廃駅のホーム
少年は人形に言われるまま、普段使う駅とは逆の方向へ歩いていた。
記憶では、その方向に駅はないはずだ。しかし人形は、方向は合っている、と言う。戻る術がなくなった少年の選択肢は、進む以外に存在しないらしい。
道なりに進んでいると、やがて廃駅が見えてきた。入り口の前には錆び付いた立ち入り禁止の看板が、傾いて立っている。
今にも崩れてしまいそうなほど劣化したその建物の中へ入ると、なぜか明かりがついており、その駅の構造は、普段利用する駅と大きな違いはなかった。
「改札を入ったら右だ。階段を上がればそこにホームがある」
「それはいいけど、こんな誰もいない駅に列車なんて来るの?」
「必ず来るさ」
表情が変わることのない人形の言葉は、少しずつ少年を不安にさせていく。それ以外にも、駅内で聞こえる音が、少年の靴と床が触れ合うことで鳴る音だけ、というのが不気味だ。
人形の言う通り、階段を上がるとそこにはホームがあった。
天井から吊るされた電光掲示板には、確かに午後九時に列車が出発すると表示されている。
人形は黙っていた。少年も線路を見ながら黙っていた。
数分後、電光掲示板に変化があった。しかし、それはとても静かだった為、少年が気づく頃には、ホームの先に二つの明かりが見えていた。