10 モノ投げる時の合言葉
はい、現地から鉄火場を中継しております護衛対称なネミアちゃん12歳です。
現場ではあちらこちらから苦悶の呻きが聞こえてくる、阿鼻叫喚の蹂躙会場となっております。
てかあちらさんもまさか48対2で完敗するとは思いもしなかったでしょう。あ、残りの一人が宙を飛んだ……
ではそこまでの流れをリプレイでどうぞ。
ーーー ◆ ーーー
「第二隊中心!対中獣攻の陣! 魔術隊支援!!」
おーちゃん側へ少し伸びた形の陣形を再度整え始める兵団。さすが害獣相手に熟達している部隊だけあって動きに淀みがない。ついでにいうと密集した前衛の影になって後方に行った隊の動きがよく見えないのです。
なのでぼくは頭についているコサージュをぴっと外し手のひらに載せる。実はこれ飛行型の支援ユニットだったりします。
それをちょちょっと操作し起動、するとレースの羽部分が回転を始めぷいいぃぃぃぃぃん、という軽い音と共に上空へと飛び上がる。
「対象おーちゃん、ガイさん、支援モジュール起動。投影開始」
ぼくはホログラフパネルを操りこちらの支援、レーダーマップと危険方向告知のARモニタリングパッケージを使用開始。……ガイさん突然で申し訳ない、いらないならこっちですぐに解除しますんでご勘弁を。
『うお、なんじゃこりゃどこのFPSゲーだよ。だが今はありがてぇな』
「ガイ氏、バックスはこちらが持ちます、トップを」
『応! 身体強化ON! 二時の集団から行くぜ!』
ガイさんは固有能力か何かで自身を強化、飛び出していきます。科学的なものへの適応が早いのはさすが予備知識ありと言うべきか。
素早い突進でしたが盾兵はこれを正面から受け止める、重装備の盾兵が地面に跡を引きつつ押し下げられる。衝撃の激しさを物語っております。
だがその勢いのついた盾兵を避けるべく、後ろにいた攻撃担当の兵士たちが横に逸れてしまった。それを狙いガイさんは間合いを詰め、かちあげ気味に体当たりを食らわせる。おー、人がおもちゃのように空を舞ってるのです。
反対側にいる部隊がおーちゃんへと攻め入ってきますが両手に構えた銃からの連射を受け二の足を踏んでいます。構えた盾が見る間にボコベコになっていく様は盾兵からしたら恐怖でしかないでしょうね。
「くっ!? なんだあの飛び道具は!! 三隊へ援護回せ!」
陣形への指示が飛びます。しかしその間にもガイさんが今度は盾兵へのフェイントからのすり抜けで後ろの攻撃兵のみを撥ね飛ばし始めます。
後方の支援部隊がたまらず飛び道具や魔法などを飛ばすも、ガイさんに追随するシー・アネモニーが発する光線により迎撃され、陣形の中心を横断するように走り抜けるガイさん。
さらにはおーちゃんから撒き散らされる銃弾により戦線は混乱を極め、前線にはなぎ倒された多数の攻撃兵と取り残された盾兵、という構図が出来上がります。
「特殊個体め、通常とはくらべものにならんか! 各隊密集、防陣体制へ! 援護と防陣、回復急げ!」
盾兵から回復魔法の光が浮かび周囲に倒れる兵士へと向かう。光を受けた兵はすぐさま起き上がり、陣営に復帰する。なんか転がされ慣れてそうな動きが微妙に気持ち悪いのです。
「ふむ、先ほどから見受けられますがこの惑星の人類は事象改変手段をお持ちですか」
「ここだと魔法、って言うかな。適性はかなり差があるけどね」
「面倒なのでまとめて鎮圧しましょう。ガイ、敵陣にスタン行きます」
『おうさ』
ガイさんがリオン氏の陣営の後方に回るように動き、リオン氏の視線が誘導されます。そのタイミングでおーちゃんが落としていた盾を踏んではね上げ、銃を捨てた左手と、背中に装着している隠し腕が手を伸ばし、それぞれが盾に装着されていた青い缶、スタングレネードを掴み取ります。
「Fire in the hole!」
おーちゃんが高らかに宣言、それと共に左腕からは敵陣上方へと、そして隠し腕からは地を這うように青缶を投げ込みます。うわぁ意地悪い。
上方へ飛んだ青缶は攻撃魔法により迎撃された瞬間、そして隠し腕で投げ込んだ青缶は兵士の足元を転がり進み敵陣ほぼ中心で破裂。時間差で上下から光と音、衝撃を撒き散らされます。
二度のスタングレネードの炸裂、それも足元での爆心地付近にいたリオン氏を中心に多数の兵たちがその場に崩れ落ちる。残った連中も目や耳、三半規管をやられてフラフラと倒れないようにするのがやっとの模様。
その後はまぁ……言うに及ばずの蹂躙劇でした。ぼくは残った兵たちに投降するようお伝えするも断固抵抗する、と言うのであれば仕方ないのです。という訳で全員に宙に舞ってもらいましたとさ。
…
あ、いーこと考えたー♪
…
「……うぅっ、私は……なっ!?」
あ、リオン氏が起きましたよ。さすがにのしたとはいえ権力者を地べたというのはバツが悪かったので座る場所を提供しております。
ん? 何に座らせているかって?
