029_前世から続く今
「お前が気にするなら俺は離れていよう」
せっかく感心していたところだったのに……いきなり彼が話を元に戻した。
本当に雰囲気や流れというものを読まない人。
レオニードに女心を理解しろ、っていうのは無理ありすぎだけど。
くすりとこっそり笑う。
「はい、すみませんが今回だけ離れていることで、お願いします」
「わかった」
彼は頷くと、一歩動いて止まる。
何か言いたいことでも思い出したのだろうか。
首を傾げながら様子を伺っていると、真顔で尋ねられた。
「……ここでいいか?」
「駄目に決まってます!」
――――離れてないから!!
思わず即ダメだししてしまう。
本当に一歩しか動いていないので先ほどからまったく変化がない。
礼拝堂の扉もばっちり見える。
どう見ても、まだ見張っているぞ、と睨みを効かせる位置でしかない。
「貴方は、二人の式を騎士として邪魔したいのですか?」
「それはどうでもいいが……いや――――俺はお前が……」
レオニードが口ごもった。
歯切れが悪いなんて、彼にはしては珍しい。
「私が、なんです?」
「あの二人によって――――」
次の彼の一言で、エリザベスはさっそく気づいた。
驚きで目を丸くする。
自分では考えてもいなかったからだ。
「もしかして、私の心配ですか? えっ……ええ……」
――――あの二人に私が何かされると思ったの!?
たしかにロゼッタはエリザベスを追放した張本人ともいうべき人で……。
まったく意識していなかったけれど、嫌がらせをするために追いかけてきたという可能性もなくはない。
エリザベスとロゼッタが逆の立場だったら、つまり悪役令嬢が追いかけてきた方だったら、間違いなく周囲からは邪魔しに来た、と見られていたことだろう。
ロゼッタは正真正銘の天然で、悪意があるわけではないので、駆け落ちと見せかけて嫌がらせをするなんて、絶対にありえないのだけれど。
「どうして……そこまで……」
――――私のことを心配してくれるのですか?
そう尋ねようとしたけれど、あまりに恥ずかしい質問だということに気づく。
レオニードから「お前が心配だからだ!」と返されたら、どうしたら良いのか、今から困ってしまう。
けれど、彼の返事は、エリザベスの予想の斜め上を行った。
「俺は誰の心配もする資格がない」
「? ……はあ」
エリザベスは、彼の言葉に思わず脱力した。
ちょっとわからない。いいえ、まったくわからない。
心配する資格ってなんだろう? 騎士団長だからとか?
やっぱり休暇中だからとか?
だいぶレオニードのことはわかってきたつもりだけれど、まだまだ謎だらけ。
――――めんどくさい人ってだけはわかるんだけどね。
まあ、ともかく、今は過去に因縁のあったロゼッタとエリザベスを一緒にさせるのはよくないと、彼なりに考えた、とでも思っておこう。
変に意識しなくて良し。
「はいはい……じゃあ、貴方はこっち」
「…………」
レオニードの身体を、裏口に引っ張っていく。
入るとそこは狭い廊下で、さらに狭い階段に繋がっていた。
彼は黙ってエリザベスの後についてくる。
二階、三階と上っていくとロゼッタ達がいる教会の上、屋根裏部屋に二人はたどり着いた。
「……ここはなんだ?」
「鐘を綺麗にしたり、壊れた時に直す場所です」
そこは、いわゆる鐘のメンテナンス場所。
作業するための多少の広さと、小さいけれど窓もついているので、教会の入り口の出入りならば確認することができる。
見渡しがいいので、わりとエリザベスが好きな場所の一つだ。
うっかり鐘が鳴る時にいると、耳が大変なことになるけれど。
「とにかく見張るなら、景観的に見えないところにいてください」
「ああ、ここなら何かあればすぐにわかる。駆けつけられる」
レオニードも気に入ったようで、一安心。
「あとで差し入れも持ってきますから、大人しくしていてくださいね」
「任せてくれ」
大人しくしていてが、しっかり見張ってて、に変換されたみたい。
まあ、色々とレオニードなりに心配してくれた結果みたいなので、あとで飲み物と簡単な食事を運んであげようと思う。
「では、私は下に戻りますね」
無言で頷いたレオニードに背を向けると、エリザベスは屋根裏部屋を後にした。
「ふぅ……さーてと」
一息つくと、目を輝かせる。
