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第15話 数日ぶりの再会

 俺は転移魔法陣に向かって右側の柱の影で息を潜めていた。

 すぐ後ろにはカルテとパージ。反対側の柱の影にはニディアとブークがいる。


 ゆっくりと明滅していた転移魔法陣の光がやがて静まり、三人の男たちが次々と姿を現した。


 先頭に立つのは——バッカスに少し似た壮年の男。そのすぐ脇にバッカス。そしてもう一人は鋭い眼差しの甲冑姿の男だった。


「ケルチス殿下! あ、あちらを——!」


 甲冑の男が声を上げると、「ケルチス殿下」と呼ばれた男がゆっくりと視線を向けた。


「……おお」


 その低く押し殺した一声に、傍にいるバッカスの声が被さった。


「し、師団長殿、こ、これは……」


「宮殿に鳴り響いていた警報音は、おそらくあれのせいかと——」


 彼らが見ているのは、たぶん俺たちが通ってきた方角だ。粉々になった大扉。その向こうに転がる——二体の竜の無惨な姿。


「近衛兵を呼べ! それと——グリエル殿を、そう、グリエル殿を呼ぶのだ! 手掛けていただいた竜が何者かに蹂躙された様子だと——」


 師団長の姿が転移魔法陣に消えると、ケルチス殿下の苛立ちの矛先はバッカスへと向かった。


「バッカス、これはどういうことだ! 城内の警備はお前の担当だろうが!? 先日の投獄者の脱走といい、なにをやっておるのだ!!」


 投獄者の脱走……?

 そうか、あのとき俺が送り込まれたあの地下牢のことか。


「くだらんアイ・チューブなどにうつつを抜かしておるから、こんなことになるのではないのか!」


 一方的に浴びせられる罵声。

 俺のときとは真逆の光景だ。


「兄上、そうおっしゃいましても、この場所に関しては私も初めてで——本日お連れいただかなければこのような場所があることすら——」


「ふん。お前も話くらいは聞いておろう。ここは女王の——」


 そのとき、唐突に甲高い声が割り込んだ。


「こら! ブサイクっ!……」


 声の主を探す……までもなく——。

 それは俺の真向かい——ニディアと一緒に柱の影にいたブークから発せられたものだった。


 ブークはニディアに口を塞がれてジタバタ暴れている。


 あー、そういえばアイツ、ギルドハウスを出たあとずっとバッカスの悪口を言ってたんだった。


「誰だ!」


 バッカスの鋭い声が通路に響いた。


 剣を抜き去る音。

 続いて、固い石畳を鳴らす足音がコツコツとなる。


 転移魔法陣の明かりがつくるバッカスの細長い影が、だんだんとこちらに近づいてきた。


 ……これはマズい。

 どうする——。


 そのとき、首元のアミュレットがコツンと揺れた。


 顔を上げると、反対側の柱の影でニディアに押さえつけられていたブークと、俺の後ろにいたカルテとパージの姿が消えていた。


 おそらくカルテの指示だろう。

 いい判断だ。


 俺ひとりなら、彼女たちをまた呼び出す手もあることだし、仮に捕まったとしてもなんとかなると思う。


 問題はニディアだ。

 うまく彼女だけでも逃がせれば——。


 俺は向かいのニディアに視線を送った。


「……」


 なんか身振り手振りで訴えている。


 ん?

 「わたしもアミュレットに入れて下さい」って?


 ——えっと、こんな緊迫の場面で無理なの分かって言ってる?

 というか、できることなら俺もそうしたい!


「出てこい!」


 バッカスの声が二、三歩先まで迫ってきていた。


 俺は、柱の裏——壁との狭いすき間を素早く駆け抜け、バッカスの背後へと回り込む。そして、その背中が見えた瞬間、一気に通路へ飛び出した。


「いやー、バッカス王子。先日は大変お世話になりました」


 振り向いたバッカスが目を剥く。


「……お、おまえ、アカツキ!?」


 すかさずケルチス殿下の声が飛ぶ。


「バッカス! そいつは何者だ!」


「はっ、兄上。こやつは我が国に対して不遜な態度を繰り返したため、国家反逆罪で投獄した輩です。先日の災害に乗じて、牢から抜け出したものかと——」


 バッカスの目が、底意地の悪い光を帯びて細められた。


 俺はバッカスを素通りして、ケルチス殿下の方へと向き直った。


「いえいえ、殿下。それは大きな誤解です。抜け出すつもりなんてなく、濁流に押し流されて、気づいたらこんな所に——」


「ええい、黙れ! 投獄など生ぬるかった。お前はこの場で斬り伏せてくれるは!」


 バッカスが剣を握り直し一歩前へ出た。


「バッカス、待て。その男、この場所の惨状について何か知っていようだ。殺さず捕らえよ!」


 ——どうもお兄さんの方が頭は回るようだ。


「殿下、その通りです。すべてお話いたしますので、ここは何卒——」


 そう言いながら、俺は少しずつケルチス王子の方へと間合いを移す。

 ふたりの注意をこっちに集中させて、その隙にニディアを転移魔法陣の側まで移動させる——それが俺の狙いだ。


「なるほど。では、口が利ける程度に痛めつけてやるとしよう」


 バッカスがにやりと舌なめずりをし、こちらに一歩二歩と詰め寄ってきた。


 その時——バッカスの背後、石柱の影からニディアが弾けるように飛び出した。


 後ろへ大きく引いた右足で容赦なく股間を蹴り上げる。


「ぐぅおぁぁぁあーッ!」


 苦痛に顔を歪めたバッカスが、呻き声をあげながらゆっくりと振り返る。


 ——そこに、今度は高く振り上げられたニディアの左足が迫る。


 しなやかな軌道を描いた上段への蹴りが、その首元を正確に撃ち抜く。

 それはカウンターとなって、バッカスの頭を激しく揺さぶった。


 膝から崩れ、音を立てて地面に沈むバッカス。

 完全に気を失っている。


 あの秘密の娯楽部屋で見せてもらったなかに、剣技以外の格闘技もたくさんあったのを思い出した。

 ニディアとは、絶対に喧嘩しないでおこう——そう心に誓う。


 ニディアの目は次のターゲット——ケルチス殿下を捉えていた。


「お、お前……まさか、あそこから抜け出して……」


 後ずさり顔色を変えるケルチス。


 こちらの殿下はいろいろと事情を知っていそうだ。できれば問い詰めて、女王の件など聞き出したい——そう思った矢先だった。

 

 転移魔法陣が再び動き出した。

 輪の中に、複数の人影が浮かび上がってくる。


 「おお、待っておったぞ!」


 ケルチス殿下の声が一気に弾む。


 マズい……。

 近衛兵が到着したらしい。


「ニディア!」


 俺は彼女に手を伸ばした。

 こうなったら一か八か、もう一方の転移魔法陣に飛び込んでみるしかない。


 掴んだ彼女の手をぐっと握る。

 そして——転移魔法陣へと駆け出した。


 ——が、俺たちが足を踏み入れるその一瞬前。目指した魔法陣が不意に光を放ち、動作を始めた。


 ああ——

 これはもう、完全に詰みかもしれない。


 俺は魔法陣の手前で足を止めると、ニディアを背にかばい両手を高く掲げた。

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