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天使降臨

 誰かを哀れむときは必ず自分が優位だと思う所があるからだ。


「助けてください」


 そう言われたときに胸が軋むほどの罪悪感がある状況に出会ったのは初めてである。


「だ、大丈夫ですか!?」

「はい。わたしは肉体的には見た目ほど酷くありません。怪我は大丈夫です」

「……何か、できることはありますか」


 そんな言葉を返したのは、間抜けだったと思う。でも、意味もわからない状態で言った言葉にしては上等なものである。


 状況を説明する。

 今そう答えた彼は花畑の中にいた。白と黄色の花の絨毯が延々と広がっていて圧倒される自然豊かな光景だ。

 そんな中、目の前に倒れている女性。どう見ても瀕死の、輝く銀髪の女性が血まみれで横たわっている。

 両手は無い。あったはずの場所からはどくどくと血が流れている。流れた先から花を紅く染めている。

 足も見当たら無い。純白のスカートは紅い染みを作っている。

目を閉じている。眠いだけ、ということはなさそうだ。


 本来なら逃げただろうか。彼には唐突な現状に美しい世界もろくに見ず、彼女を見ていた。


「周りをみてください」


 その言葉に従って恐る恐る彼女から視線を離す。空は高く、青々と広がる。遠くには高い山も見え、山頂は白く染まっている。


「花畑……山……森……湖……?

ここは何処……だ?」


 そんな壮大な景色。家屋の一つも見え無い壮大な景色が、故郷にあっただろうかと思考する。

 状況が分からなすぎて絶望感も生まれ無い。こんな場所に身一つで放り出されれば悲壮にくれそうなものである。そういう意味では彼も哀しい人間だった。


「他にはありませんか?」

「えっ?」


 彼は急に足元から声がしたので、驚いて後ずさる。すると背中に何かが当たって派手にぶつかってしまった。


「うお!? な、なんだ?」


 驚いて振り向くと、其処には赤と青で塗装された世界にそぐわ無い人工物があった。


 四角い箱型で、前面はガラスなのか透明で中身を見る事ができる。その中には黒い球形のものが沢山はいっていた。四角い筐体の下の方にはドアノブのような突起があって、ぐるりと回すように矢印が書かれていた。


「ガチャだ……」


 眉をひそめる彼もガチャはやった事が有る。基本的に引いて見るまで何が出るかわから無い。このカプセルでは何が入っているのかもわから無い。


「それが何かわかりますか?」

「ガチャですか。景品は見えません」


 彼の手の中に丁度メダルが一枚ある。硬貨だと思って拾ったが白金色である以外は期待した模様も数字も無い。星のついた硬貨になんだ、と思った瞬間にここにいた。

 これ以上の説明はしようがない。


 そして目の前のものについては地域によっては色々と呼び名のあるガチャである。

 ガチャは硬貨を入れて取っ手部分を回すと景品が出てくる簡単なクジ引きゲームだ。カプセルまで真っ黒で景品のポップすら貼られてい無い。


「代価を入れて引いてください」

「た、代価って?  お金ですか?」

「いえ。お手持ちの硬貨です」

「こ、このメダルですか?」

「はい」


 意味がわから無い状況から、どんどん流されていく。これが彼女の為なのか? そう思考してガチャを振り返る。

 疑念は尽き無いがとにかくやるべきか。


 メダルをセットして、力を込める。何かに突っかかるような感覚をさせながらそれを回す。

 ゴン、と、金色のカプセルが転がり落ちる。


「あれ? こんな色のカプセルもあるんだ」

「何色ですか」

「金色ですね」

「金、ですか。わたしがやった時は黒いものしか出なかったですね」

「そ、そうですか……あけますね?」

「お願いします」


 目を開か無いから全く感情を読め無い不気味さがある。それでもその人は綺麗だ。よくわから無いが神聖さのようなものを感じる。彼がパニックにならないのは彼女が一貫して落ち着いているからだろう。


 パコッと音を立てて小気味好くカプセルを開く。中身は何かとは期待もできない。知らないものに期待もなにもない。ただ少しでも何か今役に立つものが欲しい。


「おお!?」


 中身に驚いたのではなく、あけた時の光に驚く事になった。急に嵐のような風が吹き荒れる。何が何だかわからないが、動けないあの人が危ない。

 覆いかぶさるようにその人をかばって、風がおさまるのを待った。

 しばらく吹き続いた風が収まる頃、ようやく顔を上げてあたりを見る。花が舞い幻想的な風景の中で光が一箇所にまとまって人を模っていた。

 眼を細めて睨むようにそれを見ていると、一人の女性へとみるみる変わっていく。また拡散するように光が抜けて、その中には金色の髪の息を飲むような美しさの女性が立っていた。眼を閉じていると人形のようにも見える。長い睫毛がゆっくりと持ち上がると、金色の目と視線を交わし合う事になった。


「……」

「……?」


 意味がわからない状態に意味がわからないこもを盛り込まないで欲しい、と。彼は血まみれの誰かを抱えて引き笑いした。


「その方を離しなさい」

「えっ?」

「その方に汚い手で触るんじゃない!

