01 どん底暮らしのネミアちゃん
(4/15)リメイクと差し替え&連載再開
……あの日あの夜村の外れの山林に、天から星が落ちてきた。
夜空を見ていたぼくは、それを偶然にも目撃し……続く衝撃で窓からひっくり返った。
当然ながら、集落は右へ左への大騒ぎ。神の怒りだの何だのと、みんながみんな好き勝手騒ぎつつも、何があったのか確認に向かうためあれこれ相談していた。
……もっとも今日みたいな月の出ていない日の山林は、とにかく真っ暗で明かりをつけて進むにしても労力がかさむ割に進みが悪いため、夜が明けてからの出発になるらしい。
方針が決まったみたいなので、ぼくはとりあえず寝てしまおうと寝床……干し藁の山に埋もれる。どーせ明日もじゅーろーどー、と口ずさみつつまどろんでいると
「オラ起きろネミアまだ寝てねぇだろ!」
……うるさいのがきた。どーせあいつのことだから
「山に行くぞオルァ!」
「山に行くぞ、とか言うんでしょやだよ」
わざとかぶせぎみに言ってはみたがあいつの声量に負けてこちらの台詞は後半のちょびっとしか聞こえなかったらしく、そのまま話を継続するあいつ。
「大人連中は朝になったら出発するらしいからな、その前に俺達で見に行くぞ!」
「この暗闇の中山に入って迷子にでもなりたいの?」
「黙れ、『行くから案内しろ』わざわざ逆らうなよ、買い嫁のくせに」
「ぐ……っえ、っは、は、わかった、よ……」
「最初からそう言えよ。準備しろ、さっさと行くぞ」
はあ、どうせならこの村の中心に落ちてくれればよかったのに。さらに言えば、この家ごとこいつ吹き飛ばしてくれればさらによかったのに。
さて、ここでぼくの立場みたいなのを一言で説明すると、買い嫁……いわゆる奴隷さんという奴です。ん? 買い嫁ってなんだって? 男しかいない田舎集落の共有財産みたいなもの、とだけ言っておきます。
こんなへんぴな山の中に住みついてる連中が真っ当な訳もなく。無法者一歩手前な連中ばかりで集落立ち上げたはいいけれど、そんな危険人物の集団に間違っても真っ当な女性がついて来るとか絶対にありえません。
ならどうするか、となると答えは奴隷か誘拐か、となるのです。ちなみにぼくは前者。片田舎で平和に暮らしていたのに6歳のある日、ちょっとした悪意に捕まり売り飛ばされて、そんなこんなで流れ着いたのがココ。
今でこそまだ労働力くらいにしか思われてませんが、あと2、3年もすれば皆の夜の人気者の仲間入り、となるのでしょうね。
え、仲間入りって他にいるのかって? ええ、もちろんいますよ大先輩様方が。……みんなもうとっくに壊れてますが。ちなみに先輩方は後者らしいですよ?
うん、ぼくぼく言ってますがいちおー女の子なのですよ、はい。ざんぎりカットの超短髪に脂肪分ゼロの棒切れぼでぃ、と全力で女を投げ捨てて反抗してますが「いちおー」性別上は女の子。
時期が来れば強制的に肉付けられて大はしゃぎさせられるのが決まっているし、先の未来に夢も希望もありゃしない、って奴です。
せめてこの樽男にのしかかられる前に先輩みたいになってしまえば楽になるのかなぁ……はぁ
おっとっと、物思いにふけるのもここまで、っと。さっさと準備してないとまた『命令』されて苦しい思いするだけです。……うー、何か最近物事考えるのも億劫なのです……
ーーー ◆ ーーー
「おいこっちであってんだろーなぁネミア!」
「途中で進路が曲がってなかったらあってるはずだよ」
性根は腐っててもさすがは地主の息子、高級品である光源魔導機なんか持ち出してきた。……これ一個でぼく2、3人買えるかな?
そんな訳で暗闇に紛れてひっそり村を出てきたぼくとあいつ。幸運にも大人達に見つかる事もなく……とはいかず、かなり後方をつけてくる、集落いちの狩人のおじさんひとり。
それを尻目にぼくはやる気なく返答する。あぁもぅ明日も畑仕事から針仕事からなにからが山ほどあるってぇのに……
ホント明かり消してこいつ置いて帰れればどんなに気分爽快か、もっともそれでこいつに何かあればまず間違いなく私刑からの牧場送りになるのは確実です。そのためにわざわざ背後霊もいるのでしょうし。
さて、ここまで来たはいいけれど、そろそろ目撃した何かの落下地点ですよね。……頼むからぼくに害のあるものじゃありませんように。そしてこいつだけ不幸になりますように。
「お、木がなぎ倒されてやがる、この先か?」
痕跡を見つけた瞬間喜々として先に突き進むあいつ。せめてそのまま調子こいて足首でもくじいてしまえ。
ぼくも魔導機の明かりを頼りに、足元や周囲に注意しつつも歩を進める。さらに後方に背後霊が続く。
「なんかある! おおーでけぇ!? すげぇ!!」
一体何を見つけたのやら、あいつの言葉では全く推測できないのでぼくもあいつがいるであろう場所へと向かいましょう。するとそこには……
「うわ……なにこれ、巨大な……鎧?」
そこには凄まじく大きな全身鎧らしきものが、地面をえぐり、木々をなぎ倒し、かなりの距離を削りながら一本の大木にもたれかかるように寝そべっていました。
しかしその大きさたるや、胸部部分だけでもぼくくらいなら軽く収まってしまうくらいには大きいのです。
「うわーすげー、こんな立派な鎧とか今まで見たことないぜ」
「でも大きすぎてぼくたちだけじゃどうしようもないね、これは」
「そこを何とか考えろよネミア!」
いつも以上の無茶振りです。こんなんどうしろっての!
「さすがに無理、夜が明けたら狼煙を上げて応援呼ぶしかないと思うよ」
「ネミアの言う通りだバキア、あきらめろ」
とここで追跡者のおじさん登場。さて、これでぼくのざんぎょーは終わりかな? あ、バキアってのはあいつの名前ね。まぁあいつ呼ばわりでじゅーぶんだけど。
しかしここで野宿かぁ……できれば藁床で寝たかったんだけど、今から帰っても着く頃には畑仕事の時間だしなぁ。
「ちっくしょう? せっかく一番乗りだったのに!」ガイィィン……
いやコレをどうしようと思ったんだよ、あとモノに当たるのやめろ。
『緊急排出シークエンス起動、搭乗者を排出します。カウント10.9.8.7…』
と、ここで唐突に鎧が意味不明な音を発し始める。それは何か言葉を言っているようにも取れますが、あいにく何が何だかさっぱり理解できません。
『……0、排出』
ガパァ、鎧の胸が開く。
バシュ、何かが飛び出してくる。
ドチャ、ねばっこい音と共に飛び出してきたモノが地面に転がる。
それはおそらく、人であったもの、だと思う。思う、としたのは、その推定ヒトがのっぺりした布? 革? らしきモノに包まれていたため。
そして、その着ていた物もなのだが、体に手足に当たる部分がないこと。まるで拷問か何かを受けた囚人のような姿に
「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?」」」
その場の三人が揃って叫び声を上げたのを誰が非難できようか。これはさすがにできないでしょ、うん