03 驚愕、使用人は見た!
さすがにこれ以上メティス様について回っても迷惑になりかねないので、ぼくとおーちゃんは休憩室を退出、ひとまずあてがわれた自室(初見)へと向かう事にしました。
おーちゃんは当然ながら、ぼくもAR表示によるレーダーマップは確認できるので迷子にはならない、はず。
とはいえ常時展開してるのもなんか気疲れしそうなので、必要な時以外はおーちゃん任せなのですが。
そしてさっきからメティス様歩法を真似てはみているのだけど、どうにもかかとに重心がかかってないと不安定で仕方ないのです。
世の女性方はみんなコレできるのですかね……?
「お嬢様、つま先に集中しすぎで前傾姿勢になっておりますよ」
「んむぅ~っとっとっと、うわぁたたた!?」
むぎゅ、……なんか目の前にクッションが、ってこれおーちゃんですか。もにもに
「お嬢様、そうされましても何も出ませんよ。あとこの素体は感覚器官を搭載しておりませんのでお望みの反応は出来かねますが」
「むう、ならなんでこんなに盛ってるのですか。ぐにぐに」
「これがいい、という殿方とメーカーに物申して下さい」
「……ちょっと理解できそうになった自分が嫌になるのです。うにうに」
「まぁ止めませんが、あちらでご覧になっている方がおりますよ?」
「……もに?」
おーちゃんに埋もれていた顔を上げ、近くの通路の角に視線を向けるとそこには、顔を真っ赤にしたメイド服の少女がいました。……覗き見するつもりがガン見になってるのです。
ふとそこで今のぼくたちの状況を改めて考えてみると……おーちゃん棒立ち、ぼくもにもに、……これって、端から見たらっ!?
「あうん」
「おーちゃあぁぁん!?」
くっそまたやられた!? 全力で誤解を招くタイミングでやらかしてくれたのですよ!? せめて弁明をってもういないし!?
レーダー起動ライフセンサー確認っあぁもうあんな離れてる早く追いかけなむぎゅ!? おーちゃんなんでここでハグる! は~な~し~て~っ!!
…
「うぅ……すっかり逃げられたのです、しかもセンサー見ると間違いなくメティス様に報告されてるのですよ」
「これはお嬢様はそちら方面と思わ「誰のせいですか誰の!?」」
うわぁただでさえなんか目ぇ付けられてるのにこの上無駄に忌避されるネタまで提供してしまったのです……うぅ一時の欲求に駆られて変なことしなきゃよかった。
なんかもーあれこれ考えるのもめんどくさくなってきた……こんな時はふて寝するに限るのです。
……ってなーんで干し草や藁の場所に来てしまったのでしょうかぼくは。もう立派な寝床が用意されてる立場なのに、染みついた習性とは悲しいものなのです。まぁいーや、そーれ
わしゃあ
あ、ちゃんと乾燥させてるし藁と草の比率がよさげです、これなら割…とすぐに寝つ…けそ……くー
…
「干し草の山でも寝付けるのを特技と見るか不憫と思うか、悩む所だとお思いになりませんか?……メティス様」
ーーー ◆ ーーー
「やはり貴女は気付いてたのね」
気付いていたと言うよりは、屋敷内の動体全てをマーキング処理した上で監視しておりましたから『はじめから知っていた』という方が正確ですかね。
あの使用人がメティス嬢の元についてしばし、一行が私とネミアを捜索、尾行していたのは把握しておりました。
私の何処へともない問い掛けに、素直に姿を現しそう述べるメティス嬢。
「はい、私には容易い事ですので。そういう訳で残りのお二方もこちらへどうぞ。もっとも出てこないようであれば燻し出しますが」
「だそうよ、二人とも出てらっしゃい」
「あららぁ」
「はいぃ……」
彼女らがどういう心境でネミアを調べていたかなどわかりようもありませんが、害意がないのであれば私は特に何も申しません。しかしそうでないのならば……
「私達は何も悪意があって貴女達を見ていたのではない、という事だけは理解してほしいの。我が家は何かと恨みを買いやすくてね、自然と外からの人間には当たりが強くなってしまうのよ」
「で、あのような不粋な覗き行為という訳ですか。口調も作っていたご様子でしたがそれも?」
「多少威圧するつもりでしたが、あの子に腹芸が無理なのを悟ってからはむしろ後悔したわ、無茶苦茶やりづらいったらないわ」
「悪いのはメティスお嬢様ばかりではないのよー、新人さんを『観』るのはわちの仕事のうちなんよ」
アトレ氏でしたか、人の身でスキャン行為を行えるとは想定外でしたが、それも通じなかった故に疑惑が払拭しきれなかったがためこのような追跡劇となったのでしょう。
であれば、こちらも多少は譲歩するのが一番ですかね。
「先のリオン氏の報告、あれが全てという訳ではありませんが……苛酷なる半生を過ごしたのです、お嬢様にあまり無体は働かないでいただきたく」
私はその一言を始まりの言として、ネミアについての開示できる情報を掲示する事としました。
読了ありがとうございました。次も見てくだされば幸いです。




