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第12話 ドラゴン vs カルテ&ブーク

 間髪を入れず動いたのはブークだった。


 一面水浸しの石畳に手のひらをつく。


 次の瞬間、足元が勢いよくせり上がり、石畳の一枚一枚が自らの意思を持つかのように浮かび上がった。

 それらは空中で舞い互いに組み合わさって、巨大な石の壁を作り上げていく。


 ——間に合ってくれ!


 火鉱竜の放った火焔が障壁へとぶつかる。


 轟音とともに、猛烈な熱風が吹き荒れた。

 大気は熱にねっとりと包まれ、肌をじりじりと焼きつける。

 視界がゆらぎ、空気さえも歪むのを感じた。


 間一髪だった。


 石壁の焦げた匂いがあたりに立ち込め、壁の外側は炎で焼かれて黒く変色していた。


「ううっ、ブークの大切な水が……」


 湖から引き上げていた水——火鉱竜の足元からこちらへと広がっていた部分がすべて蒸発していた。


 想像していた以上に苛烈な攻撃だ。

 階層に高さがない分、飛行しての攻撃がないのだけが唯一の救いだった。


 ズダダダーン!


 石壁の一部が砕け、ごそっと崩れ落ちた。


 マズいな……。


 あれをもう一度くらったら、耐えきれそうにない。

 壁ごと丸焼けだ——。


「ブーク、急ごう!」

「ラジャ、ボス!」


 ブークが防御から攻撃に転じた。


 フロアに残った水を火鉱竜の足元に集積し、そのまま凍りつかせる。

 冷気が一気に広がり、竜の足元を氷が包み込んだ。


 地面に氷付けされた両足を力任せに抜き去ろうとし、もがく火鉱竜。


 もちろんこれで完全に拘束できるとは思っていない。その動きを一時的に止めるのが狙いだ。


 程なく氷が割れ、片足の拘束が解ける。

 水の量が減って、氷結用に割ける割合が少なくなってしまったのが痛い。


 急ぎブークは、足止めに使わなかった水を再構成し、氷の矢じりを作り出した。


 微細で鋭い、擦れただけでも組織が引き裂かれ猛烈な痛みを与える、ブークの一番の攻撃魔法だ。


「行けーーーっ!」


 矢じりを繊細に操作し、火鉱竜のウロコに覆われていない部位を集中的に狙い撃ちする。


 眼球や口の内部、そして下腹部へ。

 それらは針のように突き刺さると、竜の暴れる動きを受け、さらに身体の内へと潜り込んでいった。


 ギャオーーーーーーーッツ!!!


 火鉱竜がけたたましい咆哮をあげ、大きくよろめく。


 そこへ畳み掛けるようにカルテが動いた。

 その体が最も傾いた瞬間を狙い、渾身の衝撃波を見舞う。


 痛みに体勢を崩していたヤツは、その攻撃に抗えずさらによろめき、上体を激しく壁に打ちつけ崩れ落ちた。


 ダダーーーーーーーン!


 地面が大きく振動し揺れる。


 当然この程度で倒せるような相手ではない。

 火鉱竜はゆっくりとその二本の足で立ち上がって来る。


 片目が少し潰れたように見えるが、眼光はより鋭くなった感じだ。


 ギャヤォォォォォォオーーーーー!!!


 再びの咆哮。

 先ほどとは明らかに異なる雄叫びのような声だ。

 これは、ヤツを本気で怒らせてしまったらしい。


 火鉱竜がその動きを一瞬止める。


 どっちが来る?


 火焔か、それとも——。

 互いが次の手を探り合うような一瞬の間。


 火鉱竜はこちらを静かに見据えた。

 その目は、まるで何かを測るような——理性の光すら感じさせた。


 コイツ、攻撃の手を選んでいるのか——。


 次の瞬間、火鉱竜の背から尾にかけてのウロコから、金属同士がぶつかり合うような高い音が鳴り響いた。


 火焔じゃない! これはウロコの方だ!!


 ウロコが浮遊するように宙へ舞い上がった。そして猛烈なスピードでこちらへ降り注いでくる。


「ブーク、頼む!」


 ブークが地面に両手をついた。


 目の前に再びドーム状の石壁が立ち上がる。


 その直後、凄まじい勢いでウロコが壁へと突き刺さっていった。


 金属が叩きつけられるような轟音。

 白い火花が飛び、石が砕け、破片が飛び散る。


 衝撃の度に石壁が震え、その振動が足元から伝わってきた。


 周囲を見ると、壁のない部分に飛んだウロコが硬い石畳に突き刺さっていた。

 しかもブークのいる側にその多くが集中している。


 こいつ、ブークを狙っている!


「ブーク! こっちに来るんだ!」


 そう叫び、彼女に手を伸ばした。


 ブークの手を握りぐっとこちらに引き寄せる。


 その背後で石壁のドームが瞬時に瓦解していくのが目に入った。


「ひえええーっ」


 さすがのブークも叫び声を上げた。


 俺たちは半分になった土壁の裏に身を潜める。


 ウロコによる攻撃は火鉱竜のもうひとつの大きな武器であり、殺傷力は火焔と同等かそれ以上、極めて強力だ。


 このままではヤバい……。


「カルテ、どうだ?」


「想定の範囲です」


 カルテらしい落ち着いた声が返ってきた。


「行けるか?」


「固有振動数は把握しました。あのウロコの金属質を共鳴させます。ウロコの再生には時間が必要です——今がチャンスです」


「じゃあ、お返ししようか」


 壁や地面に突き刺さったウロコが細かく揺れ始めた。


 カルテがそれらを共振させ、中空へと浮かび上がらせていく。


 空中に浮かび上がった100を超えるウロコ。

 自分がもし火鉱竜の立場なら、震え上がりそうな光景だ。


 カルテが右手を大きく振った。


 ウロコの群れは先程とは逆に、その刃先を火鉱竜へと向けた。


 次々と降り注ぐ自身のウロコが、無惨にもその無防備な身体を切りつけて行く。


 さらにそこへ、残った水をすべて矢じりに変えたブークの攻撃魔法が叩き込まれた。


 ギ、ギャーーーーーーーーーッツ!!!


