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7 未完成の術式

 冒険者ギルドで討伐クエストを受けたレクスと、そのレクスの戦いを見学するためについてきたアナは、町のすぐそばのゴブリンが出現したという場所へとやって来た。


 そしてそこにいたのは、確かにクエストの内容通りの普通のゴブリン三体。

 周りには身を隠せそうな所などあまりないため、これ以上の敵が潜んでいる可能性は限りなく低い。


 そこで今回レクスは、特に小細工など使う様子もなく、正面からその三体のゴブリンのほうへと向かって歩き出した。

 だがある理由から、アナはそんなレクスの行動を心配する。


「あ…あの、レクスさん、いくら普通のゴブリン相手でも、三体集まっている所に正面から向かっていくのは危ないんじゃ…」

「何でだ?」

「あの…ですね、わたしが作った術式なんですけど、光属性の術式は参考に出来るものが何もなかったので、ものすごく長くて複雑な術式になっちゃったんです」


 アナが作ったあの閃光の魔法の術式は、他の属性の魔法でいえば、大掛かりな上級魔法並みに複雑な術式となってしまっている。


「この魔法なら術式はもっと短く簡単なものに出来るはずなんですけど、今の私の知識だけじゃそこまで最適化できなくて……」


 アナが心配しているのは、術式がやたらと長くなってしまったために、魔法発動の際に大きな隙が生じてしまわないかということである。

 だがレクスはそんなアナの心配など無視して、すたすたとゴブリンたちのもとへ向かってゆく。


「レクスさんっ!」

「問題ない」


 レクスはそう口にすると、一気にゴブリンの目の前へと間合いを詰めていった。

 そしてゴブリンが接近してきたレクスに対して武器を構えようとした瞬間に、レクスは三連続でゴブリンそれぞれの顔に向けて閃光を放ち、ゴブリンの動きを止めてしまった。


 こうなったらもう、あとはゴブリンの急所を切り裂くだけである。

 あっという間にゴブリン三体は片付けられて、これでクエストは完了。


「なかなか使えるな」


 レクスはあの術式を実戦で試してみた結果にかなり満足している様子。

 だがその一方でアナはというと、何か腑に落ちないことがある模様。


「レ…レクスさん、どうやって三連続で魔法を発動させたんですか?」

「どうって、普通に三回使っただけだが」

「あの術式、全然最適化がされてないので、上級魔法くらい長くて複雑な術式なんですよ」

「それが何か?」

「普通上級魔法の術式は、腕の立つ熟練の魔導師さんでも、構築するのにちょっとは時間がかかるものなんです」

「……は? あの程度の術式の構築なんて、無理やり光を前方に集中させるのに比べたら、はるかに簡単なんだが」


 レクスが力業で放っていたあの閃光の魔法を使用するには、大量の魔力の流れを無理やりコントロールするために、相当卓越した魔力制御技術が必要になってくる。

 そしてレクスはそれを行い続けていたおかげで、ただの上級魔法程度の術式であれば、ほんの一瞬で構築してしまえるほどに魔力制御技術が上がっていた。


「この術式は魔力消費も少なく簡単に使えるし、使い勝手は申し分ない」


 それはあくまで力業で発動させていたあれと比べての話であって、ただ光らせるだけの魔法に上級魔法並みの術式が必要というのは普通に使い勝手が悪い。

 だがそんなことを全く気にしないレベルで、レクスの技術が並外れているのである。


 おそらく今後どんな光魔法を開発することが出来たとしても、それが全ての光属性魔導師にとって使い勝手のいい魔法となるためには、大勢の魔法研究者の手によって長い時間をかけて改良していく必要がある。


 そもそも神聖魔法を使う光属性魔導師は、自ら術式の構成を行うことはなく、そういった部分はほぼ神に丸投げしているような状態なので、魔力の制御技術に関しては他の属性の魔導師ほど磨かれていない。


 つまりろくに最適化もされていない、作り出されたばかりの光属性魔法を実用レベルで使いこなせる人間は、おそらくレクスくらいしかいない…ということである。

 その事実に気づいたアナは、心からレクスの存在に感謝する。


「あ…ありがとうございます、レクスさん…。この世界に…存在していてくれて……」

「は?」


 アナの涙を流しながらのその感謝には、さすがにレクスもちょっと困惑していた。

 そしてそんなレクスにアナは、ありったけの思いを訴えかける。


「レクスさんっ!」

「な…何だ?」

「あの白いゴーレムの光の剣を扱える人は、レクスさん以外存在しません! 他の光属性魔導師さんでは多分無理です。だからどうかお願いします、レクスさん。わたしと一緒に、あの光の剣を…」

「まあ、別に構わんが」

「ですよね。やっぱり無理……えっ?」


 また断られるのではないかと思っていたアナは、レクスがすんなり了承してくれたことに驚き、一瞬体が固まる。

 そして…


「本当の本当にいいんですか?レクスさん!」

「だからそう言っているだろ」

「ありがとうございます、レクスさん! これでやっと、あの光の剣を作ることが出来ます。本当にありがとうございます、レクスさん!」


 そう歓喜しながらレクスの手を握るアナ。


「言っておくが、俺はあんな嘘くさい本に書かれていたものが、本当に作れるとは思っていないからな。閃光の魔法の術式が有用だったから、その対価の分だけ手を貸すだけだ」

「それで大丈夫です。レクスさんが協力してくれるのなら、必ず光の剣は完成しますから。ふふん」


 アナはやけに自信満々な顔でレクスの目を見つめる。


「まあ、勝手にすればいい」

「はい、勝手にします!」





 そのころ冒険者ギルドでは……。


「なんだか今、レクスさんがツンデレな発言をしていたような気が……って、さすがにそれはないですよね、レクスさんに限って。私もテンション上がって、ちょっとおかしくなっちゃってたのかな」


 でもベルの勘は結構当たっていた。

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