041_禁断の勝手にアレンジ料理
クリストハルトに続いて、しばらくすると使用人達も料理を運んできて、エリザベス達の座るソファの前に置かれたテーブルには、たくさんの料理が並んだ。
肉料理から、ローストビーフ、ミートローフ、鶏肉のロースト、シチュー、ソーセージ、ハム、ベーコン。
魚料理は、白身魚のムニエル、塩漬け・燻製ニシン、アンチョビ。
他にも、豆のスープ、オムレツ、半熟卵、サラダ、チーズ数種。
デザートは、パンケーキ、マカロン、アイスクリーム、シャーベット、カットフルーツ、プリン。
パンは小さめのものを数種類、ジャムやパティもある。
人気のある舞踏会らしく、料理の種類は多く、美味しそう。
けれど……。
――――どれもありふれた調理法よね。
盛りつけや細かい細工は凝っていても、料理自体は他で出されるものと大差ない。
それも仕方のないこと。
この世界で、料理はまだ研究しつくされていない。
料理人の地位は低いし、伝達方法も大抵は人から人の、いわゆる伝聞。
料理本はあるにはあるけれど、とても高価で誰もが読めるものではなかった。
新しい食材や調理法は度々取り入られていくものの、貴族社会では、伝統的な料理を重視する傾向にある。
「あっ、これ!?」
「どうしたの、エリザベス?」
「いや、珍しい料理があるなって思って」
「どれ? どれ?」
エリザベスの声に反応したシャルロッテが、面白そうにのぞき込む。
細かな小さな粒の沢山入った皿を示す。
「リゾットっていう郷土料理なの」
「へー、たしかに変わった見た目ね」
こんなところでお米に出会えるとは思わなかった。
リゾットやパエリアといった料理は、一部の地方だけで作られていたもの。
この世界では今まで見たことがなかった。
新しいものを入れて、少しでも話題をと……パゾリーノ子爵の考えなのだろう。
けれど、そのおかげでエリザベスは新作を閃いた。
「まさか……何かするつもり?」
「そのまさか。さすが私の一番弟子、よくわかってるわね」
「それ、まったく嬉しくないんだけど」
唇を尖らせながらも、シャルロッテはエリザベスが何をするかわくわくしている。
「これからここで、新しい料理を作って見せます!」
「何を言っているのです? 調理場を借りるなんて、はしたないことはやめてくださいね」
ロクサーヌにきつめの口調で言われるけど、エリザベスは不敵な笑みを浮かべて見せた。
「安心して。火も包丁も使いません」
「だったら、どうやって調理するのです?」
「それは……見てて」
怪訝そうなロクサーヌに微笑むと、使用人を呼んで新しい器を持ってきてくれるように頼んだ。
しばらくして、エリザベスの前に平皿二枚と、フルーツ皿と、少し大きいボウルが運ばれてきた。
――――懐かしいな、ビュッフェでよくやったっけ。
調理場でなくても、新しい料理は作れる。
料理と料理を融合させて、新しい料理を作ってしまえばいい。
いわゆる、ビュッフェの勝手にアレンジ料理。
――――けれど、良い子もレディもマネしないでね。
もとから完成している料理を融合させてしまうわけで、料理人に申し訳なく、勧めできません。
――――なんて偉そうなことを言っても今回はやっちゃうけど。
「まずはレオニードに! これと……これと……あと、これ」
「……パンか?」
丸い柔らかめのパン、ベーコン、ミートローフ、パン、それにサラダ。
たくさんの料理の中からエリザベスが選択したものを見て、レオニードが呟く。
彼には何度かパンを振る舞ったのを憶えているのだろう。
――――いつもはわりと庶民派パンだったけれど、今回は食材が高価なので豪勢なのです。
ふふんと上機嫌でエリザベスは丸い柔らかめのパンを半分に裂いて、具材を順番に挟んでいく。
単品で食べられるよう、それぞれ味がしっかりしているので、ソースはいらない。
食材の良さで勝負。
「さあ、どうぞ。ベーコンレタスサンドです」
平皿の上には、現代人のソウルフードとも呼べるハンバーガーが鎮座する。
パティをミートローフにしたところがポイント。
「いただこう」
レオニードの大きな手が伸びてきて、ハンバーガーを掴むと、口へと運んだ。
むしゃむしゃと食べる。
皆も他の料理に手をつけながらも、興味津々に様子をうかがっていた。
――――この人、ほんといい食べっぷり。感想も言わないんだけどね。
「どうなの? 美味しいの?」
我慢できずにシャルロッテがレオニードに尋ねる。
「もうないのか?」
――――はい、レオニード的に“美味しいからおかわり”をいただきました。
何とも味気ない感想だけれど、レオニードにリアクションは期待していなかったので、問題なし。素直に嬉しい。
「次は……クローレラス伯爵」
