしばらくは療養が必要かと思われます』
「そっか……やっぱりトドメさしとこうかな?」
しょーじき銅貨袋でもじゅーぶん殺れてる、てかなんで生きてるの? という状態ではあるが、それでもわざわざ『自らの手で殺す』必要があるかと言うと……なんかそれのせいで逆に病みそうです。
『ネミアがそれ以上負荷を受ける必要などありません。僭越ながら機体でひと踏みすれば……』
「おーちゃんがやっても結局ぼくがやってるのと同義だし」
『であれば残念ですがそのまま捨て置きましょうか』
「うん、そんなことよりもこれからの生活の方が大事なのです」
衣は何とでもなる、食は……変換で出てこないっぽいんで必須。住は……まず《ウォードレス》なんとかしないと解決とかそれ以前の問題になりそうです。……っくぅ~
「あぅ、意識したら猛烈にお腹すいてきたです。村じゃ……もう死んだのが広まってるから無理かな、戻る気もないけど。おーちゃん、近くにそこそこな規模の町とかないか調べられる?」
『はい、……サーチの結果二件ヒットしました。北部の山のふもとにある人口500人程度の町と、南東平野部の3000を超える町となります』
「北の町で」
……ビビってない、ビビってないのですよ!? ただずーっとド田舎集落住まいだったので急に知らない人だらけな場所に行くのがちょっと抵抗が……!
『了解。しかし陸路は地面が脆弱で《ウォードレス》での移動に適さないと思われます。ですので巡航モードで中空の移動を推奨します』
「任せても大丈夫…だよね。試しに浮いてみて」
《ウォードレス》搭乗時は自身の視界のように見える視界同調モードと、全周囲をシート周辺に映し出す全周表示モードに切り替えられるのです。うーん、ぼくの相性的には同調モードのほうがよさげなようです。全周囲は……ちょっと気分がうべぇー
『ちなみに各種機能にエナジーの割り振りが終わりましたので、《ウォードレス》に併設されている亜空間ハンガーが使用可能になっております。人口密集地に接近したら収容して進むという手段も取れますが』
「それを聞いて安心できたのです。さあ出発、おいしいご飯と……」
『ネミアの生活環境の充実を求めて、ですかね』
ぼくたちの意思表示に答えたかのように、《ウォードレス》は浮上、各部にあるスラスターから緑の光を噴きだしながら飛行を開始する。さぁ町に着いたら何食べましょうかねー?
ーーー ◆ ーーー
《ウォードレス》が飛び去る寸前、その下の地面では自身に治癒魔術をかけ、痛む頭を押さえながらふらふらと立ち上がったひとりの青年がいた。
自分の物だったはずの少女を殺し、なおかつ喰らい、遥か彼方へと飛び去っていった鎧を彼は見えなくなるまでずっと憎々しげに睨みつけていた。
「俺のモノに……好き勝手しやがって……今に見てやがれ畜生!!」