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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ハロウィンの夜に彷徨う者たち

作者: 柚田縁

 その町には伝説があった。10月31日の夜、ハロウィンの日に死んでしまった子供達が、町外れの共同墓地からやって来るという。

 彼らの事を町の人達は、ハロウィンズ・ワンダラーと呼んだ。


 幼いジャッキーは、隣に住むお爺さんにその話を聞いて怖くなったが、お爺さんは言った。


「怖くないよ。お菓子をあげれば、何もしないで帰っていくんだ」


「お菓子をあげないとどうなるの?」


「さあねぇ」


お爺さんは不敵な笑みを浮かべた。




 一ヶ月くらい前に引っ越してきたジャッキーは、この町で最初のハロウィンの夜を迎えようとしていた。

 彼女は以前使った事のある、ハロウィンの衣装をクローゼットから出し、今夜どんな仮装をしようか悩んでいた。

 一番のお気に入りは、女の子の定番である魔女。でも、最後に着たのは二年も前の事。もう、衣装は小さくて入らなくなっていた。

 結局選んだのは黒猫の衣装、というか、彼女の冬用パジャマだった。それに猫のお面を付けたら、仮装は完成だ。


 仮装したジャッキーは、一人でこっそりと家を出た。

 まだハロウィンには早い時間帯。太陽はまだ、地平線よりも上にあった。

 それでもこんな時間に家を出てきたのは、同年代の子に会わない為だった。

 この町に彼女の友達は一人もいない。

 たった一人のハロウィンだったが、ジャッキーの心は踊っていた。


 彼女は町の北側にある、小高い丘への道を登った。

 人気の無い丘の上で、彼女は草の短い所に仰向けで寝転んだ。

 彼女が見たのは、秋の空。千切れ雲が黄色み掛かった空のあちこちに散らばり、それを風がくっつけたり離したりしながら、一定方向に動かしていた。

 それを目で追っている内に、ジャッキーは目を閉じ、ウトウトし始めた。




 気が付くと、彼女は車に追い掛けられていた。必死に逃げたが、辿り着いたのは袋小路。車体は猛スピードで迫ってきて……。

 そこで目が覚めた。

 辺りはもうすっかり暗くなっていた。


 彼女が慌てて立ち上がろうとした時、人の気配を感じた。すぐ横で一人の男の子がこちらを見下ろしていた。

 彼女は思わず距離を取った。周囲には五、六人の人影があった。

 ジャッキーはすぐに、隣のお爺さんに聞いた話を思い出した。彼らが、ハロウィンズ・ワンダラーだと、彼女は確信した。

 彼女は恐怖で石のように固まっていた。そんな時、一番近くにいた男の子が手を差し伸べて、こう言った。


「一緒においでよ。僕はジミー」


 ジャッキーは、その差し出された手を取ってしまった。




 一団は、丘を下る道を歩き出した。


 ジャッキーはジミーと並んで、一番後ろに着いて歩いた。ついチラチラと横目で、彼の事を盗み見てしまう。

 彼の首には、どす黒い帯状の痣が見られた。

 他の子達も、お腹から血を流している者や、顔の側面が傷つき凹んでいる者など、一様に不気味な風体をしていた。




 彼らは町の北にある住宅街へやって来た。その内の一軒は、門の所にジャック・オー・ランタンが飾ってある。くり抜かれたカボチャの中で、ロウソクの炎が仄赤く揺らめいて、綺麗だ。


 みんなはその家の門をくぐり、ドアの前で立ち止まった。一人、みんなのリーダー的な子が代表で、扉をノックする。

 ジャッキーは慌てて猫のお面を顔に着けた。


 扉が開かれると、みんなで「トリック・オア・トリート」と、声を合わせた。

 中から出てきたおばさんは、みんなの風貌を見ると、びっくりした様子でこう言った。


「最近は随分リアルなのねぇ」


 みんなはお菓子の入った袋を一人ずつもらって、門から出て行った。

 最後に、ジャッキーがもらう番になった。彼女は何故か緊張していたが、その様子が所作に現れていた。おばさんは、緊張を解きほぐすように彼女の頭を撫でながら、「かわいい黒猫さんね」と言って、お菓子の袋を手渡した。

