一話
投稿不定期です。
「ふぅ、ふぅ」
目の前の焼けた肉に息を吹きかけ覚ます仕草をする。必要はないが、してしまう。
この姿になってから人間のような仕草が増えた。悪魔の姿のスライムだけど。
悪魔は炎の中級魔法が使えたのでそれを早速使った。魔力は百年も生きていれば膨大で、無くなる気がしない。逆に、力がみなぎる。
いつもはちょびちょび魔力を吸収していたのに、昨日は一気に吸収したからなぁ……お酒の一気飲みが危険なのと同じことだ。
―――ん? お酒??
何故、一気飲みが危険だと知っているんだろう? それに、お酒と言う物。
前世の記憶を少し覚えていたのだろうか。
けれど目の前の美味しそうな肉を見て考えをやめた。
かぶりつくとジュワリと肉汁があふれる。
でも、少し味っ気がない。何か、しょっぱいものが欲しい……塩とコショウ…。
そしてまた、ん? と首を傾げる。
悪魔を吸収した反動で前世の記憶を少し思い出したのだろう。
そう結論づけ、B-のウシモンスターの肉を味わった。
✻ ✻ ✻ ✻
食後は、いろいろなことを試した。
それで分かったことは
悪魔の姿でも他のモンスターの力を使える
別にベースが悪魔でなくても良いのだが、ベースが悪魔だとしたら飛行モンスターの翼を背中に生やして飛ぶこともできる。ウサギモンスターのジャンプ力を出すこともできるのだ。一部を変えて使えるものもあれば、わざわざ変えなくても使える能力もある。
例えば魔法。この悪魔は炎を使った魔法を使える。ウサギモンスターの姿でその魔法を使ったりできる訳だ。
僕が使える魔法は
C+ ウサギモンスターの初級強化魔法
B- ウシモンスターの初級防御魔法
C+ コウモリモンスターの初級暗視魔法
B 肉食花モンスターの中級回復魔法・固定魔法
B+ 悪魔の中級炎魔法・悪魔のオーラ
等だ。なかなか、魔法を持ったモンスターはいないのでこんなものだ。動物の能力も使えるため、飛ぶこともできるし聴覚、視覚、嗅覚も優れている。
悪魔のオーラは固有魔法だったみたいだけど僕も使えるみたいだ。辺りのモンスターを近寄せなくなる。近寄りたくなくなる魔法だ。
コウモリモンスターの暗視はどんなに暗くてもはっきりと見えるので、とても便利だ。そして、同じモンスターでも魔法を持ってないほうが多い。例え、あのモンスターがあの魔法を持っていたからと言って同じ魔法を持っているとも限らないし持っている方が少ない。そして、魔力量によって威力も変わる。初級魔法でも中級と同じくらいの威力は出せる。多分それ以上も行けるんだろうけどちょっと怖くてできない。
周りに影響が出てしまいそうな気がして…。
ふと、森が騒がしいことに気づいた。
よう見ると、動物が集まっていたのだ。
―――何故?
不思議に思ったが、すぐにわかった。
彼らは身を守る手段が少ない……モンスターに出会ってしまえばひとたまりもない。
そんな彼らはなるべく害のなさそうな力の強いものへ近寄る性質を持つ。害が有るか無いかは直感でわかるらしい。
僕は今まで、適度に栄養を得るため捕食、吸収してきたが安易に殺めたことはない。食べずとも死ない僕でも栄養が無くなると干からびてしまう。元気が出ないのだ。
じっとしていると、リスが近寄ってきた。
まだ、小さな子リスだ。きっと何が危ないのか分からないのだろう、危機感なく近寄り僕の膝に乗ってきた。
こうやって近寄ってくるのは、僕の魔力が心地よいからだろう。動物からすれば、落ち着くオーラがするんだろう。
モンスターからすれば防御魔法と悪魔のオーラを常に展開している僕は不快感の塊だろう。
動物を悪魔のオーラで追い払うこともできるが、害は無いし僕の癒やしになるから使わない。
徐々に動物も増え、そばに近寄るもの茂みから様子を見るものがいる。
膝に乗る子リスと狐を撫でる至福の時間……
「かわいい…」
最近は喋ることも上手になってきたのだ。いぇい。
子リスと狐…一緒でいいのか? と思ったが庇護されている時は休戦状態で狐も手を出さないみたいだ。デザートにと、集めていた沢山の木の実、果実を動物たちに振る舞いふわふわ天国を満喫していた。
✻ ✻ ✻ ✻
「この辺りなの?」
「あぁ」
「うぅう…」
森の中には三人の人間がきていた。
「リデスお嬢、諦めて帰ったほうがいいぞ? 旦那様に叱られちまうよ…」
「そうだよ、リデス様…最近この森には悪魔が目撃されたから危険ですよう」
「わたくしは見つけるまで帰りません」
少し言葉遣いの荒い少年は十歳ほど見える。赤い髪は無造作にはね、キリッとした瞳は茶色い。日に焼けた健康的な肌に人懐っこい顔をしていて整っているしている。
その後ろにはシンプルな服の上に軽い鎧をつけた、ポニーテールの七歳歳程の美少女が歩いていた。動き一つ一つが品があり、見につけるものをよく見れば上質なもので高貴な人物だと分かる。その少女の大きな瞳にはこの先にあるものを目指すという強い決意を感じる。
そんな少女の後ろを歩くのはオロオロとしたおかっぱの十歳程の少年だ。黒髪黒目でタレ目にぷっくらとした唇で女顔の少年は青い顔で震えながらも仕えている少女と友人を心配してついて歩いていた。
「ハリス、本当なのよね?」
「だからそうだって…、ハンターのおっちゃんが言ってたもんこの森で水色の綺麗なスライムが出たって」
「でもあの噂はデマかもしれませんよぉ…」
三人はスライムを求め森へ入っていた。理由は最近呟かれている噂にある。森に薬草を摘みに行った少女が水色の綺麗なスライムを見つけ、こっそり様子を見ると自分より大きなモンスターを瞬殺していたとか、かと思えばそのモンスターに姿を変え走り去ったとか…そのスライムは神の使いで姿がキラキラとして神々しくとても気持ちの良いオーラを放っていて、何でも願いを叶えてくれるとか。
人を伝っていくうちに噂が妄言に変わり膨れ上がった妄想だった。ハンターの男ははそんなスライム居ない、見間違いだと信じていなかったが少女は違った。森には悪魔を見たという噂のせいで立入禁止になっていたが、人の目を盗んで入っていた。
✻ ✻ ✻ ✻
有難う御座いました