17 少女はいじられながらも甘やかされる
はい、あの屈辱の日がついに終わりまして心機一転なネミア嬢でございます。
……ちなみに恥コースで勘弁していただきました。他は……ね。
そして重要なことがいろいろありましたが、まずはリオン氏との件から。無事に領民としての登録が完了、したのはいいのですが……なんですかネミア=アイアンって! 完全にそのテの扱いじゃないですか!?
「いや、管理所で父に事情を連絡したのだがな、父曰く「ならば養子として引き取る扱いにしろ」との返答を受けてな、オーガスト殿に相談したところさらりと了承されてな」
「リオンパパさん!? おーちゃんんん!?」
完全に取り込みに来てるよねこれ! 身の上話の真偽はともかく謎の超パワー持ちのお手付きなし(おーちゃんいわく)美少女が目の前に転がってるんだからね。権力者ならまず懐に入れとけってなるのですよ!?
「あー、そのなんだ、説明の際ドレイク云々はさすがに報告してはいないのだ。まだ確証が取れてないのでな、それらが揃い次第の報告にするつもりだった」
「んでそこで対処したのが若さんの部隊プラス俺と従者さん、って筋書きだ。もちろん規模は調整してな」
途中からガイさんも混じってカバーストーリーの調整をしていたらしい。知らぬはぼくばかりなり……。
「それよりも、だ。お嬢?あれからどうだ?」
「はい、さすがに昨日今日では結果は出ませんが、一応大丈夫なのです」
ーーー ◆ ーーー
「皆今日はいろいろあったがご苦労であった。いささか行き違いこそあったものの無事におさまりをつけることができたのは幸いであった、と思う。ご婦人お二方、それとプレデターウルフではあるが意思疎通の可能になったガイ氏にも了承を得てこの場を設けさせてもらった」
時は少々遡り、おーちゃんによるぼくへの罰ゲーム執行後、リオン氏の計らいで部隊の慰労会……打ち上げ? に呼んでいただけた。町の酒屋兼宿屋で開かれている会場にリオン氏のエスコートでぼく、おーちゃんにガイさんがお邪魔すると近衛兵の皆さんから挨拶やら口笛やら冷やかしが口々に飛んで来る。
「隊長、お疲れ様です!」「若、ついにその気になられましたか!」
「ヒューッ」「ガイさーん、ちょっとだけさわらせてぇー」
「くっ、隊長はああいった方が趣味なのか…」「尊い……」
なんかいろいろ聞こえてきますが今は無視、目の前に並べられている数々のお皿がぼくの目に光り輝いているのです。あぁ……理想郷はここにあるのです!
「お嬢お嬢、ちったぁ顔をなんとかしろ。はしたねぇ」
「いいのですいいのです、お嬢様はこれでこそなのですから」
「……従者さんよ、欲望がヘヴィストライクすぎやしねぇか?」
「コホン、それではグラスも皆に行き渡ったかと思うので始めたい。……今日を無事に乗り越えられたこと、また新たな縁に対し……乾杯っ!」
「「「「乾杯っ!」」」」
リオン氏の音頭に兵の皆さんが合わせ、あちこちでグラスがぶつかり合い、各々グラスの中身をあおったり食事に手を出しはじめた。そしてぼくの視線に応えるようにおーちゃんが料理を小皿に取り分けてくれる。
色とりどりのサラダ、それに合わせてそえられたというにはちょっと存在感が大きすぎる、厚切りスライスされたお肉。
ぼくはそれを口に運び、来るべきお口の幸福感に……幸福…あれ?
「(ぽそっ)おーちゃんおーちゃん、お料理なんか味薄すぎない? ほとんど塩っけないんだけど」
「? ……そんな事はなさそうな見栄えなのですが…どれ」
そう言いつつおーちゃんは料理をぱくり、と一口。ってガードロイドももの食べれるんだ。
「ええ、ボディの有機素体部分の保全に使われる程度であればいただけます。……ふむ、一般的な食事としての栄養価、及び味に問題はなし、と」
「でも全然物足りないって言うか……とにかく味がしないんだよね…」
「ん? どうしたお嬢、メシの顔晒してた割にゃあ進んでねぇみてぇだが」
あ、ガイさんが一通り回って来たのか戻ってきた。ぼくとおーちゃんは事の次第をガイさんに説明すると、ガイさんはやや渋い顔をした。
「あー、まさかあれか、お嬢もしかしたら今まで塩っけの強ぇもんしか食ってなかっただろ?」
「そんなつもりはなかったのですが、力仕事が多かったから塩分取れっては言われてましたよ」
「……なんてこった、味覚障害かよ」
ガイさんの一言におーちゃん、そして周りの方々が一斉にぼくに視線を向ける。え、なに、なんかしたぼく!?
