灼熱のブタ
太陽が問答無用で照りつけやがる
蝉がワッシャワッシャと鼓膜を劈く真夏の午後6時
やっとくそな仕事が終わった
課長のくそ野郎・・腰巾着め・・フッ・・
くそ渋滞エブリディ・・くそクラクション・・街のくそ雑音・・いかれちまったくそ車のくそエアコン・・
くそ暑い・・灼熱の砂漠のような茹だりまくる車内の熱気
俺までイカれそう・・幻聴で微かにコーランが脳内を駆けめぐる・・イカれちまったか?
汗ぐっしょり、シャツびっしょり
ナイアガラの滝みたいにガラガラ額から溢れ出し
頬を伝い顎からボタボタボタボタ滴り落ちる
汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗
ネクタイを外し車の外に投げ捨てる
ワイシャツも肌着も投げ捨てる
延々と続く車の大群
空から見下ろせればみんな虫けらの大群
いつものくそな光景
果てしなく続く
車車車車車車車車車車車車車車車車車車車車車車車車車車車車車車車車
四方八方にマシンガン、バズーガをぶっ放したい
!!・・痛ぇぇぇぇ・・ちっ・・尿管結石の石の野郎が動きやがった
針で脇腹を刺されるような激痛が背中と腰の間を後ろから斜め45度の角度で脇腹を伝い情け容赦なく差し込んで来やがった
カチャ・・
FMを入れる
「OK!おおきに!ライツナウ!最後にお届けするナンバーはUKロックの雄!【ザ・ファイヤーサウナ】のイカシタナンバー『炎の極熱ワールド』でお別れしたい思てますぅ!カミングスーン!ネクストウィーク!DJはあなたのオナペット、もうかりまっかでお馴染みの白木原みのるがお送りしました!スィーユー!ほなっ!」
バッッゴォォォオオオオオーーーーーーンッッッ!!!!
幻の左ストレート一撃でラジオのスイッチを切る
拳にプラスチックの破片がめり込み所々血が滲み出す
と、その時・・
!!ゲッ・・なんっじゃこの臭いはぁぁああああああっっっ!!??
唐突に鼻が千切れ落ちそうなほどの刺激臭が車内中にたちこめ、聞き覚えのある動物の鳴き声が俺の耳に雪崩れ込んできた
ブヒッ、ブキッ、ガブッ、ブフッ、ブキィィィイィ〜ッ!ブキキィィィイイイ〜ッッ!ゴブッ、ブゴッ・・
斜め上に目線を移す
そこにはトラック一杯にすし詰めされたブタたちの姿があった
俺の視線とブタ達の視線が交錯する
ブタたちは今から自分らが何処へ連れて行かれるのかをまるで知っているかのように
寂しげで悲しげな眼差しで俺を見つめていた
何か言いたげで何かを訴えかけて来るような目目目目目目目目目目目目目目・・
そんな豚たちの鳴き声が助けを求める悲鳴のようにも俺には聞こえていた
ここだけ時空が停止しているような不思議な空間
「おい、お前、どうせ俺たちを喰っちまうんだろう?え?感動的な映画観て涙流してよう、ドラマ見たりドキュメント見たりでも涙流してよう、その晩に食卓で俺たち喰っちまうんだよな・・なにが「愛は地球を救う」だよ、うぜぇったらありゃしない。俺達ゃお前ら人間の手によってこの世に出され、そして殺され、さばかれ、切り身にされてグラムいくらで店頭に売りに出され一家団欒の温かい食卓で舌鼓打たれながらパクパク喰われっちまうんだよな・・そしてお前らが生きて行くための栄養となる寸法さ。な、笑っちゃうだろ、俺たちゃお前らに喰われるために生まれてくんだよ。ぇえ、あんちゃん、笑っちゃうよな。人間に喰われるためだけに生まれくるってそんなの有りかよ?生死がオートマティック化されてるんだぜ?俺ほんと笑っちゃうぜ?ブヒッ・・ブヒブヒブヒヒッ・・そんなに旨いのかよ俺たちは?・・・そりゃ旨いわなぁ、こんだけ品種改良、旨味改良で改良に改良を重ねられ旨いモンばっか喰わさせられて来てるんだからそりゃやっぱ旨いに決まってんじゃんなぁおい!・・・でもよぉ・・よぉーく考えるとだなぁ、お前らこそ散々旨いものばっか喰ってるんだからよぉ、お前ら人間こそが本当は生きモン中で一番旨いんでないのぉおおっ!?もしかしてお前ら宇宙人から食用で養殖されてんじゃねぇのか!?ぇえ!あんちゃんよぉぉおおおおっっ!ブヒブヒブヒビブホブイブヒヒィィイィ〜(笑)」
!!ェェエエエエエェーーーーーーーーーッッッ!!!!!!
と、その瞬間、後ろから浴びせ倒されるクラクションの嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐!
我に返る
そして再び全体が何事も無かったかのように流れ出し、くそな現実に流され出す
くそな虫の大群が流れ出す
くそな街も人も流れ出す
くそな俺も流れ出す
くそな川にプカプカ浮いたくそみたいな俺が流れてゆく
くそな蝉の鳴き声
くそな雑音
くそな熱気と茹だるようなくそ暑さ
くそな排気ガス
くそなクラクション
くそな今日の仕事
くそな日常
くそなニュース
くそな不条理
くそな笑い声
くそな社会
くそな政治家ども
くそな官僚ども
くそな金持ちども
くそな奴ら
くそな俺・・
養殖・・・
そんな中ブタたちがバックミラー越しに遠ざかる
ブタたちがだんだん小さくなる・・小さくなる・・小さくなり・・消え失せた・・
しかしあのブタたちの目だけは俺の脳裏と心から遠ざかろうとはしない
すべての生き物は生まれながらに自由であらねばならぬはずなのに
人間から
食べられる
ためだけに
生まれて
来る・・
食べられるためだけに・・
人類に多大な恩恵を与え続けている君らなのに
人間は相手を蔑み罵るときに君らの名を吐き捨てるように浴びせかける
俺たち人間こそブタ野郎だ
君達は与えることが存在のすべてで
俺たち人間は地球上のあらゆるモノを奪い尽くすことが存在のすべてだ
奪って奪って奪い尽くし殺して殺して殺しまくり同類であっても殺し合う
徹底的に地球を、生命を貪りまくり殺戮し尽くし破壊し尽くす
人間こそブタだ
俺もあんたもブタだ
こんなくそな俺たちこそ何者かに喰い尽くされちまえ!
えせヒューマニズム
パラドックス
シェイム
フェイク
スカム
ファッキンラブ・・・
気がつけば俺はもう自宅の前まで辿り着いていた
吐き気をもよおす重っ苦しい何かを引きずりまとい車を降り玄関に向かう
ブタたちのあの目が頭から離れない・・
くそ・・あの目が・・目が・・目が・・
くそのような嫌悪感、脱力感、悲壮感を一色単に身にまとい重いドアを開ける
「ただいま・・」
「あ、お帰りなさいあなた!今日はあなたの大好物のトンカツにトン汁にトン足よ!」
!!ブヒィィイィィ〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!・・・・・
〓END〓