第18話 おかかえ配信係の誕生
「アカツキさん! わたしのこと——専属で配信してもらえませんか!?」
……は?
また変なことを言い出すんじゃないかと身構えていた俺は、思わず間の抜けた声を漏らした。
「えっと、ごめん、なんのこと?」
「一晩ずっと考えてたんですけど——わたしもやってみようと思うんです!」
まったく話が見えない。
「あのーニディア。俺も昨日マルセルさんから色んな話を聞かされて、頭がパンク状態なんだ。ちょっと順を追って話をしない?」
***
「昨日聞いた母の所在に関してなんですけど——」
隠れ家の小さなダイニングテーブルに腰を下ろすなり、ニディアはすぐに口を開いた。
「今も消息がわからないと言うことは、多分このまま待っていても同じ状態が続くと思うんですよ」
俺は、昨日マルセルから聞いた話を思い返した。
30年前の現国王によるクーデター。
そのとき、女王はニディアを人質に取られ、抵抗することなく幽閉された。
ところが25年前、何者かによって女王は解放される。
女王の脱出に加担した疑いで投獄されたマルセル。
彼を拘束した現国王。
どちらにとっても、女王が姿を消したことは予期せぬ出来事だった。そして今もなお、女王の行方は掴めていない。
ニディアはあとを続けた。
「で、考えたんです。 向こうから連絡が来ないのであれば、逆にこちらから積極的に発信するのはどうだろうかって。直接母に届かなくても、何かしらの情報は集まるかもしれませんし——」
確かにそれは一理ある。
ただ、自ら発信するということはその分リスクも発生する。
ニディアの件は個人の領域を越えた、国の思惑が絡む問題だ。軽率に動けば再び拘束されて、はいそれまで——ということになりかねない。
「それでわたし、前にアカツキさんが言ってたことを思い出して——」
ああ、そういうことか……。
ニディアの秘密の娯楽部屋から、はじめてリンタローに連絡を取ったとき、あいつが言ったひとこと——。
『ニディアちゃん。このアカツキ、他人の配信手伝ってるって言ってるの、違法配信とかなんだよ、知ってる?』
あれを覚えていて、それで言ってるのかー。
「アカツキさんの配信のお手伝いって、国や組織に追われている人たちの声を、発信元が特定されないように偽装してアイ・チューブで流しているって言ってましたよね。私も同じように発信しようと思うんです!」
確かにそれであれば、俺が適任だとは思う。
それでもだ——。
「やろうとしていることはわかったけど、かなりリスクもあると思うし、もう少しよく考えた方が——」
「あ、大丈夫です! 一晩中ずっと考えましたから。それにわたし、アカツキさんの腕、信頼してます!」
ニディアは顔の前で拳をぎゅっと握った。
——ああ、これはもう止められそうにない。
ニディアの勢いに負け、俺たちは早速、具体的なプランについて話を始めた。
「で、ニディア、まず基本的なところから確認なんだけど——顔出しするってこと?」
「……うーん」
ニディアは眉をひそめて唸り出した。
どうやら、そこまでは考えていなかったらしい。
「どんな衣装がいいと思います?」
——へ?
あ、つまり顔出しは前提ということですか……。
「可愛い娘の姿を見て、お父さんも連絡をくれるかもしれないし……」
ニディアはそう言って、ちょっと照れくさそうに「えへへ」と笑った。
そうだ。昨日マルセルさんから、ニディアの父親の話も聞いたんだった。
時計塔の定期修繕のためにエルフの女王のもとへ派遣された魔導具士。
クーデターのあったその日は不在で、今もその消息はわからないという。
そして——何より印象的だったのは、マルセルさんが最後に口にしたあの言葉だった。
『女王陛下の脱出には、姫様の父君が関わっていると考えています。
まあ、これは私の勘のようなものですが……。
ただ、昔のおふたりを知る私の目からすると、父君が女王陛下を見捨てるようなことは決してないだろう——そう感じるのです』
ニディアが父親の話をどう受け止めているのか気になっていたが、悪い感情は抱いていないようだ。
彼女の心情が聞けて少しホッとし顔が緩む。
そこに、ニディアが急に声を上げた。
「あー、アカツキさん。もしかして今、自分で『可愛い』とか言うなよって思ってたでしょ!」
「えっ、そんなことないって!」
「うそー、だってちょっとニヤってしてたじゃないですか! わかりました。もうアカツキさんには相談しません。コスチュームも自分で考えます!」
「いや、だから、そんなことはなくて……」
ちょっとむくれたニディアの相手をしていたところに、手元の魔導タブレットから通知音が鳴った。
「おっ、リンタローからだ」
通話ではなく、秘匿モードのメールになっている。
急ぎ開いてみる。
「おい……嘘だろ……」
ニディアもタブレットを覗き込む。
そこに書かれていたのは、一行のメッセージだった。
『アカツキおまえ、ロンディニウム王国から指名手配されてるぞ!』
はーーーっ。
思わずため息が漏れた。
『このまま逃げ切れると思うな! 国中に手配を回してやる!』
ケルチス殿下の最後の叫び声が、頭の中でこだました。
ロンディニウムは俺にとってほんと最悪の国のようだ。
「アカツキさんも一緒に配信、始めます?」
ニディアがいたずらっ子のような笑顔でこちらを覗き込んでくる。
あの、ニディアさん。俺にはなんの主義主張もないんですけど……。
思わず机に突っ伏していると、隣から椅子を静かに引く音が耳に届いた。
横を見ると、ニディアがおもむろに立ち上がっていた。
「じゃあ、あらためまして——」
ニディアはそう言って俺のもとへと歩み寄る。
そして——そっと右手を差し出した。
ああ、こんな場面、前にもあった気がする。
「アカツキさん、わたしのこと専属で配信してもらえませんか?」
俺はその手をしばし見つめ、ゆっくりと握り返した。
こうして俺は——訳ありエルフのおかかえ配信係になった。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
この第18話をもって第1章は終了。無事タイトル回収を終えた感じです。
第2章からは、
訳ありエルフのニディアとおかかえ配信係となったアカツキが、女王の行方を探しつつ、“この世界の秘密”に迫っていく――ドタバタ配信系冒険ファンタジーがいよいよ始まります。
引き続き応援いただけると幸いです。どうぞよろしくお願いします。