 断末魔の叫びを上げる火鉱竜。

 その全身は血にまみれ、息も絶え絶えに、まさに瀕死の状態だ。


「行きます!」


 少しの余裕も与えることなく、ニディアが真っ直ぐに火鉱竜の懐へと飛び込んでいった。


 長く太い尾が地面を叩きながら横薙ぎにニディアに迫る。その一撃を彼女は大きくジャンプして飛び越えた。

 さらに返す尾が下から跳ね上がる——それを今度は上体を低くしてかわす。


 すかさず間合いを詰めたニディアは、その付け根めがけ、抜き放った剣を一閃した。


 鋼の刃が深く竜の尾に食い込んだ。

 肉が引き裂かれ、骨の砕ける音が響き渡る。


 ——巨竜の尾が激しく痙攣しながらその根元から断ち切られ、地面を弾みながら転がっていった。


 尾を奪われた火鉱竜が怒りの咆哮をあげ、長い首をニディアへと振り返らせる。だがそれは、自ら首を差し出す形となった。


 ニディアは地を蹴り、転がった竜の尾を駆け上がると大きく跳び上がった。


「もらいました!」


 ニディアの二の太刀が繰り出される。


 大きく上段へ剣を振り上げると、全身の力を一点に集中させ、その首めがけて振り下ろした。


 ズダーーーーーーーン!


 見事断ち切られた首が地面へと転がる。

 遅れてその巨体が大きな音を立てて崩れ落ちた。


 ——火鉱竜は完全にその動きを止めた。


 ふーーーーーーっ。


 全員が大きな息をついた。

 ほんとギリギリだったが、俺たちの連携プレイの勝利だ。


 ピクリとも動かなくなった火鉱竜の傍らから、ニディアがこちらへゆっくりと歩いて戻ってくる。


「ずぶ濡れだったのに、すっかり乾いちゃいましたね!」


 とても火鉱竜にとどめを刺したとは思えない、いつものニディアの声を聞いて少しホッとした気分になる。


 ——が、まだ安心はしていられない。


「カルテ、結界はどうなった?」


 一番気になっていたことを口にする。


「はい、解除されたようです……」


 よし!

 やった!!


 ——と、声を上げそうになったが、カルテの様子がそうさせてはくれなかった。


 彼女は腕を前方にすっと伸ばし、何かを探るように全神経を集中していた。


 そうか。結界が解けたから、この先の状態を調べることができるようになったわけか。


 カルテも大活躍だったのにまだ頑張ってくれてるなんて、ほんと頭が上がらない。

 俺も少しは働かなきゃと思い、改めてこの上層階をぐるっと見回した。


 そこは、大聖堂の広間を思わせる、白壁の広々とした空間だった。

 左右には太く重厚な柱が等間隔で並び、壁面には所々、腰高ほどの手すりが設けられたテラスのような足場が張り出している。


 俺たちが出てきた場所のちょうど反対側には、大きな扉がそびえていた。


 そちらへ向かって一歩足を踏み出したその時、カルテから声がかかった。


「マスター、どうしても行かれるというのであれば、お止めはしませんが——」


 この状況、このセリフ、たぶんこれで3回目のような気がする……。


「カルテ、 それってこの先に——また何かいるってことだよね?」


 みんなで扉の場所まで行き、隙間からそっと向こう側を覗いた。


「あ!」


 示し合わせたように全員が同時に声を上げた。


「向こう、向いてますね」

「うん、素敵な背中だね」

「なんか色違いですね」

「着替えたのかな?」

「そーっと後ろを通ってみます?」

「尻尾、踏まないようにしなきゃね」


 カルテから冷たい視線が飛んできた。


「マスター、 結界が解けたので、ここでも配信ネットワークはつながると思います」


 そうだ! 無事脱出できたら、リンタローに連絡を入れる約束をしてたんだった。

 全然脱出できてないけど、ネットワークがつながるとなればここはもう頼るしかない。


 ——魔導タブレットにリンタローが姿を現した。


「リ、リンタロー……」


 俺の口からちょっと情けない声が漏れ出た。


「おお、脱出できたのか? ウチのサブチャンの連中も心配してたんだぞ!」

「ドラゴン……」

「倒したんだな! やったな!!」

「いや、そうじゃなくて——」

「ん? なに、どうした?」

「ドラゴンマニアの人にまた連絡——つくかな……?」

「ん? どういうことだ? ……というか、それよりおまえたち——」


 リンタローの声は、明らかに戸惑っているようだった。


「なんでいま王宮なんかにいるんだ?」


 俺は顔を上げ、カルテに目をやった。


「はい、マスター。ここはロンディニウム王国の王宮——時計塔の遥か真下の空間になります」

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