X01-S 星の海からボトルメール
こちらは本編とは隔絶した世界線による設定ガン無視の与太話でございます。
筆者がとある事情により暴走、ナニカサレタ後に何とかされた結果です、ご注意下さい。
「お嬢様、ただ今この惑星の衛星軌道上にてワープアウト反応を検知しました」
「ふぇ?」
午後のティータイムの真っ最中、突然おーちゃんからそんな言葉が飛び出してきました。ワープアウトとか微妙に厄介事の予感しかしないのです。
「じゃが確認せん訳にもいかんじゃろ、なんなら儂らだけでも行くが娘っこよどうする?」
「うーん、どうせなら行ってみるのです」
「よしきた、オーガストや準備はできてるじゃろ、出発じゃ」
「あら、どこかお出かけ? 私はおいてけぼりかしら」
「あ、お義姉様もご一緒しますか? ……どうしましょう、おーちゃん?」
ぼくはあれこれと変な展開を想像、心配をしていたのですがおーちゃん曰く『ごく小さな物質でワープアウト後は停滞したまま動きがない』そうです。ならお義姉様も大丈夫そうですね。
「まぁ……別によいのじゃが、現地民には刺激が強すぎるんじゃなかろうか」
ーーー ◆ ーーー
「うわ、うわわわわわわ!? たか……っ!!」
「ひぃ……っ、きゃぁー!?」
『お嬢様方、間もなく惑星大気、及び重力からの離脱となります』
『まぁこうなるわな、二人ともそろそろ落ち着かんかい』
「無茶言わないでくださいです!?」
「まさか空の上がこんな過酷な場所だったとは思わなかったわ……でも凄いわね」
ぼくとしても初の大気圏離脱でしたが、予備知識すらないお義姉様はもっと怖かったでしょう。その分この光景が映えるというものです。
というか《ウォードレス》単体で大気圏離脱とかできるもんなんですね。
『機体のバリアフィールドが優秀なのもあるが、空間制御機能のショートジ……エスコートがあればこそ、じゃて』
『ふふ、他の十把一絡げ達ではこうはいきませんからね』
なんかおーちゃんが珍しく得意げに話してます。ともあれ目標はどこかなーっと……結構遠いですね。
『なぁに距離的にそこそこあるが《ウォードレス》の機動性ならすぐじゃて』
『はい、それでは当機はこれより目標地点まで向かいます』
…
「で、目的のブツはこれなのです?」
『はい、この保護カプセルとおぼしき物体がワープアウトしてきた物と思われます。スキャン開始……危険物等は見受けられませんね』
『オーガスト、物品をハンガーに収容して中身の確認をするのじゃ。こーいうモンは例え無害に見えても惑星内に持ち込むのは怖いからの』
『承知』
少佐さんの提案で機体ごとぼくらはハンガー入りし、おーちゃんはてきぱきとカプセルの開封準備を始める。
念のためぼくとお義姉様は《ウォードレス》内で待機、おーちゃんの視点を機内に映し出しての確認となります。
『これは……なんらかの文明圏で使われていそうな携帯端末でしょうか』
『なんでこんなもんがワープアウトしてきたんじゃ?』
『解析開始……起動確認。ふむ、一般人向けのマルチツールデバイスのようです』
「なにそれ?」
『メティス嬢にもわかるように言えば、これを持ってる者同士で互いに連絡をしたり手紙のやりとりを一瞬で行ったり、調べ物を行えたりする機械じゃて』
「そんなことができるの……でもその言い方ですと単体では意味がないのかしら」
『そういうこっちゃ、しかも使用できる環境も必要じゃからな、便利のための労力が尋常ではないのじゃ』
『……なんでしょう、何かの資料でしょうか。ぽちっと』
おーちゃんが操作した機器の画面に、何らかの表示が現れる。そこには
企業用支援AIサポーター『d'¥my』、法人取扱開始のお知らせ
という表示と共に、その何かの説明文が表示されました。けどなんで商品名の場所が軒並み読めないのでしょうか。
『特殊なフォントを使用しているらしく、私の変換機能では文字化けするようですね』
『ふむ、見たところ真っ当な商品のようじゃな。……ほぅ、体験版らしきものが添付されておるの、ぽちっとな』
「あ」
少佐さんが体験版とやらを起動した瞬間、おーちゃんがびくん、と震えた後に立ったまま動かなくなったのです。ちょっとおーちゃん大丈夫なの?