「僕にもくれるのかい?」
「もちろん」
エリザベスはクリストハルトのための料理に取りかかった。
選択した食材は、チーズリゾット、ローストビーフ、半熟卵、あとは調味料。
まず、リゾットを取り分けると汁気を取りつつ、大きめの器に入れる。
次にローストビーフを数枚、リゾットを隠すように盛り、上から塩と黒胡椒を少々振りかけて、最後に真ん中へ半熟卵を乗っければ完成。
「ローストビーフリゾット丼です」
「食欲をそそる見た目、まるで薔薇だね。頂こうかな」
クリストハルトが見た目を褒めると、フォークで口へ運ぶ。
「肉薔薇、最高! ローストビーフと、このリゾットという料理、すごく合うね。卵とも相性が良い。本当に別ものの料理で、美味しいよ」
うんうんと満足そうにクリストハルトが頷く。
こっちも大成功。
「わたしのは? わたしのは?」
待ちきれなくなって、シャルロッテがせがむ。
「シャルロッテは……オムライスにしておこうかな?」
「……オムライス?」
聞き慣れない単語にシャルロッテが首を傾げる。
お米が珍しいので、オムライスはやはり知らないみたいだ。
「オムレツの中にリゾットを入れるの、見てて」
取り出した料理は、キノコリゾット、オムレツ、そしてホワイトシチュー。
まずキノコリゾットを平皿にドーム型に盛り、上にオムレツを乗せる。
オムレツの中央にナイフで切り込みを入れ、左右へ広げると、柔らかい部分がリゾットを覆い尽くしていく。
仕上げはホワイトシチューを上からかけて完成。
「シャルロッテ、どうぞ。シチューかけ森のオムライスです」
「ありがとう。いただくわ」
シャルロッテが、さっそくスプーンですくうと、口へ運ぶ。
すぐに頬を手で押さえて、満面の笑みになる。
「オムレツと、リゾットと、シチューが、襲ってくるー! 今までで一番美味しいかも!」
よっぽどオムライスが気に入ったのだろう、シャルロッテのスプーンの手が止まらない。
「最後はロクサーヌね」
「わ、わたくしは別にいりませんから」
遠慮するような言葉を口にしてはいるけれど、最後ということもあって、ロクサーヌも期待のまなざし。
「甘くない貴女には、甘々デザートを作っちゃいます」
エリザベスはプリン、フルーツ、アイス、シャーベット、マカロンを集めていく。
土台があって少し高くなっているフルーツ皿の真ん中に、まずはプリンを盛り、左右にアイス、シャーベット、隙間をフルーツ、マカロンで埋めていく。
最後にパンケーキ用のメイプルシロップ、生クリームをかけて、完成。
「プリンアラモードです。どうぞ!」
「……プリン……あらもーど? 変な名前ですね」
言葉とは逆に、豪華な見た目にロクサーヌの目は釘付け。
隣に座るシャルロッテから羨望のまなざしを受けながら、彼女がスプーンを口に運ぶ。
「悔しい……いろんな甘さが襲ってきて……とろけてしまう……」
頬を手で押さえながらうっとりと呟く。
さすがのお堅いロクサーヌも、この甘さと見た目にやられたみたい。
「ふふふ……さあ、おかわりが欲しい人は? 他の人の料理でもいいわよ」
「肉薔薇、だ」
「僕はそのオムライスというのも食べてみたいな」
「プリンアラモード! プリンアラモード!」
「……おかわり、ください」
四人が一斉に手を上げる。
結局、全員がおかわりをして、その後、わいわいと舞踏会メニューの禁断の勝手にアレンジ料理を堪能する。
ちなみにレオニードは全種類制覇、ロクサーヌはプリンアラモードを三杯も食べましたとさ。
「なーんか、すっごく緊張してたはずのに、いつもと変わらない気分。エリザベスといるせいかしらね」
満腹になったところで、ソファの背にもたれたシャルロッテが口にする。
周りは頷くけれど、エリザベスの見解は違っていた。
――――皆が……特にレオニードが、いるからって気もする。
実際、落ちていたエリザベスの気分を晴らしたのは、彼のおかげと言える。
――――いや、褒めすぎはよくない。
きっとつけあがるので、直接伝えたりはしない。
決して恥ずかしいからでは……ない。
「さて。食べたし、帰りますか。音楽が一旦止んだところだから、下の舞踏会も二部に突入というところみたいだし」
ソファから立ち上がると、バルコニーの手すりの前に立って、明かりのもれる一階の窓を見る。
目的は十二分に達したので、二部に参加するというリスクを冒す必要はまったくもってなかった。
「長居するのはレディらしくありませんから」
ロクサーヌが同意してくれる。
「ボロが出ないうちに退散が賢い令嬢。早く帰りたくなるのは、舞踏会に出席した淑女には、よくある気持ちだしね」
「もう十分過ぎるぐらい楽しんだわよね、久しぶりの舞踏会」
シャルロッテも立ち上がり、エリザベスの隣に来て空を見上げる。
