無機質に焦がれた君
「無機質なものになりたい。」
そう君は告げました。
平然とまるで幼子が将来の夢を語るかのように、言ったのでした。
僕が何故と問うと、先程に比べると深刻な表情で君は答えます。
「だってヒトは成長を繰り返して何時しか老いるのよ。私も貴女も。今は綺麗な肌だけれど段々皮膚は無数の皺が刻まれ、当たり前に動かせるものが動かせられなくなる。病にかかれば細胞は死ぬでしょう?記憶だってどんなに暗記したって何時しか忘れちゃう。今日、貴女のことは覚えていても明日も覚えている保障はないのよ?」
淡々と答える君に僕は唖然となった。
いつもふわふわとしてまるで甘いものしか食べていないお姫様の様な君がこんなことを考えている。
僕は君であって君でない人と接している感覚に陥った。
落ち着くために鞄の中からタバコとライターを取り出そうとしたら、その手を君に遮られてしまいました。
何と今度も僕は君に問います。
「いいから真面目に聞いて。要はね、私はアンドロイドかお人形になりたいの。永遠の存在に。ヒトは醜いわ。そしてヒトは儚いわ。食事、排泄、睡眠、どれを欠けてもダメになっていく生き物だもの。それに身体欠損したらもう不完全なものになってしまう…。無機質なものになれば、欠損しても改造してもそれはそれで完全なものとして成り立つわ。貴女との愛はもしかしたら一方通行になってしまうかもしれないけど、こんなご時世…私と貴女の愛は将来終わっちゃう。だって私たちは同性だから。この国で結婚は出来ない。貴女が女しか愛せなくても、私は貴女と別れて家庭を持つかもしれないわ。子供だって産んじゃうかも。だからね無機質なものになって、永遠に貴女に愛されたいの、私。死を恐れず貴女に愛されていたいの…。」
言い終えると君の大きな瞳から雫が零れていました。
睫毛も濡れて泣いている。僕は君を慰めるために、君を抱きしめその柔らかい髪の毛で覆われた頭を撫でます。
こんなにも君は僕を愛していたなんて思ってもいなかった。
愛しい君の願望は僕じゃ叶えられない。
だけども君の健気で重い愛は受けとめよう。
愛してる。君を。
例えば世間が笑っても君が愛おしいのです。
ねえ、君。君の願望は叶えられないけど、君と僕の愛を永遠にする方法があります。
誰もいない土地で誰にも祝福されずに結ばれ、愛し合うのです、ひっそりと。
二人で同じ数だけの皺を刻み、可愛いお婆ちゃんになって二人で生涯を終えましょうか。
そしたら淋しくない。別れることもない。
所詮、僕らはヒトであり有機物。無機質なものにはなれません。
だからこそ、ヒトらしく一生を終えましょう。