『はい、何も問題………なんです少佐、その反応は(パパが変な目で見てる?)』
『ぶふぉ!? なななんじゃオーガスト錯乱したか!?』
『失礼な、少佐こそ耄碌しましたか(パパったら慌ててどうしたのかしら)』
……おーちゃんの怒涛の攻撃によって、少佐さんが激しく咳込みながらうずくまってしまいました。まぁあの破壊力では致し方ないかなぁ、と。
…
『げっほげっほ……オーガストお主気づいておらんのか、なんじゃその甘甘しい声と少児が好みそうなフォントとふきだしは』
『はい?(なにかあるの?)』
「そんな、声まで変わって」
「おーちゃんのイメージも変わりそうなのです」
『そこまでですか(なんで!? なにこれ!?)』
あれからなんとか復帰した少佐さんにより、事態の説明が行われました。
そして表面上は平静を保ちつつも内心で焦るおーちゃん。そりゃおーちゃんでも取り乱したくなるでしょうね、今までの無感情ボイスがいかにもぽんこつ可愛い系のお姉さんボイスに入れ代わったのですから。
さらに内心をそれっぽく変換されたふきだしによって強制表示、暴露されているのです。
しかもぼくの視界や機体に使われているUIも可愛らしい丸文字に入れ替わりウィンドウカラーも心なしか女性らしい色合いになった気がします。
『お嬢様、しばしお暇をいただきます(いやぁ恥ずかしい帰るぅぅ!?)』
「うーん……これはこれでありな気がします」
「普段のクール従者さん、実は内心は……って凄い受けそうね」
『儂、ちょっと嬉し恥ずかしい』
『少佐……お嬢様方も私にニッチ需要を求めないで下さい(パパが嬉しいって! やった! でも本当にこれがいいのかしら)』
なんかぼくまで恥ずかしくなってきました。それにしても、おーちゃんってやっぱり少佐さんをお父さんに見てるのですね。普段のツンツンっぷりが嘘のようなデレようです。
『まぁ……とりあえず実害はないようじゃし、まずは屋敷に戻るかの。機体操作は儂がマニュアルでやるでの、オーガストは娘っこたちとゆっくりしとれぃ』
「あ、逃げたのです」
「ふふ、リガヴィ殿も動揺してるのでしょう」
『あの少佐が……そうですか(パパ……ありがと)』
しかし少佐さんがおーちゃんのお父さんっていう事ですが……ぼくから見たら
「リガじーじ?」
「ぷっ」
『やめんかい!?』
『お嬢様、少佐ではお嬢様のお爺様には該当しえないかと(あー! パパ取っちゃやだぁー! でも……ネミアが娘ってのはありね!)』
ーーー ◆ ーーー
残念ながら、試用期間が終了したとの事で屋敷に帰ってきた頃にはいつものおーちゃんに戻っていました。曰く『あの端末は永久封印です』との事でしたが、あれ持って行ったのは絶対封印目的じゃないですよね。
「お嬢様、また何か妙な考え事をしているのですか?」
「またって……いつもぼくが変な事考えてるみたいじゃないですか」
「お嬢様がその顔をしている時は大抵無意味な事を思い浮かべてるので」
「ひどっ!? ……ふふっ」
「いかがされました? 今の会話で何か面白い事でも思い出しましたか」
「ううん、おーちゃんフィルターって言葉が今出てきたのです。それを通しておーちゃんの言い回しを変換すると、ね」
「っ、そのような事はお止め下さい。お茶の準備をいたしますので失礼を」
そう言っておーちゃんはぼくからそっと離れる。うん、あの時のおーちゃんもいいけどやっぱりいつものおーちゃんがいいね。
「 お嬢様、お茶をお持ちしました、どうぞ」
文字化け解読ヒント:筆者はかな打ち




