プロローグ 地球最後の日の配信
「あー、あー、聞こえてるかな?」
俺の第一声を受けて、早速コメントが流れ始めた。
:キターーー
:待ってたぞ!
:音声おk
:まさか本当にやるとは思わなんだ
:ネットワーク、まだ大丈夫なのか!?
アトラス彗星からの隕石群が地球に降り注ぎ始めて、はや一週間。
最初の大パニックが収まると、人々はどこか達観したように、世界の終わりの日々をそれぞれのやり方で過ごしていた。
:すげー同接
:おい、もうちょいで5000行くぞ!
:おまいら暇なんかw
:まあ、もう逃げるとこないしなー
:最後は家族と穏やかに過ごすとかないのかよ〜
:えっと、家族ってなんですか?
:ココ、さびしいヤツばっかだなw
:おまえもなw
:アカツキ、今日はどこから配信してるんだ?
「自宅からだよ」
旅系の配信者としてあちこち飛び回っていた俺も、ここ数日はずっと家に引きこもっていた。
——とはいえ、独り身の俺には、世界の終わりだからって特別やることもない。
そんなわけで、たぶん地球最後の日になるだろうこの日も、俺はいつもどおりカメラとマイクの前で喋ることにしたのだ。
これまで俺の配信を支えてくれた、日本発の配信プラットフォーム<アイ・チューブ>。
八百万の神が守ってくれているのか、数あるサービスの中で、なぜかこいつだけが今日まで生き残っていた。
:海外のネットワークはここ数日で軒並み壊滅みたいだな
:日本製は昔から丈夫で壊れないって決まってるからなw
:さすアイ
:いやでも、さすがにおかしくね?
:それな
:陰謀論キター
:んで、アカツキ。最後は何やるんだ?
「えっ、なんかやらないとダメかな?」
:は?
:はぁ?
:草
:おまえなー
:【悲報】アカツキ、なにも考えてなかった模様
:リンタローは、いま酒飲みながら蕎麦作ってるぞw
:なんでも年越し蕎麦らしい
:逝く星、来る隕石とか言ってるw
リンタローというのは、俺も懇意にしている料理系配信者だ。
いつも酒を片手に作り続けるスタイルで、人気もあるがアンチも多い。
にしても最後までチャンネルのコンセプトを守り切るとは、まったくもってアイツらしい。
「じゃあ俺も、旅系の本領を発揮するか!」
リンタローに触発された俺は、カメラをスマホに切り替えると外へ飛び出した。
空を見上げると、墨を溶かしたような黒雲が吸い込まれるような速さで流れていた。
時折真っ白な閃光が漆黒を切り裂く。
生暖かい風がほおを叩き、低い地鳴りが絶え間なく身体に響いた。
ふと配信画面の端に目をやると、一度は7000近くまで膨れ上がった同接数がじわじわ減り始めていた。
:あー、ウチのまわりそろそろダメそうだ
:ワイんとこも
:じゃあ、ちょっと早いけど、みんなおつかれ!
:おつー
:乙!
:あ、でも俺、実は転生するんだ
:お、奇遇だな、俺もなんだ
:そっか、俺はこれから異世界転移なんだけどw
:流行ってるな、異世界モノwww
:そしたら折角だし、ここのみんなでクラス転移しようぜ!
:クラスってなんだよ?w
:こんな女子率低いクラスは嫌だw
:仕方ないだろ。アカツキ、女子人気低いんだから
:なんでだろな、見た目そんな悪くないのにな
:なんかちょっと頼りなさそうだからかな
:あー、たしかに
「おい、おまえら、最後だからって好き勝手言ってるだろ……」
:來世のために反省会開いてやってるんだぞ
:ありがとーだろ、ここは
:そうだ!そうだ!
:ほんと、そういうとこだぞw
:どういうとこだよ?w
突然、目もくらむような光と、それに続いて耳をつんざく爆音が轟いた。
地面がゴゴゴッと唸りを上げて揺れ始める。
そろそろこっちも限界か。
もう1分も持たないだろう。
「わかった! じゃあ俺も最後にお願いするかな」
やっぱ最後は明るく配信を締めたい。
俺は手を胸に当て静かに目を閉じた。
「どうか、來世はモテモテでありますように……」
:あはは
:素直でよろしい
:神様、俺もよろしくです
:あ、俺はハーレムで
:最後のお願いがそれでいいのかよw
:モテモテ通り越して、女難だったりしてw
:うぁー、ありそー
「じゃあ、みんな、これまで本当にありがとー!」
足元の揺れが一段と激しくなる。
もはや立っていられず、俺は地べたに転がるように座り込んだ。
:こちらこそー
:乙〜
:ありがとう!
:楽しかった〜
:またなー
:
すごい速さで流れていたコメントが徐々に間隔を空け、その数を減らしていく。
ああ、これで本当に終わりなんだな。
——と思った。
——その瞬間だった。
「!」
タイムラインの中に、見覚えのないアイコンがあった。
それに続くコメントに目をやる。
『識別個体の記録完了、対象を保存しました』
……なんだって!?
メッセージが上端へ流れていく。
俺は慌てて画面をスワイプして追いかけた。
——すると、ついさっきまでそこにあったはずのメンバーのコメントは消え失せ、代わりにタイムラインは、
対象:アーカイブ済み
対象:アーカイブ済み
対象:アーカイブ済み
……
——という表示で埋め尽くされていた。
「……なんなんだ、これ!?」
誰かのいたずら?
ウチの視聴者ならやりかねない。
でも——
突如、画面上部にアラートが点滅する。
『再構築プロセスを開始します』
その文字が、まるでこちらを見ているかのようにわずかに揺れ、次の表示に切り替わる。
『初期化:進行中……』
そこに、ひときわ眩い閃光が走った。
——次の瞬間、俺の意識は真っ白な光に飲み込まれ——そして、ぷつりと途切れた。




