3 これはフィクションです
あれから二日後、冒険者ギルドへとやって来たレクスに受付嬢のベルは告げる。
「レクスさん、ご指名の依頼が来てますよ」
「そういうのはパスで」
だが即行で断られた。
「どうして断るんですか、レクスさん。指名クエストですよ、指名クエスト」
「だからそういうのがめんどいんだよ」
他人を信用しないレクスは、自分をわざわざ指名してくる奴など絶対に何か裏があると思っている。
「得体の知れない奴の依頼など受ける気はない」
「得体が知れない人なんかじゃないですから! かわいい女の子ですから!」
「つまりハニートラップか」
「いえ、全然そんな感じの子じゃなくて……もういいから来てください!」
このままいくら話しても無駄だと悟ったベルは、もう無理やりにでもレクスを依頼者の待つ部屋へと連れていくことにした……が…
「レクスさん、来てくださ…」
「いかん」
「うっ……」
無理やり引っ張っていこうにも、ただの受付嬢であるベルの力では、一応剣士でもあるレクスを動かすことなどかなわなかった。
そこでベルは最後の手段に出る。
「来ないと今後、レクスさんには割のいい討伐クエストを紹介しませんよ!」
「うっ…」
レクスは絶対に誰ともパーティーを組まず常にソロで討伐クエストに出向いているため、受けられるクエストの種類もある程度限られている。
故にレクスにとって割のいいクエストを紹介してもらえなくなるのは、冒険者としては結構死活問題。
「わ…わかった。話…だけは聞く」
レクスはしぶしぶ話だけは聞くことを了承した。
「では依頼者さんのもとへ行きましょう」
「うぅっ……」
こうしてレクスは依頼者の待つ部屋へと連れていかれることとなった。
「お待たせ、アナちゃん。レクスさん連れてきたわよ」
「あ…ありがとうございます、ベルさん」
冒険者ギルドの奥にある個室でレクスを待っていた依頼主は、昨日レクスの目の前で気絶した少女、アナであった。
「ささ、レクスさん、席について」
ベルはレクスをアナの前の席に着かせる。
そして満面の笑みでレクスのことを見ているアナを見てベルは思った。
アナはレクスの戦いぶりを見て指名をしたのだから、依頼の内容はきっと護衛クエストに違いない。
護衛対象の女の子とそれを守る冒険者だなんて、恋のロマンスが始まる最高のシチュエーション…と。
だがそれと同時にベルは別のあることも思い出した。
それはアナが冒険者ギルドに光属性の魔導師を探しに来ていた…ということである。
光属性の魔導師を求めているのなら、当然必要とするのは神聖魔法。
だがレクスは神聖魔法を使えないわけで……
「ん?」
ベルはちょっと頭の中が混乱してきた。
そしてそんな状況の中、アナの口から今回の依頼内容が告げられる。
「あの、えっと…ですね、わたしは…そのっ、光属性の魔導師であるレクスさんに、ぜひともお願いしたいことがありまして…」
「俺は神聖魔法が使えない。つまりその依頼は却下だ」
「ま…まままっ…待ってください! わたしが依頼したいのは、神聖魔法じゃない光属性魔法開発のお手伝いです!」
そう、これこそが今回のアナの依頼内容であった。
「光属性以外の魔法って、どれも人の手で作り出されて、そして長い年月をかけてより強くより扱いやすく改良されて、今の魔法があるわけじゃないですか」
「まあ…」
「けれど光属性の魔法は神託により神様から与えられた神聖魔法のみで、人の手で作り出された魔法に関する記録が一切ありません。それってやっぱり、何か少しおかしいと思うんです。だからわたし、神聖魔法じゃない光属性の魔法を作ってみたいんです!」
始めて冒険者ギルドに来たときはずいぶんと気弱そうに見えた少女が、目をキラキラと輝かせながら魔法について熱く語っている。
あの目の輝きって、もしかして恋のときめき的なものではなかったの?…と、ベルはちょっとがっかりしてきている模様。
「わたしは魔法研究者を目指してますけど、わたし自身は魔法を使えるほどの魔力がないので、どうかレクスさん、わたしの研究を…」
「無理だな」
「えっ?」
「光属性なのに神聖魔法の使えない俺が、同じことを考えていないとでも思ったか?」
「それは…そのっ…」
「神聖魔法ではない光魔法の可能性については、すでに散々調べつくした。そして結局何も得られなかった。以上だ」
そう、レクスはもうこれ以上何をやっても無駄だと悟っている。
だからやはりアナの依頼を受ける気はない模様。
しかしそんなレクスにアナはある一つの可能性を見せる。
「可能性ならあります…」
「は?」
「この世界の過去の記録にはなくても、異世界には神聖魔法じゃない光魔法が存在しているんです」
「いったい何の世迷言を…」
「本当にあるんです。この異界の書には、光の剣を手にして戦っている白いゴーレムの姿が描かれているんです!」
アナがレクスに見せた異界の書には、確かに光の剣を手にして戦っている白いゴーレムっぽいものの姿が描かれていた。
だがこの世界の人間は、この本が書かれた異世界のことについてあまり詳しくないため、これがゴーレムでも光の魔法剣でもなく、ビーム兵器で戦う巨大ロボだということを全く知らない。
そしてこの本に書かれている内容が、完全にフィクションであるということも……。




