04 機械もお腹は減るのです
「いぇあ!」
銅貨袋着弾の瞬間を見て、あまりのクリーンヒットっぷりについついポーズまで取ってしまったのです。だが奴に今までやられた苦しみに比べればこんなの有情有情。たぶん
『あの、ネミア? あちら様は割と重篤でございますが?』
「うんほっといていいよ。ぼくだってあいつのせいで何度も死にかけてるんだ、そのくらい誤差だよ誤差」
『まぁそうおっしゃるのでしたら私からはもう何も申し上げませんが』
うん、それでいいのです。何度『命令』からの首締めで倒れたかわからないし、『命令』に抵抗して精神が軋みをあげるなんてそれこそ日常茶飯事だったのです。でもあいつの言う通りになんかしてたらとうの昔に先輩方と同じ状態だったから必死でしたよ。……何度折れそうになったか
うじうじと思考が闇に埋没しそうな、そんなとこでおーちゃんの一言にふと我に返る。
『所でネミア、さすがにその格好は女性としてどうかと進言します。前任者の置き土産で心苦しいですがこちらをどうぞ』
「すいませんおーちゃん先生、今のに比べたら着れるならなんでもいいのです」
一応ぼくなんて言ってはいますが女の子ですから、気にする余裕が出来た今ならさすがに見た目くらいはましにしたいのです。女の子ですから。
……どこかから気にする程の見た目かよ、と突っ込みが聞こえる気がしますが無視無視。だって仕方がないでしょう。5年に渡る農奴生活で締まるだけ締まって余分なお肉なんてつく余地なんかありませんでしたので。あ、かわりといっては何ですが腹筋とかうっすら浮いて見えますよ? ふんっ
え? ちがう、そうじゃない? ……わかってますよちくしょう。
ともあれ、これからは極短髪一択しかなかったあの頃とはもう違うのです、らしい衣装も好きに着る事ができますし、今後はプロポーション作りなんかもやってい……
『水を差すようで大変申し訳ないのですがネミア、《引き継ぎ》時に機体データベースへ現在の身体データが登録された際にですが、バグかどうかまだ定かではありませんが不具合を発見しました。おそらく体型等の自然かつ大幅な更新は期待できないと思われます』
無慈悲に投げかけられたその言葉は、死刑台のギロチンよりも暴力的にぼくの希望を真っ二つに断ち切ったのであった。そぉんなぁぁぁ……
ーーー ◆ ーーー
『お加減は戻りましたか?』
「くすん、……うん、なんとか。んじゃいい加減ここから動こうか」
失意の獣ヨーツンヴァインの構え、ぶっちゃけうなだれ四つん這いから立ち直ったぼくは、目の前にあったデカくて真っ白なワイシャツを羽織り、腕をまくって調節調節。後はカーゴパンツらしきものを履き……デカすぎる、まくってまくってお腹周りはベルトでぎゅー。
……もはや今までの自文化をガン無視しまくった姿になってるけど、そこは人間諦めが肝心だよね!
パイロットシートを解放するようおーちゃんにお願いすると、胸部装甲が展開、紅色なベロア生地の座り心地がよさそうなシートが張り出してくる。うわぁ手触り気持ちぃー。思わずうつぶせに飛びつきそうになるがなんとか自制、腰掛けてリクライニングをちょちょいといじる。……でもあれ、前任者さんこんなシートだったっけかなぁー?
『以前の加齢臭がしそうなシートは独断で廃棄させていただきました。問題ありましたか?』
……うん、気遣いはありがたいが前任者がかわいそうなのでやめてさしあげて。
『それに伴いレイアウトも変更、多少ではありますが生活空間を広めに提供することに成功、また室内環境改善のための機材等も導入いたしました』
おー、ぐっじょぶおーちゃん先生。
『ですが現在機体エネルギーが枯渇寸前なため、空間それらの機能がほぼすべて停止しております。つきましてはネミアに生体エナジー供給の許可をいただきたく』
だめじゃん。まあそれならしかたがないよね。……あっ
「おーちゃんおーちゃん、まさかがっつり吸いまくって干物とかにならないよね?」
『搭乗者に特別害を与えるようなものではないのでご安心下さい。 』
なんかびみょーに不安になる笑いが気になりますが、生活環境改善のためならば、と深く考えずに許可を出した。その結果がどうなるかすら考えずに……
『それではこれより緊急充填モードに移行、エナジーバイパスを接続します』