雲のない天気のようで、星々が輝いている。
「そうですね。いつも大嫌いだった舞踏会ですが、不思議と今回は楽しかった気がします」
ロクサーヌもエリザベスの隣に立つと、小さく呟いた。
そして、ふぅーと息を吐きながら、付け毛を取るといつもの髪型に戻す。
夜風に、彼女の髪がなびいた。
「エリザベスさん、早く教会に戻りたくなってしまったのは……ノルティア教会の
一員として、よくある気持ちでしょうか?」
「かもね」
――――今回は疲れた……主に精神的なことで……。
エリザベスは、んーっと大きく伸びをした。
つられて、シャルロッテもマネをしている。
帰ると言ったのに、何となく三人は夜風に吹かれていた。
嫌なことも多かったけれど、早く教会に帰りたいけれど、この楽しさや高揚感も捨てがたい。
追放前と違って、ロクサーヌが、シャルロッテが、クリストハルトが……そしてレオニードが一緒にいるからだろう。
ロクサーヌが呟いたように、気の合う人達が一緒にいたら、面倒な社交界も楽しい場になるのかもしれない。
こんなこと、追放前には思ったことなんてなかったと思う。
社交界はいつも一人で、いつも嫌な視線を浴びていた。
「「ふふっ」」
何となく黄昏れていると、突然、左右にいるロクサーヌとシャルロッテが笑う。
「な、なに?」
二人はエリザベスの質問には答えず、くるりと手すりに背を向け、見守ってくれていたのだろうレオニードとクリストハルトの方を見た。
「今日は来てくださって、ありがとうございました」
「強引でも助かったわ。レオニードは、わりと役に立ってると思う」
なぜか二人が急に彼らにお礼を告げる。
さすがに一人だけ言わないのはおかしいので、エリザベスも加わる。
「あ、ありがとうございました」
「ああ」
レオニードがエリザベスの言葉にだけ、短く返事をする。
「でも、“俺の”は、誤解を生みますから、ないです」
「ああ」
――――ほんと、わかっているのかな、この人?
今はシスターのエリザベスだから良いけれど、貴族令嬢が相手の発言だったら噂が一気に広がって、大騒動になりかねない。
「今回はたまたま大事に至りませんでしたけれど、レオニードも貴族なのですから、大勢が集う場では特に言葉が足りない発言に注意してですね――――」
「……踊らなくてよかったのか!」
説教モードにスイッチが入ってしまいそうになったけれど、レオニードの言葉がそれを遮断した。
――――連れ出したの……貴方なんですが……。
彼の言葉に、おそらくまたこの場の全員が心の中でつっこむ。
代表でシャルロッテが咳払いをして、確認した。
「今のは、わたしでもわかるマズさね。ミッシェル王子と踊りたかったんじゃないのかーとか、嫌味にも聞こえてるわ」
「レオ、だから、そこは“俺と一曲どうだ”って意味だよね……」
続けて、クリストハルトがフォローする。
「……ここには音楽が、ない」
――――ノーライフ、ノーミュージック的な? 大物ミュージシャン発言!?
またもやレオニードの言葉に心の中でつっこんでしまう。
――――仕方がないな。
エリザベスはレオニードに向かって手を差し出した。
「ちゃんと、漏れ聞こえています。ほら、ちょうどカドリーユが終わって……ワルツが始まったところです」
やはり見事な演奏がゆっくりとフェードインして聞こえてくる。
バルコニーは夜風で花が舞い、幻想的な雰囲気。
――――今日は特別。助けてくれたから。
自分に言い訳をすると、エリザベスはレオニードを誘った。
「……踊りましょうか」
「ああ」
緊張気味に頷くと片手を合わせ、もう片方の手を背中に回してくる。
隣では、クリストハルトがシャルロッテとロクサーヌへ恭しく挨拶をしていた。
そのまま、変則的に三人は踊り出す。
エリザベスとレオニードも動き出した。
彼の表情が緊張から真剣なものに変わっていく。
きっとダンスの心得はあってもあまり得意ではないのだろう。
一方、エリザベスは幼い頃から教え込まれたから、身体に染みついていて、考え事をしながら、彼と踊っていた。
考えていた。終わったこと。そして、新しいことを。
少し変だなと思った。
隠しキャラと結婚してしまったロゼッタ王女だけではなく、ミッシェルまで動き出している。
婚約を幼い頃に回避したから? 結婚破棄になっていない?
もしかして……。
ストーリーが変わってきてる!?
そういえば……この人も……。
真剣に踊るレオニードを、エリザベスはじっと見つめた。
やがて、目が合う。
…………。
……。
「痛っ……!」
そして、足を踏まれました。
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