5 本物の光魔法
レクスがアナの依頼を断ってから一週間後、再びアナは冒険者ギルドへとやって来た。
始めて冒険者ギルドに来たときのような、周りの冒険者たちに怯えている様子はどこにもない…というか、もはやそんな余裕はどこにもないといったくらいに、疲れ果ててふらふらな様子である。
「うっ…ああっ……」
「アナちゃんっ!」
倒れそうになっていたアナを慌ててベルが受け止める。
「こんなにもボロボロになって、大丈夫なの?アナちゃん」
「大丈夫…ですよ、ベルさん…。それよりも…これを……」
そう言いながらアナは一枚の紙をベルに差し出した。
「これ?」
「はい…。すぅ……」
アナはベルがその紙を受け取ったのを確認すると、ついに気力と体力が限界に達してしまったのか、ベルの腕の中で眠りについてしまった。
そしてベルはアナから受け取った紙が何なのかを確認してみたのだが…
「何これ?」
ベルには全くもって理解不能な文字のような記号のようなものが、その紙にはびっしりと書き込まれていたのだった。
その後受付嬢の仕事に戻ったベルは、仕事の手が空くたびにその紙の内容を何度も確認してみるものの、やはりこの紙に書かれているものが何なのか全く分からない。
そしてそのことをアナに聞こうにも、アナは相当疲れていたようで完全にぐっすりお休み中なため、さすがに起こすわけにもいかない。
するとそんなところにレクスがやって来る。
「何かちょうどいい討伐クエストは…」
「あっ、レクスさん!」
レクスが来たことに気づいたベルは、受付嬢の仕事に戻るために手にしていた紙を一度カウンターの上に置いた。
するとそれが目に入ったレクスは、すかさずその紙を手に取った。
「あ…あのー、レクスさん、その紙…」
「術式か? いったい何の術式だ? あまり酷似するものがない、初めて見る術式のようだが…」
「それ、アナちゃんが持ってきたんですけど…」
「あいつが? ……で、そのあいつはどこにいる?」
「ここですけど」
ベルは自分の隣を指さした。
そこでレクスが受付カウンターの後ろをのぞき込んでみると、椅子の上でアナがすやすやと眠っていた。
「何だかものすごく疲れているみたいなので、起こさないであげてくださいね」
「すぅ……」
「……………」
「レクスさん?」
レクスは術式らしきものが書かれた紙を手にしたまま、受付カウンターから離れていく。
「レクスさん、クエストは…」
「……………」
「聞こえてない?」
レクスはその紙に書かれた術式らしきものを、ずいぶんと真剣な目で眺めながらぶつぶつとつぶやきだし、もはや周りの声など一切耳に入っていない様子。
それから数時間後……。
「ん……んみゅ……」
「あっ、アナちゃん。おはようございます」
「……ふぇ? ……ここ…どこ?」
「冒険者ギルドのカウンターの後ろですけど」
「……ん? あわっ…わわわっ! わたし、もしかして寝ちゃってましたか?」
「ええ、ものすごくぐっすりと」
「ご…ごご…ごめんなさい、ベルさんっ! 色々と、ご迷惑をおかけしてしまって」
目覚めて早々アナは、何度も頭をぺこぺこと下げながらベルに謝っている。
「べ…別にいいのよ、アナちゃん。何もそんなに謝らなくても…」
「で…でもぉ…」
「それよりもアナちゃん、あの紙、いったい何だったの?」
「えっと、あれはですね、その…」
「ずっとレクスさんがあの紙とにらめっこしながら、ぶつぶつとつぶやき続けているのよ」
「えっ?」
そしてアナはレクスの姿を確認すると、すぐさまカウンターの後ろから飛び出して、レクスのもとへと駆けていった。
「この術式の構成は……だがしかし……」
「レ…レクスさんっ、その術式はレクスさんの閃光の魔法の術式です!」
そう言いながら自分の前に現れたアナに、レクスは問う。
「いったいどうやってこれを作った?」
「それは…これです!」
「魔導鏡か」
「はい」
アナが取り出したその魔導鏡というアイテムは眼鏡型の魔導具で、それをかけると魔力の流れを目でとらえることが出来る。
「レクスさんがゴブリンと戦っていたとき、これで魔力の流れを観察して記録を取っていたので、それをもとに術式を作りました」
「使えるのか?」
「わたしは魔導師じゃないので、まだ実際にその術式を試したことはないですけど、何度も確認したので、術式の構成自体は間違っていないと思います」
「そうか」
するとレクスは突然右腕を真上に上げた。
「レ…レクスさん?」
「この魔法なら被害は出ないし、試しても問題ないだろ」
するとレクスは即座に術式を構築し、魔法を発動させていく。
レクスの手のひらから真上に放たれた、強烈な閃光の魔法を。
「あっ…あ……レクスさん、それ…」
「使えるな、普通に」
この日ついに、この世界で初となる、人の手で作り出された本物の光魔法が誕生したのであった。