い つ ぞ や の ソ イ ヤ 台 車 で す が 何 か ?
「お嬢様、とてもイイ笑顔でございます」
『あっちは絵面が放送事故レベルなんだがそれは』
「なんだこの奇怪な乗り物は! 私は生贄にでもされるのか!?」
「とりあえず落ち着きましょう、まずはこちらの言い分だけでも聞いていただけませんか?」
「ひぇっ!?」
乙女の笑顔にに悲鳴上げるとか失礼な。
ーーー ◆ ーーー
「で、そのプレデターウルフに害意はない、どころか中身は人だというのか……?」
「ええ、そうです」
「にわかには信じがたい。たとえ今の状況を鑑みてもだ」
『そうだよなぁ……この世界でモノしゃべるケモノなんかいねえからなぁ。あ、こら尻尾引っ張るんじゃねぇ』
「……」
説得が難航したためリオン氏を《オープンチャンネル》に巻き込んでみました。んで無事に町に入ることができたのですが……
「あー、青のわんさんだー!」
「ふかふかきたー!」
「乗せて乗せてーっ!!」
めっちゃ子供たちに群がられてます。あれコレほんとーに危険指定害獣なんだよねぇ……? ぼくも今更ながら首を傾げます。リオン氏なんかはすごい渋面で現状を飲み込もうと必死のようです。
さすがに大人たちは遠巻きに眺める程度ではありますが、割と好意的に迎えられているようです。……何人かは必死に我慢しているようですが。
「お嬢様、ガイ氏につけていたシー・アネモニーですが自動翻訳改造が終わりました」
「お、じゃあガイさんに渡して起動テストといきましょうか」
「はい、お嬢様」
おーちゃんが手に持ったシー・アネモニーをガイさんの横に浮かべます。ふよふよとガイさんの横を漂う機械イソギンチャクが微妙な空気を醸し出しておりますが気にしない方向で。
「ではガイ氏、どうぞ」
「あーあー、マイクテスマイクテス。本日は晴天なり。……どうよ?」
「良好なようですお嬢様」
「うん、よし。いい仕事ですおーちゃん」
「従者ですから」
「ぐうぅ……意味がわからん……どうしたらいいのだ私は…」
思う存分悩んでればいいと思うよ?
あとがきちょっとメモ ~ガイくん~
種族、プレデターウルフ亜種(色素異常)の元青年。旧名は獅子倉 刈。
自分が転生体だと気づいた(思い出した)のは約3年ほど前。
通常茶色に灰色のラインが入っているのだが、ユニーク仕様なのか青系の配色となっている。
スキルやステータス、Lvのない世界で悪戦苦闘しながらも自力を高め、周囲へのアピールを続けた結果周辺地域の住民からの反応はおおむね良好。
子供ともふもふ好きな方々に大人気である。
今までは臭いやカンで動いていたガイに、シー・アネモニーとそれに付随する投影型支援ARを与えてしまったため、神出鬼没の制裁者として名を馳せることに。




