表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/222

55.城門の戦い

 

 

 崩れた家屋や転がる瓦礫、石畳はところどころ砕け、血だまりや焦げ跡があちらこちらに見られる。いくつのかの場所で火の手が上がり、その熱と焦げ臭いにおいが肌に触れてくる。


 そんな荒れた市街地を、ザゴスとフィオは駆ける。狭い小路を抜けて、目抜き通りに出ると、巨大な魔獣の全貌が視界に飛び込んでくる。


「ちっ、派手に暴れてやがるな!」


 巨大魔獣は城門を打ち壊し、既に街中に入っていた。


 魔獣は上半身は逞しいものの、下半身はどろどろとした半液状であった。その体で地上を滑るように移動し、当たるに任せて腕を振り回す。


 四本の腕は嵐のように荒れ狂い、家屋をなぎ倒す。落下した瓦礫を持ち上げて、こちらへ投げつけてきた。


「ぬおっ!?」


 ザゴスとフィオは左右にわかれて飛び、それをかわした。


「ちっ、滅茶苦茶じゃねぇか!」

「既に相当被害が出ているようだ……」


 巨大魔獣の周囲に散らばる瓦礫の下には、赤黒いものが広がっている。腕や足のようなものも見えた。フィオは魔獣をにらみつけ、双剣を抜き放った。


「行くぞ! 雷鳥閃(サンダー・ビーク)!」


 一気に間合いを詰め、フィオは雷を帯びた双剣を突き出す。その刃は見事に巨大魔獣の左腕の一本を捉え、斬り落とした。斬り飛ばされた腕は雷を受けて消し炭となる。


「おっし、イケるぜ!」


 言ってザゴスは、自分も続こうと斧を抜き放つ。一方のフィオはその手応えに違和感を覚えていた。


 おかしい、脆すぎる。フィオは着地し油断なく剣を構える。


「何……!?」


 フィオは目を見開いた。斬り落とした魔獣の腕が、すぐさま生え変わったのである。巨大魔獣はその腕をフィオに振り下ろす。飛び退ってかわしたその腕に、ザゴスが斧を振り上げて飛び込んだ。


「オラァ!」


 突進の勢いの乗った斧の一撃で、再び魔獣の腕は斬り落とされる。


「脆いな、えらく!」

「すぐ再生するぞ!」


 魔獣が振り下ろした右腕をかわしながら、ザゴスとフィオは言葉を掛け合う。フィオが剣から雷を発するも、魔獣は斬り落とされた腕を投げそれを防ぐ。その間に左腕が再生した。


「次から次へと……!」

「ザゴス、上級魔法を使う! 少し時間を稼いでくれ!」


 フィオは大きく跳び退り、剣を交差させて錬魔に入った。


 魔獣は瓦礫を掴み、それをハンマーのように振り下ろしてくる。ザゴスはそれを巧みにかわし、腕を狙って斧を振るう。


 動きは単調だ。こんなもんなら、すぐに……!


「っしゃあ!」


 何度もたたきつけられた瓦礫が砕け、魔獣がバランスを崩した。その隙を見逃さず、ザゴスは斧を横なぎに振るって右腕を斬り飛ばした。


「また再生するんだろ! いいぜ、根性比べならどんだけでも付き合って――!?」


 斧を構え直したザゴスの頬を何かがかすめた。


「ッッ! こいつは……!」


 それは1シャト(約30センチ)ほどの小さな魔獣だった。やはりブキミノヨルとそっくりで、槍を構えている。簡単にはたき落とし、ザゴスはどこからわいた、と周囲を警戒するように見回し、その正体を見つけて絶句した。


「な……!」


 斬り落とした巨大魔獣の腕から、小さなブキミノヨルがぞくぞくと這い出してきていたのである。斬り落とした腕が、この小さな魔獣に変化しているのだ。1匹なら簡単に倒せたが、これが群れをなしたら――!


「ザゴス、退け!」


 背後からフィオの声がかかり、ザゴスは素早く横に飛んだ。それをかすめるように、紫がかった光が閃く。


雷帝紫光衝アメジスト・ヴォルテックス!」


 フィオの放った強烈な雷撃は、小さな魔獣をその発生源たる魔獣の腕ごと焼き尽くした。


「すまねぇ!」

「気にするな。だが……」


 状況はまずい、とフィオは巨大魔獣を見上げる。


 無限に再生できるわけではあるまい。しかし、単純に腕を斬り落とすだけでは、落ちた腕から小さな魔獣が発生してしまう。魔法で焼き尽くせればいいが、相手の再生の底が見えない中、そんな「根性比べ」を仕掛けるのは得策ではない。


 やはり、一気に魔法で殲滅してしまうしかない。といったものの――。


「クソッ!」


 魔獣は再び瓦礫を持ち上げ、こちらに投げつけてくる。フィオはそれをかわしながら、思考を巡らせる。


 フィオが使える最大の魔法が、雷帝紫光衝アメジスト・ヴォルテックスだった。落ちた腕ならば焼き尽くせたが、あの巨大魔獣の全身となると威力が足りない。


 フィオは唇を噛む。「天神武闘祭」でカタリナが使った、嵐竜暴顎破(ドラゴンズ・ネスト)が頭をちらつく。


「極大魔法があれば……」

「たられば言ってもしゃーねぇだろが!」


 安易に斬り落とせないとあって、ザゴスも攻めあぐねている。


 巨大魔獣もそれを感じ取ったのか、攻勢を強めてきた。自らの腕の1本を引きちぎり、投げつけてくる。


「な……!」


 自切された腕から、小さな魔獣がむくむくと身を起こす。


「クソが!」


 ザゴスは斧を構え、小さな魔獣たちの襲撃に備える。フィオは錬魔を行うが、魔獣を一気に消し去るような魔法は間に合わない。


「くっ……! 雷電撃(ライトニング・ボルト)!」


 下級魔法をぶつけるも、小さなブキミノヨルたちは、まったく怯むことなく雲霞のごとく押し寄せる。


「なら、全部叩き落としてやらぁ!」


 自棄になったようにザゴスが斧を振りかぶったその時、冷たい風と共に新たな声が響いた。


「その必要はないわ。――雹弾急襲(ヘイル・ブラスト)


 上空から吹き寄せた、凍えるような風と共にまき散らされた氷の礫が、小さなブキミノヨル達をすべて撃ち落した。


「その声、その魔法……まさか!」


 ザゴスとフィオが振り仰ぐと、大通りの奥、家屋の屋根の上にコーンハットの女魔道士が立っていた。黒いマントの下に着込んだボンデージ、薄水色の髪が夜風に舞う。


「グレース・ガンドール!」


「『天神武闘祭』優勝のお二人さん。繰り上げ準優勝の魔道士の力は必要かしら?」


 屋根の上から二人を見下して、グレース・ガンドールはにこりともせずにそう問いかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