02 奴隷娘に差す光明
空が白み始めた頃合いに狼煙を上げつつ、狩人さんから貰った携帯食をかじる。うんめっちゃ塩の味。
……待つことしばし、集落の周辺、木々の切れ目から大人衆がこちらに向かってくる様子が見て取れた。
その間にぼくと狩人さんは近場の木の枝を加工して土掘りを作って、推定ヒトの墓を掘っていた。
つるっつるの兜とおぼしきものを取ってみたらトカゲとヒトの間みたいな顔であったためだ。断じてこの国の人間ではないであろうが人は人である。
ちなみにあいつは鎧に首ったけでこっちを手伝うつもりは毛頭ないらしい。
「あの馬鹿……ネミアに肉体労働させといててめぇは学者ごっこかよ」
「周りで喚き散らされるよりはマシかと」
「それもそうか」
そういいつつ狩人さんはぼくの頭を撫でる。ぞわわわわ!
んがぁーっさわんな! ぼくはイヌネコじゃないぞー!
「ところでこのヒト埋めんのぁいいがよ、手持ちになんか身分のわかるようなもん持ってるか確認しねぇか?」
「そうですね、一応ということで」
そんなわけでヒトトカゲさんの手持ちをぶっしょ……確認する。しかしポケットのひとつもないとかどうなってんの?
胸回りを何とかかんとか開いてみると、やはり肌はトカゲさん色が強めでうろこちっく。ただ首の辺りに一枚だけ形も材質も違う鱗が一枚だけあった。
「ダメだな、なんもねぇ」
「あとはあっちの鎧ですかねぇ」
諦めムードのなか狩人さんが鎧の方に向かい、ぼくはもう一度ヒトトカゲさんに向き合い
「せめて安らかに」
と一言告げ黙祷、手を合わせる。……さぁぼくも鎧のほ
ドシュッ
ごふ、え、なに か……
その瞬間を最後に「ぼく」の意識は黒く塗り潰された。
ーーー ◆ ーーー
「……んー、もう朝なのですか……?」
『お目覚めのようじゃな、娘っこ』
「ん? うわぁヒトトカゲさん!?」
『誰がヒトトカゲじゃ、……まぁ儂のことはよいわ、娘っこには謝らんといかんでな』
「へ?」
『どうにもエナジー不足が続いたのが悪かったのか、うちのサポートAIが娘っこを勝手に新たな搭乗者にしおったのじゃが……『逆鱗』移植時のショックで一度死んでしもうたようじゃ』
「へぁ!? しに!?」
『なんとか再生に間におうたからいいものの、無反応なのいいいことにAIが勝手に《引き継ぎ》まで進めてしもうてな』
「なんでそんなことに、止められなかったのですか?」
『いや止めてもよかったんじゃがそーするとお前さんが本気で死んでしまうでな』
「うー……それでこの後どーなるのです?」
『まぁ……とりあえず起きてからになるじゃろうが、そこらの詳細はサポートAIの《オーガストZX》にでも聞いておくれ』
「なんとも無責任な……」
『重ねて言うが本当にすまんのじゃ、まさか手違いとはいえ現地民に《引き継ぎ》までしてしまうとは思いもしなんだ』
「ごめんですんだら奴隷になんかならないのです」
『だがもうなんともならんでな、そこは堪忍してくれとしか。お詫びといっちゃあなんだが《引き継ぎ》さえ受けてくれるなら《ウォードレス》の使用権限と儂の持ってる資産は渡すでな』
「はいわかりました」
『現金じゃな!?』
「お金があれば奴隷なんかやめれるのです」
『なんじゃ、金なんぞ必要なのかぇ。それではちょっと待っておれ……この惑星の貨幣を検索……地域の使用通貨は……うむ、無事換算できるの。えぇと価値が最高なのはっと……ほい、真銀硬貨とやらが変換できたぞぃ』
「……はぇ? しん……ぎん? 聞いたことないのですが」
『ふむ、スキャンでは製法を失伝した埋蔵品とか出てるの。娘っこが知ってる硬貨が家ほど積み重なる程度には価値があるみたいじゃ』
「うぇえ!?」
『今回の貨幣変換は総クレジットからすれば微々たるもんじゃて。残りはそのままにしておるでの、後は《引き継ぎ》終了後に必要に応じて自分でやるがよい』
「……えーと、ちなみにどのくらい変換されたのでしょうか?」
『きっかり128枚じゃの』
「あばばばばば」
『残りの《引き継ぎ》が終わったら儂が上書きされる形になるでな、達者でやるんじゃよ~』
…
……
………
んぎぃきぼぢわるい゛……、すごい頭が痛いのです。うん仕方ないよね、頭の中にいろいろ無理矢理にねじ込まれたようなものなのですから。
……あのヒトトカゲさんもそうだけど、『逆鱗』とやらはとんでもない事をしてくれたものです。まぁそのおかげである意味助ったのですが。
さらば農奴、こんにちは人権です。さっさと手持ちに現金作って……ってあれ? なんか首周りがすっきりしてませんか?
……っああそっか! 確か一回死んだとか言ってた! そのせいであの首輪外れたのですね!! いやっはーっ♪
これで……あのキモチワルイ樽野郎に(ピーッ)されたり……獣臭いおっさんたちに(ブブーッ)されたり……先輩方みたいに(ガルルルル)されなくてもよくなったのですね!!!
……ぼくの人生に……やっと……光がぁぁ……、……ぐす、……ひっく、……うぅ……わあぁぁぁぁぁぁぁあん!!
…
くすん、何とか落ち着きました。今まで抱えてたのが一気に来ちゃって止められませんでした。
……ところでしっかり目覚めているはずなのですが相変わらず真っ暗なのです。やたら息苦しいし。しかもなんかせまっ苦しい空間だし、……ってこれまさか棺桶じゃない!?
「出ーしーてー」どんどん
「まーだー生ーきーてーるー」だぁんだぁんだぁん
「地ー獄の底かーら帰ってきーたぞぉーっ!」ぺしぺしぺし
ヤバいヤバいもう埋められてるっぽい、もし共同墓地送りだったら近所になんて誰もいないよね!
このままじゃ酸欠でまた死んじゃう……そうだ《引き継ぎ》で貰ったアレを今こそ使うときじゃん!! えーと確かあんな名前だったっけ……言いづら! 略!
「おーちゃんたーすけてーっ!」
……しーん
……えーと、ダメ? うんダメっぽい、やっぱり略称じゃ来てくんないのです。なんか無性に恥ずかしいんだけどこの際仕方がないか……
「サポートAI《オーガストZX》へアクセス、……コール《ウォードレス》!」
【system】機体維持優先事項発令、新規搭乗者に途上型人類種を採用
新規搭乗者へ第久文明圏の基礎データをインプット開始
……一部エラー発生、正常に完了せず
機体データベースへの搭乗者パーソナルデータ保存……完了
……過剰データの存在を確認、最適化を開始。終了まで約264h