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17.戦い終わって

 

 

「フィオ……」


 何か声をかけようとしたが、どうにも上手くいかなかった。ああ、クソ! と内心でザゴスは悪態をつく。時々、自分の不器用さが嫌になる。


「『戦の女神』の信徒を、我がダンケルスの先祖が、礼拝所に火をかけるなどして棄教を迫り、領内から追い出したのは事実だ。だから今現在も、『戦の女神』の信徒の中にはダンケルスを憎むものも多い」


 ダンケルスは武門の家系、それ故に当時は領内に「戦の女神」の信徒は多かった。そのことも余計に憎まれる原因になっている。淡々と、フィオはそうもつけ加えた。


「我がダンケルスの没落は『戦の女神』が与えた罰だ、と連中は考えている。『戦の女神』教団の第一指導者が、そう100年ほど前に発表した。そのことで、一応の決着は見たんだ」


 右目をつむり、フィオは深く嘆息した。


「『戦の女神』の信徒の悪感情は知っていたし、それとなく向けられたことはあったが、面と向かって罵倒されたのは初めてだ。よほどご執心らしいな」


 独り言のようにそうつぶやいて、フィオはザゴスの顔を見上げる。


「嫌な思いをさせてしまったな」

「え? いや、俺は別に……」


 お前の方が辛いだろ、とザゴスは言いかけて止めた。そう言っても、慰めたり元気づけたり、上手くできる自信はなかった。


「ところで、あの女とザゴスはどういう関係なんだ?」


 ザゴスを見上げる目が険しくなった気がした。そんなに「戦の女神」の信徒が気に食わないか、とザゴスはうなじの辺りをなでる。


「あいつは、アレだ、あのタクトとかいうガキのパーティメンバーだ」


 ザゴスは昨日のことから順を追って説明した。カガミウツシを倒すために自分の持っていた像を使ってしまったことも。


「致し方あるまい。命には代えられんさ。ボクの像もこうして戻ってきたことだしな」

「あと、カタリナも『戦の女神』のお告げを聞いてる。それで、あのガキとパーティを組んだって言ってたぜ」

「そうか……。自分から都合のいい駒になり下がろうとは、信心深い限りだな、感心する」


 皮肉たっぷりにそう切り捨てて、フィオは倒れた魔獣の方へ目を向ける。


 カシラマシラの巨体は、ほとんどが魔素へと分解されていた。魔獣の倒れていたところには、黒い鉱石のようなものが転がっている。


「お、『魔石晶』できてんじゃねぇか!」


 カシラマシラの「魔石晶」は、大きなザゴスの手の平でも両手を使わねば乗り切らないほどの大きさだ。黒い鉱石の中には、金色に光る角ばった結晶がのぞいている。


「これは相当なものだな……」


 フィオは「魔石晶」を拾い上げた。


「ちょうどいい、売り払って貴殿の装備を買い替える費用としよう」

「俺のか?」


 ザゴスは自分の身体を見下す。煮しめた色の革の鎧は古傷だらけだ。確かにそろそろ買い替え時かもしれない。


「兜はいいもののようだが……」

「ヘヘッ、こいつは一点ものだからな」


 ザゴスは兜の角を撫でる。2年ほど前に護衛したキャラバンの商人から、礼金代わりにもらったものだ。何でも、異国の大海賊が用いたという由緒あるものらしい。


「その割に鎧や斧は安物のようだが」

「あぁ? 俺の斧に文句でもあんのかよ?」


 見てみろ、とフィオはザゴスの背後を指差した。そこには、カシラマシラの頭を叩き割ったザゴス愛用の斧が刺さっているが……。


「げ、刃がぼろぼろじゃねえか……!」

「カシラマシラの体毛は生半可な武器を通さない。安物の武器で斬りかかれば、逆に刃がこぼれる」


 それでも腕を斬り飛ばし、脳天をかち割れたのは、ザゴスの実力であろう。


「まぁ、しゃーねぇか……。よく働いた方だな」

「ちなみに、それ以外に武器は?」

「家に予備の斧はあるぜ。同じヤツだけどな」


 冒険者になって以来、ザゴスは一貫して同じバトルアックスを使い続けてきた。魔法効果の付いた武器は元より使えないし、手に馴染んだものの方が信用できる。


「使い慣れたもの、か。それは一理あるが……」

「だろ?」


 不確実性は極力排除されるべきものだ。ザゴスはそれを感覚的に知っている。それ故に、10年以上も冒険者として生き残ってこれたのだ。


 しかし、とフィオは顎に手をやった。


「『天神武闘祭』に出るんだ、生半可な武器では……」

「通用しない、ってか?」

「いや、恥をかく」


 むぐ、とザゴスは言葉に詰まる。これまで何度か観戦した「天神武闘祭」でも、確かに街の武器屋で普通に売られているような、大量生産品を使っている出場者はいなかった。


「そこを敢えてよぉ、普通の武器で勝ち抜くのが……」

「いいや、貴殿がよくてもボクが恥ずかしい」


 お貴族様め、とザゴスは舌打ちする。


「没落貴族がそんなことを気にするとは、思わなかったか?」


 妙な皮肉を言いやがるじゃねえか。ザゴスは肩をすくめた。どうも機嫌がよろしくない。カタリナのせいか、それともビビに既に銀貨を使われていたせいか……。


「ぬぅぅ、買い替えるか……」

「そのためにも、ともかく山を下りよう」


 ザゴスとフィオはうなずき合って帰路についた。




 ザゴスとフィオが下山する頃には、西の空が赤く染まっていた。山に入った他の冒険者たちは既に下山が確認されており、二人が最後だったようだ。


 お話は聞いています、と「銀の狐亭」の支配人は諸手を挙げて二人を歓迎した。どうやら、カタリナが既に「サル共のボスを倒した」と報告していたらしい。


 そのカタリナは、とザゴスが尋ねると、既に帰ったという。


「お急ぎのようでした。最後の王都行きの馬車に何としても乗る、と……」


 宿を挙げて歓待したかったのですが、と残念そうな顔を作った。


 今度はフィオが「泊まれますか?」と尋ねた。既に最終の馬車は出ている。歩いて戻ろうとすると、日が暮れるどころかどこかで野宿せねばならなくなる。


「もちろんです。部屋は空いておりますしね」


 お代も結構ですよ、と丸顔の支配人は愛想笑いを浮かべた。

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