 彼女は途端に上機嫌になって、踊るように飛び跳ねて門をくぐり、出て行った。


「良かったね」


ジミーがそう言って、迎えてくれた。


「うん!」


 それから彼らは家々を巡り、お菓子を貰っていった。ジャッキーも徐々に彼らの見た目に慣れて、一緒に楽しむ余裕が出てきた。

 もちろん、手にしているお菓子の袋が増えるのもそうだったが、何より受け入れてくれる町の人達の優しさが嬉しかった。

 彼女はハロウィンというこの夜に、感謝を捧げたい気持ちでいっぱいだった。




「僕も初めて参加するんだよ、ハロウィンズ・ワンダラー」


ジミーはそう言って、笑い掛けてきた。


「へぇ、慣れてるみたいに見えるよ」


「そうかなぁ」


 そんな言葉が自然に交わせるくらい仲良しになった二人は、ある通りに差し掛かった。

 途端に、ジャッキーは足を止めた。


「どうしたんだい?」


街灯の一つは、古くなってゆっくり明滅を繰り返していた。みんなの姿が闇の中に消えてしまう。


「どうしてか、この先に行きたくないの。嫌な気分」


「この先には病院があるけど」


 そうこうしているうちに、暗闇の中にみんなの歩く姿が浮かび上がってきた。彼らは何事も無いように、お菓子の袋を増やして戻ってきた。

 もうこの先に行く必要が無くなったと思うと、彼女は不思議と安堵した。




 みんな両手に持ちきれない程のお菓子を持って、丘の上へと登っていく。

 丘の上から町を見下ろすと、所々にランタンが放つ橙色の明かりが灯っていた。それに、空に輝く明るい月と、家々の窓明かりとが折り重なって、幻想的な夜景を作り出していた。


 リーダー格の男の子が何かを叫ぶと、みんなも一緒になって叫んだ。今までどこか元気が無いと思っていた彼らが、生き生きとして見えた。


「さあ、ハロウィン・パーティーの始まりだ!」


ジミーは言った。


 みんな輪になって、もらったお菓子を嬉しそうに頬張り始める。

 その時ばかりは、誰もが無邪気に一年に一度の夜を楽しんでいた。

 ジャッキーとジミーの二人は、輪の外で静かにお菓子を口に運んでいた。


「こんな夜、初めて」


月明かりに上気した顔を映し、ジャッキーは言った。


「こんな遅くまでハロウィン・パーティーは初めてかい?」


「うん!」




 パーティーは唐突に終わった。もう、ジャック・オー・ランタンの明かりも、窓明かりも無く、月でさえもどこかに姿を隠してしまっていた。

 東の空は濃い青色に変わりつつあった。


「さあ、行こうか」


 ジャッキーは突然、ジミーに右手を掴まれた。たった今湧き出してきたばかりの清水のようなひんやりとした冷たさが、骨の芯までじんじんと染み込んでくる。

 彼が指差し引っ張るその先には、町外れの共同墓地がある。

 ああ、そういう事か。彼女は悟った。自分はハロウィンズ・ワンダラーの一員になるのだと。

 彼女は、それを仕方ないとばかりに受け入れた。

 だがその矢先、他のみんながジミーを取り囲み、行く手を阻んだ。


「邪魔だよ!」


そう言って彼は、他のみんなからジャッキーを遠ざけ、再び彼女の腕を引っ張り出した。

 彼女の足は無意識にそれを拒んだ。


「どうしたんだい? 一緒に来るって約束したよね?」


「でも」


「約束したよね!」


人ならぬ者の強い力で握られる手首。彼女は思わず声を漏らした。


「痛い!」


ジミーは、笑いながら言った。


「僕たちはもう仲良しなんだよ。誰にも邪魔はさせない」


彼のその笑顔は不気味で、彼女は思わず身を震わせた。


「いやだ! 私、まだ死にたくない!」


 その瞬間、彼女の背後から幾筋もの眩しい光が差した。朝日だ。

 光を浴び、次々と灰のように霧散し、消え去っていくハロウィンズ・ワンダラーのみんな。ジミーはジャッキーの影に入っていた為、光を浴びたのは最後だった。

 消える間際、彼は呟いた。


「一人じゃ、寂しいよ」




 ふと目を覚ますと、そこは真っ白なベッドの上だった。見渡す景色から、そこが病院だと、ジャッキーはすぐに知った。彼女自身、様々な管が腕や体に取り付けられていて、動かすとチクチク痛みを感じた。


 傍らのデジタル時計が示す日付けは、11月1日。


「私、どうして病院にいるんだろう?」


 独り言の後、徐々に思い出が蘇ってきた。

 歩道を歩いていた彼女の方に、前から暴走車が突っ込んでくる光景。ヘッドライトばかりが、とにかく眩しかった。


 彼女は息を呑んで、右手で口を覆った。

 ジャッキーはこの町に引っ越して来てすぐ、事故に遭い、それからずっとここで眠り続けていたのだ。

 ふと、右手の痛みに気が付いた。そこには、手で強く握られてできた痣があった。


「あれはただの夢じゃないんだ」


夢だったのはむしろ、この町で過ごした一ヶ月間の方なのだ。

 彼女は慎重に上体を起こした。骨が軋み痛みを伴った。

 アイボリー・ホワイトの壁を見つめ、彼女はジミーの事を思った。


「私もあの子みたいになってたかもしれないんだ。一人で、寂しく」


 潤んで霞む目を窓の外に向けると、丘の上で見たような朝日が昇ろうとしていた。

 聖なる日の朝が訪れる。

こちら、今からちょうど1年前に、某イベントの為にに書いたハロウィンものの短編小説です。

せっかくなので、「小説家になろう」に投稿する事にしました。

少しだけ手を加えましたが、話の流れは変わっていません。


読んでくださってありがとうございました!

では、失礼します。

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