4 白きゴーレムの書
「ほらレクスさん、見てください! この白いゴーレム、光の剣で戦っていますよね。だからきっと、神聖魔法以外の光魔法はあるはずなんです」
アナは嬉々としてそうレクスに語るものの、レクスはこの本の内容をかなり疑っている様子。
「そんな出どころも分からない本に書かれていたものが、本当にあるとでも? どうせただのまがい物…」
「まがい物なんかじゃありません! だってこの本に書かれている光の力のうちの一つは、もうすでに生み出されているんですからっ!」
アナはそう力強く宣言すると、この異界の書の別のページをレクスに見せつけた。
それは、紫色の一つ目のゴーレムっぽいものが描かれているページである。
「レクスさん、この紫のゴーレムが使ってる力を見てください! これです!」
「光で敵の目をくらまそうとしている?」
「そうです、その通りです。そしてこの紫のゴーレムの力は、もうすでに光魔法としてレクスさんが使っているんです!」
まさかの自分が使う魔法との一致に、レクスも少しばかり驚いている様子である。
そしてベルはアナの目の輝きを見て、あのときめきは完全にレクスに対しての恋愛感情などではなく、異世界のゴーレムと同じ魔法に対してのものだったということを確信してしまい、とてもがっかりしている模様。
「レクスさん、あの閃光の魔法はどうやって作ったんですか? 術式はいったいどうなっているんですか? 光魔法の術式なんて一つも見たことがないので、ものすごく興味があります!」
紫のゴーレムの力と同じレクスの魔法に興味津々なアナは、席から立ち上がり、ものすごく前のめりな体勢でレクスに尋ねてくる。
しかし、その質問に対する答えをレクスは持っていなかった。
「術式などない。光魔法の術式は俺も知らん」
「えっ? じゃあ、どうやってあの魔法を…」
「光属性の魔力を放出すると、ほんの少しだが光を放つ。その光の方向を前方にのみ集中させて、より大きな魔力で強く光らせる。ただそれだけだ」
つまりは大量の魔力と無理やりな魔力の流れの制御による、割と雑な力業である。
こうしてこの閃光の魔法がちゃんとした魔法でないことを知らされてしまったアナは、そのことにがっかりするかと思いきや…
「す…すごいです。そんなこと、普通の魔導師さんじゃ絶対に無理ですよね。それだけの光を放つには、いったいどれだけの魔力量が…。それにその量の魔力を制御するのにも、相当な技術が必要なはず……」
レクスの話を聞いたアナは、ものすごくうれしそうにつぶやいている。
そして…
「レクスさん、わたしと一緒に光の剣を誕生させましょう! 閃光の魔法を自力で作り出したレクスさんなら、きっとこの光の剣だって…」
レクスこそが白きゴーレムの光の剣を誕生させる存在だと確信したアナは、満面の笑みでレクスにそう申し出る。
だがしかし…
「光の剣? そんなものが本当にあるわけないだろ」
「えっ?」
「そもそも何でただの光で敵が斬れるんだ。ただの光には攻撃力など存在しない」
「で…でもっ、レクスさんの閃光…」
「あれは偶然だ。そんなに大それた能力じゃないから、たまたま一致したに過ぎない」
そう、本当にたまたま一致しただけである。
「というわけで、俺は結果の出る見込みがない研究に協力することは出来ない。話はこれで終わりでいいな」
「あ…あのっ…」
「じゃ……」
こうしてアナからの依頼を断ったレクスは、さっさと一人でこの部屋から出ていってしまった。
そして期待を裏切られてしまったアナは、ただただ呆然としている。
「ご…ごめんなさいね、アナちゃん。レクスさん、基本的に人の話を全然信用しない人だから、あれだけ話を聞いてくれただけでも奇跡みたいなものだし、あまり気を落とさないで…」
「だ…大丈夫ですよ、ベルさん。わたしは、だい…じょう…ぶ……」
ベルの目には、アナの様子が全然大丈夫そうには見えない。
そしてベルは、自分がこの冒険者ギルドの受付嬢になったばかりの、四年ほど前…十七歳のころのことを思い返す。
この冒険者ギルドの受付嬢となったベルの最初の仕事は、とある新米冒険者のギルド登録であった。
それは当時十五歳の真っ白な髪の少年…。そう、レクス・ヴァンダムである。
ベルが最初に担当したその冒険者、レクスは順調に冒険者としての成果を上げていき、それはベルとしても喜ばしいものであったものの、他の冒険者たちからはそれがあまりよく思われていなかったこともベルは知っている。
だがレクス自身はあまり他人に興味がない人間で、他の冒険者たちの声などあまり気にしていないと思っていたので、ベルはギルドの職員が冒険者たちの人間関係に口を出すのもよくないと思い何もしなかったわけだが、そのことをベルが後悔するのは少し後のこと。
ベルはあるとき、自分の受付カウンターに誰か人がいて、そして他の受付嬢の手が空いている場合でも、レクスは必ず自分の所に来ていることに気づく。
それで最初はレクスから結構気に入られているのかも…などと思っていたわけだが、実際はそうではなかった。
周りの冒険者たちからの度重なる誹謗中傷により、レクスは他人を全く信用しない人間と化していたのである。
もちろん冒険たちとは違いギルドの受付嬢たちは、特に問題も起こさず十分に成果を上げているレクスに対して表立って悪口を言う者はいなかったが、すでにこじらせまくっているレクスにしてみれば、よく知らない人間は全て信用できない存在。
だから最初からずっとレクスのことを担当していたベルだけが、多少は信用してもいいかと思える存在であったというだけなのである。
そのことにベルが気付いたころにはもう手遅れで、レクスはもうほぼ完全に自分以外の人間とは関わらない存在となっていて、ベルはこれまで何もしてこなかった自分に結構後悔した。
だからこそ、せめて自分だけはレクスの味方でいようと誓っていたわけだが、そこにこのアナの登場である。
レクスに対してずいぶんと好意的なアナの姿を見て、もしかしてこの子ならレクスの心を開けるのでは?
もういっそくっついちゃえ…と思っていたのだが、やはりレクスのこじらせっぷりは甘くはなかった。
「ごめんなさいね、アナちゃん。私が…私がもう少し早くなんとかしていれば、レクスさんがここまでこじらせることもなかったはずなのに。私は四年間も何を…。ああっ……」
「ベ…ベルさん?」
「私の…全ては私のせい…」
ベルは過去のことを思い返して自責の念に押しつぶされそうになっている。
「ベルさんっ、ベルさんは何も悪くないですからっ!」
「アナちゃん…」
「レクスさんに信用してもらえなかったのは、ただ単にわたしの思いが伝わらなかっただけです。わたしがもっと、白いゴーレムと光の剣の魅力をうまく伝えられていたら……」
それは正直あまり関係ないと思う…とベルは思った。
「ベルさん、わたしはあきらめないですよ。わたしは絶対に、レクスさんと一緒に光の剣を誕生させますから」
「ほんと?アナちゃん」
「はい」
アナのその決してあきらめないという意志のこもった笑みは、過去のことに嘆いていたベルに少しだけ希望を与えた。
「それでアナちゃん、次はどうするの?」
「それは……まだ考え中です」




