はじまり
部活が終わり、午後八時半頃。
家のドアに鍵はかかっておらず、それどころか半分開いていた。
高校生の少年がそれをさらに開いて中に入ると、中は異常に静かだった。
リビングへ行くと、少年の母と父がいた。彼らは床に転がっており、時間が止まったように固まっている。
状況が理解できないまま、少年は夕飯の用意がされた机に視線を移した。そこには冷めきった夕飯と、その真ん中に不自然に傾いた人形が置いてある。その人形は少年によく似ていた。
「今日の午後九時に出発する列車がある。それに乗れば、こうなった理由もわかるさ」
人形はくるみ割り人形のような口を動かして言う。
後で考えてみると、それは不思議なことだったが、少年はそれを不思議だと思わずに信じた。そういう何かが、人形にはあったのかもしれない。
「どこに行けばいいの?」
「案内してやるから準備をしな。ただ、のんびりしている時間はない。なるべく早く終わらせろよ」
そう言われても少年には、何を持っていったら良いかわからなかった。いや、持っていくものは人形以外に存在しなかった。
少年は人形を適当なかばんに入れ、家を出た。