最初のお客様が王女様と王子様だったり、しかも知り合いだったり、レオニードが動かなかったりで、想定外の問題が発生したけれど、とにかく、これから結婚式が始まる。
やる気が満ちてくるのを感じた。
――――懐かしいな、結婚式の企画。
礼拝堂へと続く長い階段を慎重に下りながら、エリザベスは前世でのことを思い出していた。
勤めていたイベント会社では、数は少ないけれど結婚式を扱ったこともある。
といっても、クライアントは有名人やお金持ちではなく、ごく普通の微笑ましいカップルの地味婚ばかり。
それでも二人にとっては特別で、幸せそうで、色々無茶も言われた。
二人っきりの式がいいけど、フラワーシャワーはされたい、とか。
ケーキだけは大きいのがいい。でも安く挙げたい、とか。
電車が好きだから、電車の中で挙げたいとかとか……。
基本的に決まったことの中から選択していくホテルや式場ではなく、わざわざイベント会社へ依頼に来たのだから、無茶は当然、お断りなんてとんでもない。
だから、沢谷友加は足を駆使して、必死に、クライアントの幸せな時間を提案・企画した。
たとえば、参列者がいなくても、スイッチ一つで、ウェディングロードに花びらが散るような仕掛けを作ってみたり。
洋菓子の専門学校に頼み込んで、生徒達に激安でウェディングケーキを作ってもらったり。
個人で電車の車両を購入した人を捜し当てて、一日貸し出してもらったり。
とても大変な案件ばかりで、赤字ギリギリなことが多かったけれど――――。
最後にはカップルの笑顔が見られて、花嫁さんから当日に感謝されると、こっちが泣きそうなほど嬉しかった。
だから、結婚式のお仕事は好きだ。
前世では小さい会社だったので、最終的に大口を除いて、利益の少ない個人結婚式の企画からは撤退すると上から言われてしまったけれど……。
――――ここは教会! 結婚式をやらないなんてありえません!
しかも創意工夫の余地はたくさんある。
――――低予算でも、色々足りなくても、無茶ぶりでも、何とかいたします!
それがノルティア教会のモットー。
まだまだ始まったばかりだけれど。
「失礼します、エリザベスです。花嫁さん、ご準備はいかがですか?」
階段を下りると、エリザベスは側廊から繋がる一室の扉を叩いた。
「はーい! どうぞー」
ロゼッタの元気な声が聞こえてくる。
扉を開けると、丁度ドレスの支度が終わった彼女がくるりとこちらを向いた。
数着準備してあったウェディングドレスの中から選ばれたのは、華やかな印象の、白い、プリンセスラインのドレスだった。
一応、この世界で“ウェディングドレスは純白”という認識はなかったので、派手目のカラードレスも用意してあったのだけれど、ロゼッタは白を選んだらしい。
肩と胸元は透ける細工がしてあるので、慎みを持ちつつも、肌やラインの美しさが出ていて、上品な印象になっている。
プリンセスライン特有の大きく膨らんだスカートは、彼女の存在をさらに華やかにしながら、可愛らしさも強調していた。
地面につくほどのギャザーがたっぷりとある長いベールも、お姫様らしくて彼女にとても似合っている。
オーダーメイドではなく、事前に用意されたドレスであっても、工夫してリボンや数カ所だけ針を入れることでサイズ調整がある程度可能にしてあった。
マーメイドラインのような身体にぴったり合わせるものは難しいけれど、ドレスのタイプをある程度絞れば、花嫁が気にならない程度には合わせることができる。
「エリザベス! このドレスすごく素敵! どう? きれいでしょう?」
ロゼッタは立ち上がると、くるりと回ってみせた。
――――本当……花嫁さんってきれい……。
幸せを振りまくように、花嫁のベールがふわっと広がってはゆっくり漂う。
それはきっと幸せだからに違いない。
「はい、とっても。きっと世界で一番!」
エリザベスは幸せな気持ちで微笑んだ。
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【悪役令嬢に転生失敗して勝ちヒロインになってしまいました ~悪役令嬢の兄との家族エンドを諦めて恋人エンドを目指します~】
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