 貴様も同じ目に合わせてやる!!」


 壮絶な勘違いをしたまま彼女は両手を振り上げた。光が瞬いたのちに、両手が炎に包まれる。それはすぐに剣の形に変わって、周りに炎の渦を作った。空気が熱くなって息をするだけで苦しくなる。見た所満身創痍の彼女も苦しそうだ。

 彼女を抱いたまま炎の渦に囲まれる。何かできないか。このさい、意味がわからない事は置いといて現状の解決に徹するべきだ。

 そう思考できたのが遅すぎて手遅れ。


 何かをすべきだと言う直感は彼が最も逆らわない感情である。彼の手の中にある彼女は動けない。

 でも彼女はカプセルを、と口にして咳き込んだ。それで自分の唯一の持ち物を思い出した。

 右手には金色のカプセル一つ。焼き尽くされる前に、それを天使の姿をした悪魔に投げつける。投げた右腕は即座に灰になって崩れ落ちる。彼の抵抗はそこまでだった。炎の渦に飲まれても、カプセルだけはまっすぐ飛んだ。怒りに震える天使にまっすぐ飛んでパコッと開けた時と同じ音がなる。


「わたしに礫を当てた程度でどうにかなるとーー」


 言った先に彼女の姿が消える。後には何も残らなかった。カプセルが転がる光景を顔を上げて確認する。

 一体なんなんだ。

 そんな言葉と、涙を一つ零して。不運を嘆く彼の元に一枚の硬貨が落ちる。


「困りましたね……天使が脅威になるとは」

「お、俺より状態が酷いのに余裕がありますね……」

「そうでもありません。

 それよりも、貴方の機転に驚きました。

 助けてくれてありがとうございます」

「どういたしまして。それよりこれからどうしましょうか」

「貴方に権能を授けようと思います」

「さも当然のように変な事言いますね……」

「変な事? 貴方は考えが人に寄っているように感じます」

「よってるも何も、人ですよ」

「えっ」

「えっ」

「……なるほど。では、私が何者かも分からず協力して下さったのですね。

 貴方の慈悲深さに感謝致します。

 私はこの世界で、転機の女神と呼ばれております」

「天気の女神様ですか?」

「転機ですね。逆境とも言います」

「逆転の女神様?」

「そう呼ばれる事もあります。

 場所によっては邪神呼ばわりもされていたりします。

 貴方の世界でもそうでしょうか」

「いえ。ただ、チャンスに恵まれなかった時に、逆転の女神には前髪しかないと言ったりしますね。

 思ってたより全然美人でビックリです」

「容姿の良し悪しはきっと人の基準である貴方にお任せします。

 ……しかし、今の私は貴方にとっては醜悪な姿に見えるでしょう。

 気を遣わせてしまってすみません。

 こんな事ばかりでは気が滅入ってしまいますね。

 状況の説明を致します。聞いていただけますか」

「もちろん……けど、女神様」


 くるくると表情を変える女神に微笑ましいものを感じて彼は笑った。彼女にしても、いっぱいいっぱいだ。


「俺の名前を聞いてくれますか?」

「し、失礼いたしました。

 あの、でも。目が見えずとも私も女神の端くれです。名は読まずとも分かります」

「名前の交換は会話のやり取りの基本じゃないですか女神様。

 俺はハルトって呼ばれてます」

「ハルト様。私はクレイトアと申します」


 ふっと彼女が微笑むと、それに応じて彼も笑う。


「クレイトア様?」

「敬称は必要ありません。呼びやすいように呼んでください」

「俺の敬称もいりません。

 ではクレイトアさん、説明をお願いします。俺はどうしてここに? あのガチャは何なんですか」

「はい。すべてを説明します」


 女神は一つ息を吐いて語り出す。

 彼にとって衝撃の事実であり、彼女にとって当たり前の事を。


「まず、貴方は私の天使として造られた存在です」


 耐えろハルト、と、最初の一言を聞いて叫びそうになった意味わかんねぇ、という言葉を飲み込んだ。

 天使、前途多難である。

女神様の為に、R15と残酷表現にタグがとられた!

後一個しか入らないじゃないかー、とファンタジーと書いたがそれ以上思い浮かばなかった。

ガチャとか、タグになるかな。ひねり出すほどほしいものでもないけど。

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