03 私の呼び名はそれですか?
さて、ネミアが土の中でわきゃわきゃするその少し前に遡りまして。
『アクセス……前搭乗者、リガヴィ少佐からの正式な《引き継ぎ》申請を受理』
『内容は……把握、全権限の委譲処理……完了。管理物品の委譲……完了、新規搭乗者……個体名ネミアのパーソナルデータ……登録完了』
『ふむふむ、12歳で132cmの35kg、と。かなり小柄ですね。栗色の髪の毛が短髪すぎて勿体ないです……モデルデータ展開、これならこうした方が可愛らしさが増しますね』
『しかし約200年近くの少佐との漂流生活には辟易させられましたが、次の搭乗者がかわいらしい女の子とは……少佐、貴方の事は36分くらいは忘れない事でしょう』
山村の移送手段では運搬不能なため、その場に置き去られた巨大鎧こと《ウォードレス》、そのサポートAIである《オーガストZX》はひとり(?)で《引き継ぎ》処理を続けていた。かなり余計な事もしているようだが。
『個体名ネミアとの感応式リンクの構築……検索中……検索中……エラー、周辺に当該者の反応なし』
『広域サーチに切替、……反応確認、リンク構築開始……完了「おーちゃんたーすけてーっ!」……なんでしょうか今の呼びかけらしき何かは。というより今の呼称名は私の事なのでしょうか?』
リンク構築が完了した矢先に唐突に流れてきた(おそらく)自分を呼ぶ搭乗者の声。まあ呼ばれたからには向かいましょうか、とリンク情報を確認
『! 対象のバイタルイエローラインに到達。当機エネルギー残量は……変わらずゼロ。……緊急時用カプセルを独自判断により使用、搭乗者の救助を最優先として行動開始!』
そう宣言した直後、機体のあちらこちらにふぅん、と光が灯り始め、ゆっくりと立ち上がる《ウォードレス》。それは地を蹴り空中に飛び出し、体のあちこちから緑の光を噴き出し目的地へと一直線に飛び進んでいくのであった。
…
時はまた先へ進み、ネミアが二度目の呼び出しを行った直後
地の中にて文字通り暗中模索しているぼくは、物理的に自力での脱出は無理と判断、《ウォードレス》を待ちつつこれまでの人生を振り返っていた。
……なんとも虚しさと腹立たしさばかりが際立つ結果についイラッとした。
「あんちきしょーう!!」ガンッ
腹が立ってしょうがないのでとりあえず正面の壁面(?)部分を殴ってみた。ちょっと痛い、そしてあいつに言った言葉がぼくに刺さる。しょんぼり。
と、そこへあの夜の時のような、何かが落ちたと思うような振動、衝撃が走る。もしかして来てくれたのです? そんなふうに思っていたら、ぼくの周りに何かが突き入れられるような振動が。
それが三度、四度と続き……ぼくが入っているであろう(おそらく)棺桶に浮遊感を感じる。やったー、助かったのですー、そうだ今なら蓋くらいは……せーのっ!
『おまたせしま「パカンッ」……した、新搭乗者ネミア』
あ、やけに軽めの音と共に蓋が《ウォードレス》の顔に直撃しちゃった。……なんか気まずいのです。
「……あー、えーと、はじめまして?」
『はいはじめましてネミア。私の情報はある程度認識しているでしょうが、改めまして。私は当機専用搭乗者サポートAIの《オーガストZX》と申します』
「あー、ぼくはネミア、なんていったものか……とりあえず元奴隷?」
『はい、そうですね。ネミア様』
「なんかヒドい副音声が聞こえた気がするんだけど……」
『それこそ気のせいでございましょう?』
なんだろう、さっきの蓋アタック根に持ってるのですかね? そこは後で改めて謝るとして……さっきから視界のすみっこでチラチラ見えるあいつが妙にウザいのです。
とりあえずあいつの視界内に入らないようにっと……おーちゃんおーちゃんもーちょっと上に上げて上げて、アレに生きてるの見つかるとめんどくさそうなのです。
『こんな感じでよろしいでしょうか? しかし先ほどから私の事を妙な名で呼称していますが、何か不都合でもございましたか?』
「いや、ただ単にオーガストうんぬん~ってのが堅苦しいかなー、って思っただけです。……馴れ馴れしかった?」
『いえ、構いませんよ。以後そのようにお呼び下さい』
「うん、ありがと……にへ」
…
「ところでさっきからあそこでコソコソしてるのに、ぼくの買い戻し金叩きつけてやりたいんだけど前任者さんがやってた変換とか今のぼくに出来そう?」
『現在の機体同調率であれば……ごくごく低価値のマテリアル変換ならなんとか可能かと。しかしネミアは既に奴隷という立場から脱却されているのでしょう』
「うん、けどなんか踏み倒してるみたいで気持ち悪いし、何よりやれるんならここであいつとの縁をすっぱり切っておきたい」
『それでご自身が納得されるのであれば構わないのでは?』
「うん、そっかそうだよね。んじゃやっちゃうー。たしか買い戻し金の相場は……っと」
この国では自分を買い戻す際の相場は購入価格の三倍となっていたはず。ぼくが買われた金額が確か20金貨だったっけか?
さすがに手持ちのアレな貨幣では勿体無さすぎるのでマテリアル変換機能で銅貨を……2000枚取り出す。わぁいじゃらじゃらー、おっとと。
というか金貨や銀貨は変換できなかった、含有率とか精度の問題でしょうか。まぁいいや今回は重量欲しかったからね!
それにヒトトカゲさんから引き継いだ知識で簡単な計算やらもできるようになったのはありがたいです。
ついでに入れ物か何か、あ、ずだ袋が作れた。ではそれに銅貨を詰めて口をぎゅっと絞るっと。
「いよっし準備完了っ。これをこーしてっ……せーぇの、ぬぅぅうりゃっ」
銅貨でパンパンになった袋を両手で抱える。わぁお素敵な重量♪ それをぼくは……背面へと投げ捨てるかのように思いっきり投擲した。
銅貨袋という名の凶器は綺麗な放物線を描き、着弾地点に潜んでいたバキアの頭頂部へと吸い込まれるように落ちていった。
貨幣価値いろいろ
鉄貨→銅貨→銀貨→金貨→プラチナ硬貨→真銀硬貨
サイズはどれも1セント硬貨くらいのサイズ(プラチナ硬貨、真銀硬貨は500円玉くらい)
銀貨以下は含有量が比較的低めの合金扱い
鉄貨 = 1とすると
銅貨 = 10
銀貨 = 100
金貨 = 1,000
プラチナ硬貨 = 100,000
真銀貨幣 = 最低10,000,000から(埋蔵品)