「その可能性は考えておりませんでした。以前バイタルチェックを行った時簡易ではなく精密版にしておくべきでしたか」
「ああ、確か西側の山村だと塩の蟻塚作る蟻飼ってる所があるが、そこいらの農奴がたまに塩中毒で死ぬ、って聞いたことあるな」
「そうだね、その症状ってだんだん食べ物の味がわからなくなるって話ですよね」
次々と聞こえて来る情報にぼくは戸惑うことしかできないでいた。味がわからなくなる?死ぬ!? そんな言葉だけが頭の中をぐるぐると回りはじめる。しかしそこでぼくの頭に何かが乗った感触が。
「目に見えた健康被害がねぇならまだなんとでもなるさ。なぁ従者さんよ」
「ええ、再度精密チェックを行いました結果、口舌部が一部機能不全を起こしてはおりますが健康上はそこまで深刻な問題はないかと」
頭の感触はおーちゃんとガイさんでした。ふたりは「大丈夫大丈夫」とばかりにぼくの頭を優しく撫で続けます。……んにぃ♪
「ふむ、心配は……なさそうだな。皆散れ散れっ、お嬢様は見世物ではないぞ!」
リオン氏もそんなことを回りに言い放ち、去り際にふたりの手の上からぽんぽん、と軽く撫でた後人だかりに戻っていった。
「んじゃこれからはしばらくリハビリメニューだな、がんばれよ」
「ただいまリハビリメニューに関しての資料をダウンロード中です。すべてお任せ下さいお嬢様」
うん、お手柔らかにお願いするのです、……あ、だからおーちゃんもガイさんも頭うにうにしないで背中さすさすしないでぇ~っ!……くすん
ーーー ◆ ーーー
まぁそんなこんなで、おーちゃんがダウンロードしたデータから必要な処置を調べ、ついでに不足していた栄養剤等とまとめて作成し処方、処置してもらった。
「されるがままのお嬢様が素敵過ぎていろいろと捗りますね」
……まぁ今回に関して目をつぶるのです。そしておーちゃんにいろいろされているときにふと気になったので聞いてみて知った驚愕の事実。
「ところでこのウィッグとエクステなのですが、逆さになろうが引っ張ろうが取れないのですが」
「ああ、このタイプは自毛に融着するのでもはやお嬢様の一部になっておりますよ。ちなみに赤色のエクステンションにつきましては色素が浸蝕しますので以後はその色の髪が生えるようになります」
えっ。
「ちなみに頭皮に直接乗せるタイプもありますよ。こちらは主に男性に人気があるようですね」
「ほー、あんたらの世界じゃハゲは救われたんだな」
ーーー ◆ ーーー
ともあれ、ぼくは今おーちゃん、リオン氏と共に一路領主のいる町へ向けて移動中である。これはリオンパパさんの「まずは一度顔見せに来い」的な言伝があったからである。
ちなみにガイさんとはここでお別れとなった。なんでも縄張りを管理してないとまたいついらん火種が発生するかもわからないとの事でした。
「すまないな、わざわざ父の所まで着いてきてもらう羽目になってしまって」
「それに関してはこちらも一度ご挨拶に向かうべきだと思っておりましたので渡りに舟という事で」
「……ねえふたりとも、一般的にはこれ輿入れとか言われると思うのです」
「そこはお嬢様、気にしない方向で」
「そういうつもりはないから安心してくれ。あくまで養子として「実家」に行くだけだからな」
ほんとに大丈夫なのですか!? このまま運ばれてなし崩しに物事が進むのが見えるのですよ!?
「大丈夫ですよお嬢様、いざとなればまとめて殲滅し「やめてね!?」ょう」
お昼前のうららかな日差しのなか、騒がしい馬車とそれを生暖かく見守りながら追随する近衛兵の一団はゆるりと歩を進めていくのであった……。




