第11話 ドラゴンとご対面
さてここからは、カルテ・ブークとの事前調査、リンタローからの情報をもとに策定した計画に沿って進行していく。
その第1フェーズは、これまで何度もやってきた——ブークが湖を左右に分け、土魔法で湖底をせり上げて上空へ移動する工程だ。
俺はもう慣れっこになったけど、足元がそのまま隆起するので初めてだとかなり怖い。
湖水が左右に分かれるのを見て、「おー」と感嘆の声をあげていた初参加のニディアの様子が気になった——が、その心配は杞憂だった。
「わーーーい!」
「ニディア、高いとこ大丈夫なんだ……」
「わたし高いとこ大好きなんです!」
元気いっぱいの声が返ってくる。
俺たち4人を載せた円柱状の湖底はぐんぐんと上昇し、軽い衝撃とともに空の裏側に到達した。
さて、ここからがいよいよ本番。
第2フェーズとなる。
「ボスっ。ブークがここ数日で磨き上げた熟練の技、見せちゃいます!」
数日で磨いたモノを熟練と呼ぶかについては疑問だが、コレが今回の肝になるのは確かだ。
「ブーク、頼んだ!」
「イエス、ボス!」
調査の結果、この上の空間——ドラゴンが鎮座する層には水がないことがわかっている。
そして水魔法にはその素材となる水が必要だ。
水のない空間での戦いとなるとブークは土魔法しか使えなくなり、発揮できる力が半分になってしまう。
守りが得意なブークとはいえ、パージの復帰の目処が立たない以上、戦力としてはとても貴重だ。
水がなければ戦えない。
なら——持ち込めばいい。
水なら一応ある。
遥か下方にだけど。
じゃあ、引き上げるか!
ということで、ブークに課したのが熟練の技?の習得だったわけだ。
「それじゃボス、やっちゃいます!」
ブークが湖底からせり上げた巨大な土の円柱——そのちょうど中心に手を置いた。
その瞬間、中央部分だけが侵食されるように下方へとめり込んでいく。
円柱の外側だけを残して中心部分を空洞にする。そう、大きなパイプを作ろうとしているのだ。
パイプを作った後はここに水を引き入れる。
ブークが湖底に位置する筒の最底辺に横穴を空けた。
空いた穴からは水が勢いよくパイプ内に流れ込む。その勢いのまま、水魔法でパイプの上部へと水をさらに上昇させていく。
グォォォォォーーーーーッツ!
という音が空の裏側の空間にこだまする。
水圧で空気がピリピリとするのを肌で感じた。
筒の内壁を打ちながら逆流してくる水は、ものすごい速さでこちらへ到達しようとしている。
「みんな階段の方向へ退避だ!」
俺たちが駆け出すのと同時くらいに、地下水脈を掘り当てたような巨大な水柱が上がった。
噴き上げた水は、この空の裏の狭い空間を瞬く間に満たしていく。すぐにでも水かさが俺たちの頭を越えそうな勢いだ。
階段の一番上、スライドする扉をずらして全開にした。
この上は人ひとり分の空間——石棺だ。
この石棺の上蓋を最後に水圧で飛ばして、そのまま上層階へとなだれ込むというのが俺たちの立てた作戦だった。
水がいよいよ足元にまで迫ってきた。
——と思ったのもつかの間、もう膝まで浸かってきた。
みな不安に感じているかと思い、周りを見る。
——が、案の定、不安そうなのは俺だけで全員ケロッとした顔をしていた。
ニディアなんて、満面の笑みを浮かべている。
「こんなことなら、水着持ってくれば良かったですね」
——ほんと、この状況でよくそんなこと言えるな。
水位はさらに高くなり、俺たち4人は身を寄せ合った。水圧と浮力で、全員が石棺の上部へと吸い寄せられていく。
ついに水位が口元を越え、押しくらまんじゅう状態になった。
あ……。
図らずも、いろんな子のいろんな場所が当たってる。
……なんか柔らかい。
みんなの顔を見ると、口を動かしてなんかブクブク言っている。
(アカツキさん、わざとですね)
(マスター、謹んでください)
(ボス、ブークの魅力的な肢体に我慢できなくなったです?)
なにを言っているかは、だいたい察しがついた。
主にカルテの視線が厳しい。
いや、これを狙って、この作戦にしたわけじゃないからね。
息が保つうちに、ブークに最後の一押し、水圧をさらに上げて、蓋を吹き飛ばしてもらう。
(ブーク、行け!)
(あいよ!)
スバーーーーーーーーン!!!
爆音とともに、ついに石棺の蓋が開いた。
大量の水とともに、上層階に投げ出される俺たち。
急いで視線を上げる。
見上げた先——そこに、石棺の隙間から何度も目にしたあの火鉱竜がいた。
その巨体は、俺たちの十倍はあろうかという大きさだ。
鈍く光るウロコに覆われた全身。
長く伸びた尾は、別の生き物のように地の上をくねくねとうねっていた。
鋭い眼光で俺たちを睨み、一歩一歩ゆっくりとこちらへ歩み寄って来る。
ギャヤォォォォォォオーーーーー!!!
突然の咆哮。
そして、火鉱竜は翼を広げ胸を張り、上体を後方に大きく反らした。
「来るぞ!」
——次の瞬間、長い首をしならせながら、暗紅色の火焔が弧を描くように口から放たれた。
それは何人もの冒険者を灰にしたという、火鉱竜の悪魔のような攻撃だった。




